人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記82

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・3月26日(金)曇り、にわか雨、にわか晴れ、曇り
(前回から続く)
「普段の健康的で家庭的といえばそう、でもまあ一番近いのは学校給食的な(そりゃそうだ)病院食を三食食べているのだから、ことさら花見弁当だからといって誰も期待はしていない。その上おにぎり三個に唐揚げなんていう話を昨日聞かされたばかりだ。紙の弁当箱も至って質素なものだった。移動の直後の疲労した雰囲気の中で、弁当箱は黙々と渡され、黙々と受け取られた。学校や会社の遠足ならここでそれなりの一席があるだろうが、全員配られ終ったのではいどうぞ、程度の合図があったかどうか憶えていないくらいになんとなく昼食が始まり、するととたんに雰囲気が一変した。息を飲む、というのはああいう感じだろう。会場全員が一斉に息を飲み、あちこちからため息すら聞こえた」

「これはどこの高級仕出し弁当だ、という中身がありふれた紙箱の中に盛り合わせてあったからだ。あの時ばかりは普段病院食に不満ばかり言う人でも何も言えなかった。たぶんみんな食料の届いた難民キャンプの難民気分になったはずだ。だし巻き玉子2本・唐揚げ2ケ・シューマイ2ケ・まんじゅう1ケ・缶詰めのみかん、大根と人参といんげんの煮付け、梅干し1ケ、プチトマト1ケ、ゆかりのふりかけのかかったご飯、という豪華弁当だった(例によってKくんから煮付けと梅干しをよこされる。彼は大根も駄目なのだ)」

「やー食った食った、という満足感が会場に広がる。ほぼ全員が食後の一服で臨設喫煙所に集まる。この病院の入院患者はアルコール科に限らずニコチン中毒率が非常に高い。アルコール科を基準に入院生活のストレス発散として喫煙の自由を承認しているので、たぶん入院していなければまったく喫わないか、これほど喫わない人まで四六時中煙草が手放せなくなる。自由化によって供給が需要を上回り、やがて需要も衰退する、というのが資本主義市民社会での一過性流行現象の通例だが、精神病棟という一種の監禁施設ではそんな通例は応用できないのがこうした院内喫煙率の高さからもわかる」

「Skさんとボーイッシュ小学生の会話から彼女がなんと子持ちの主婦で、二年前と較べてどう、今の第三は?もう宇宙人はいるしモグラはいるし滅茶苦茶よ、と話しているからには少なくともこれが二度目のスリップ入院と知り、唖然」
(続く)