人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記223

イメージ 1

(人名はすべて仮名です)
・5月13日(木)晴れ
アラン・シリトー死去、享年82歳というのは先月26日の切り抜きだ。朝一番に小川看護婦に声をかけられ(この人は優しい)、第三病棟のナースステーションに採血されに行く。部屋に戻り、AA参加外出の時に買ったマルカム・ラウリー『火山の下』の解説を読み返すが、こんな話だったっけ?旧い翻訳で読んだのは大江健三郎の『「雨の木」を聴く女たち』でしきりに言及されていたからで、県立中央図書館から取り寄せてもらって読んだ。その一、二年後にジョン・ヒューストンが映画化して日本公開もされていたから、たぶんラウリー再評価の気運があったのだろう。その時に再刊なり新訳なり出ていればよかったのに」

「漠然とフィッツジェラルドの『夜はやさし』に似ているな、と当時印象を受けたが、解説を読むと的外れでもない。だがほぼ同時期に読んだ『ベルリン・アレクサンダー広場』や『大理石の崖の上で』、『画廊』『すべて王の臣』や『賢い血』の鮮明な印象に較べるとほとんど憶えていないに等しい。しかしアルコール依存症を描いた小説として画期的とされていて、しかも30年近く後になって自分がアルコール依存症治療入院を体験中にタイミング良く新訳が出て、こうして手にしているとは、そういう縁があるのだろう」

「結局読書しようという気にもならず軽く二度寝して朝食の配膳ワゴンの音で目が覚め、結婚前に猫を飼っていた頃は帰ってきてドアを開けると猫が出迎えに座りこんでたよなあ、キャトフードの缶を開ける音だけでサーッと走ってきたよなあ、パブロフの場合は犬だがこういうのって動物に近づいているってことなんだろうなあ、とどうでもいいことを考える。だったら朝食のワゴンくらいでは目を醒まさないこいつはおれより高等動物なんだろうな、と勝浦くんに声をかけ、デイルームへ向かう。ひげ剃りや洗顔は採血で起きた時に済ませたので、トイレに寄ったついでに少し髪と顔を濡らす」

「朝食後に一服すると、ほんの少量の採血なのに虚脱感がある。早起きと二度寝のせいかもしれない。なんかだるいよ、と勝浦くんに話すと、降谷智子があんたいくつ?と訊いてくる。いくつに見える?55,6歳。45歳だよ、と勝浦くんを指して、彼も同じ。あんたは?と勝浦くん。37、と降谷。そこに尾崎さんが来てたちまち猥談になる」(続く)