人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記104

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・3月29日(月)曇りときどきにわか雨
「夕食をとうに終えて、19時過ぎてもKwが外出から戻らない。きっとバックレたに違いない、という噂が行き渡って病棟に安堵の雰囲気が漂った頃、ひょっこり大声で、飲まないで帰ってきたぜー、と騒ぎながら奥階段(非常時や時間外にしか使われない)からドカドカと帰ってくる。午後から第三病棟から移ってきていたKbくんを始め元第三病棟組(誰もが入院直後はそうなのだが)に菓子を配り、ナースコールだけで買い物チェックは受けに行かないのは第三で手一杯だから来やしないとなめきっているのだ。Skさんみたいに腹黒いが表面はいい人はまだしもKwやKuを指して、昨夜Fさんが第二に来させるの早過ぎるよ、とぼやいていたのを思い出す。Kbくんは肥大漢で容貌はこわいが、KwやKuたちのように有害ではなく、おとなしい」

喫煙室で一服していると連中がコーヒー片手に入ってきたので、ここではまずいですよ、と言うとさすがに出て行ったが、YzさんやHAも再入院を繰り返しているので、連中とは旧知の仲だ。Yz・HAテーブルに集合して菓子やら飲み物やら広げ、どこかの店でくすねてきたのか『禁煙席』の札が立ててある。洒落のつもりか。FさんやKくんと喫煙室で嘆息しあう。そういえば…と彼らに話す。昼頃、誰も使っていない無記名の下駄箱に靴が二足入っていたらしいんだ。誰も心当たりがない。仕方なく看護婦が下駄箱の横のロッカーの上に貼り紙して置いていた。Mさんがぼそっと、無法化してきたな、と呟いてた。してきましたね、って会話したよ。あの人が言うなら本当にそうだ、とKくん。Fさんもうなずく。大会社の経営者だからたいがいのことには動じないが、状況察知力は鋭敏な人なのだ。そして騒いでいる連中に目をやると、『禁煙席』の札に気づいて三人とも一瞬殺意に近い怒りを覚えた」

「部屋に戻ると、Atさんがじゅ、じゅ、じゅう…10年前の脳手術、ですね、と漢字で大きく書く。酒歴下書きには、どういう状況かはわからないが(察しはつく)暴行、盗み、など何箇所も空白を空けて段落が設けてあった。Atさんにとってその空白を埋めるのは大変な作業だろう。いっそ口述筆記でまとめてあげたいくらいだ(注)」(この日完)

(注)実際そうなったが、本人が納得のいく口述筆記は雑誌のインタビュー記事を書くより大変だった。