人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記74

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・3月25日(木)雨
(前回から続く)
喫煙室の会話は医療者側にとっては噴飯ものだろうが、看護婦や他の患者への陰口は愚痴だとして、本心からのぼやきではMさんとYnさん(注1)が双璧だろう。Mさんの名言は、結局ここにいるやつらは酒を止めたいか酒を飲みたいかしか頭にないんだよな、というのがあった。一方、婦長の酒害教室の題目で飲酒の四大誘因=HALT(Hungry,Angry,Lonely,Tired)という話があった後、Ynさんがぼそりとつぶやいたのが、だから(酒が)うまいんじゃねえか…このお二人は両者とも接点のない相手と雑談はしないタイプなので話しているところを見たことないし、間に立って引きあわせようなどとKくんのようなことをしようとは思わない」

「今夜のAAは女性3人男性4人で、前回は見るからに不健康そうな人たちばかりが来たが今回は全員健康そうで、話ぶりも穏健と言っては何だが押しつけがましいところが少なかった(ただ馴染めないのはAAのルールらしいが、Md市AAの某某です、と名乗ると同席会員が某某!と大声で反復するのだが、あれは応援か駄目押しかいずれにしても異様なので勘弁してくれよ、と毎回思う)。やっと開放されて、それなりに貴重な話も聞けたが、Mさんの言うとおり、結局自助グループの連中の話って成功者の話ばかり、な。面白い部分は失敗談の箇所にしかない。失敗者の実物が周りにごろごろいる環境では、病棟内での人間観察として、退院後どちらへ転ぶかわからない人たちどうしの話を聞く方が面白い」

「もう平素の様子からだいたいつかめてきたように感じる。本気で飲酒と手を切りたい人、完全に飲酒を断つ自信はないがアルコール依存症からは抜け出したい人、または一旦入院で飲酒習慣をリセットして改めて考えなおしたい人、さまざまだ。そして本気で飲酒を断ちたい人がそれを実現できるかわからない危うさがある(注2)」(続く)

(注1)Mさんはスリップしながらも存命だが、Ynさんは退院後消息不明を経て遺族から病院に死亡通知がきたらしい。お酒で職も家庭も失くした人だった。
(注2)実際そうなった。というより、飲酒習慣から足を洗いたい人ほどアルコール依存症が深刻だったわけで、退院してしまえば戻ってしまうのは回避困難なことだった。