『たんぽぽ』(承前)
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圭よ どえらいことがわいてきたがい
わしは こんなつらい はらのたつめをみるのならしんだほうがましや
おみいのどあほめが 子をはらみやがったど
さあ おまえはどないするど
えんもゆかりもないおみいの子をどないするのど
どこの だれそれの子かは わしには わかっとる
けんど わしは そないな あほうなことをいうてよういかん
おとこより おみいのどあほめがわるいのや
こんな どあほめが よのなかにあるやろか
圭よ おまえは どないするつもりど
わしは もう なんにもしらんど
わしはしんだほうがましじゃ
にしのかきの木をみたら くびつろかとおもうこともあるわ
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おみいはそのまま家においてやって下さい
どこまでも私が後をみます
おみいもお母さんも苦しんでおられましょう 私も工場からかえってからも いろいろ仕事があって手紙をかけませんでした
先日工場でジー・エム・シーのスプリングという十七貫ほどの鉄の棒が足の甲に落ちてきて 骨がくだけて 今病院にいます 会社の病院を出てからでも一月ばかり仕事ができません
それで どうしても金が十円ばかりいりますのでここ半ヶ月ばかりのうちに送って下さい。後できっと返します
おみいのことは くれぐれもひきうけました
さようなら
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おまえが びょういん はいっとるのをよんで おみいとわしは なきぐらしや
けんど わしは 大阪へひとりでよういかん
はようこっちもどってこい
なんにも そないな あむないかいしゃにおらんでもよいわ
そないな あむないしごとをして ひょっとよか ちんをくれるような かいしゃが どうなるど
おみいとわしがまっとるさかい はようもどれ
うちのほうでは もう たんぽぽもさいとる
そないな いきうまの目をくりぬくような大阪がどうなるど
(角川文庫「現代詩人全集第5巻・現代1」より・完)