Art Pepper(1925-1982,as)。ウェスト・コースト・ジャズを象徴するジャズマン。リー・コニッツ、ポール・デズモンドと並ぶ三大白人アルト・サックス奏者のひとり。ウェスト・コーストがイメージする自由、陽光、青春、メランコリアをチェット・ベイカー(トランペット)と共に最も体現するジャズマン。それがアート・ペッパーだろう。
明らかにビ・バップに感化されながらもペッパーにはパーカーの影響は一切見られない。初のリーダー作「サーフ・ライド」1952で早くも天才を鮮やかに示す。パーカー在世中にこれほど独自の個性を確立したのは驚異的と言える。
絶頂期は1956年の「モダン・アート」(画像1)まで続き、インスピレーションの奔流のようなプレイがどのアルバムでも聴ける。
翌年マイルス・デイヴィスのバンドと共演レコーディングした「ミーツ・ザ・リズム・セクション」1957(画像2)はスタンダード曲の選曲も良く、バックの演奏も最上で、ペッパーものびのびとしたプレイを聴かせる。おそらくこれが一番人気のあるペッパーのアルバムだろう。良い意味で演奏から力みが抜け、緊張とくつろぎのバランスが格段に向上している。それまでのペッパーの演奏は残像も残さず駆け抜けるような疾走感が長所でもあり短所でもあった。
ペッパーはこのアルバムでリラックスした情感をプレイに載せることに成功した。60年までのペッパーのアルバム(「プラス・イレヴン」1959、「ゲッティン・トゥゲザー」「インテンシティ」1960)はこの路線で進む。資質的にも天才肌のスタン・ゲッツとは親近性がありそうだが、ペッパーは生涯ゲッツを認めなかったという。
ペッパーは長いブランクから75年には復帰作「リヴィング・レジェンド」を発表。悪性のヘルニアと闘病しながら没年まで活発なライヴ出演と30枚におよぶアルバムを残した。「アット・ヴィレッジ・ヴァンガード」1977(画像3)はそれまでロサンジェルスを出ることのなかったペッパーの、初のニュー・ヨーク公演の記録。命を削るような演奏とはまさにこれだろう。ブランクの間にジョン・コルトレーンから決定的な影響を受けたという晩年のペッパーの全貌がこのライヴ(CDで4枚)でわかる。
(原文から大幅削除・改稿しました)