ただし慣れるまでには時間がかかり、病みつきまでにはさらに時間がかかる。実は筆者も好奇心から手を出したものの、アンジュは野暮ったく、ゴングは二日酔いのように気持悪かった。マグマたるや冗談もほどほどにしてほしい代物だと思った。英米ロックには存在しないサウンドなのだ。
同時期の西ドイツのロックも突拍子もない実験ロックが多かったが、現代音楽やジャズから借りてきたのではなくロックの骨格を持っていた。だから英米でも一定の成功をおさめた。
一方アンジュはシャンソン、ゴングはジャズとサイケの混合、マグマなど幼児教室で聴かせたら集団パニックになるのではないか?ブラック・サバスの『アイアン・マン』を管弦楽とコーラス隊入りでLP両面40分に渡って演奏する。初めてマグマを聴く人はだいたいそういう音楽に聴こえると思う。
さらにこのバンドは惑星コバイアの音楽をやっている(またかい!)。歌詞はリーダーのクリスチャン・ヴァンデ(ドラムス、ヴォーカル)の考案したコバイア語だ(ロシア語とドイツ語をミックスした感じ)。
このコンセプトはアメリカのカルト・ジャズバンド、サン・ラ・アーケストラの発明で、メンバーは全員宇宙人で、宇宙のジャズをやっていることになっていた。サン・ラは黒人ファンのヒーローになった。宇宙では白人も黒人もないからだ。サン・ラは70年代にはファンカデリック/パーラメント、80年代にはプリンスら黒人音楽の指針となったアーティストたちの先駆となった。
だがマグマの音楽もサン・ラに劣らず真剣なものだ。画像1は「呪われし地球人たちへ」1973、画像2は「コーンタルコス」1974、画像3は「ライヴ!」1975。一度買ったら20年は聴けます。