人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

西脇順三郎『体裁のいい景色』2

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画像の説明をしていなかった。画像2は思潮社「現代詩読本・西脇順三郎」1979表紙(85歳)、画像2は同書掲載の絵画作品。画像1は東京創元社「全詩集大成・現代日本詩人全集」1955の西脇順三郎全詩集の口絵写真で、「著者近景」ならぬ「著者遠景」(62歳)。もちろんこんなふざけた写真を載せたのは西脇だけだ。
『体裁のいい景色』(大正15年)は戦後の詩集「近代の寓話」の巻末に拾遺として収められた『修辞学』『自然詩人ドルペンの悲しみ』『ESTETIRQUE FORMAINE』と共に詩人生前の定本全詩集からは外されている。第一詩集「Ambarvaria」1933は詩集刊行直前に一気に書かれた作品が多いが、大正15年~昭和2年の作品からも『悲歌』、連作長篇詩『失楽園』、散文詩『馥郁タル火夫』が収録されている。確かに『体裁のいい景色』や『自然詩人ドルペンの悲しみ』ら拾遺詩篇4篇は一段落ちる出来映えなのは否めない。しかし西脇順三郎は詩人にはめずらしく生前未発表・詩集未収録作品のない人だった。

『体裁のいい景色(人間時代の遺留品)』

(8)
頭の明晰ということは悪いことである
けれども上級の女学生はそれを大変に愛する

(9)
ミレーの晩鐘の中にいる青年が
穿いているズボンの様に筋がついていないで
ブクブクして青ぼったいのは
悪いことである

(10)
女の人が富裕な重苦しい世界を
到る処へ運んでいかなければならないことは
今いっぺん真面目に考えて見なければならない

(11)
銅銭を水に漬けてから使用する方が
礼節に富んだ世界である
然し
沈黙は軽薄なことである
影はあまりに鮮明で面白くない
山の中で寂莫が待っているとは
厄介なやつである

(12)
随分ナマイキな男が
ステッキを振りまわしつつ
木造の家に入って行ってしまった

(13)
夕日が親戚の家を照らしている
滑稽な自然現象である

(14)
一個の丈夫な男が二階の窓から
自己の胸像をさらけ出して
桜んぼの如き慘憺たる色彩を浴びる
(「三田文学」1926年11月)