人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(39)

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この店にはウェイターはいないらしく、どうやら調理師自身が料理を運んできたようでした。玉子型の胴体の頂点が頭部に当るのか、いわば玉子に目鼻と手足をつけた姿です。この土地でスナフキンは相当異形の姿形にも馴れていましたが、中でもこの調理師はデフォルメの具合が激しい部類でした。
頚椎に当る部位がないということは、とスナフキンは理系らしく(技師ですから)思いました、後ろを向く時不便だろうな。よく幼児が背後の大人に振り向こうとしてバランスを失い激突するが、あれは首が大人のように要領よく回らないので体ごとひねるからだ、と保育士資格も持っているスナフキンは思いました。子供どころか人嫌いのスナフキンがなぜそんな資格を取ったかといえば、母国が福祉推進国家で保育・医療・介護関係の資格取得を単位に選ぶと奨学金が気前良くおりるのです。スナフキンは理系ですが人の心には関心があり、大学の一般教養で数合わせに受講した発達心理学で幼児~児童期の人格形成には興味をそそられました。医療は専門的すぎますが、保育と介護から選ぶなら、
・ガキの子守の方がマシ
と考えたのです。スナフキンはソフトでハンサムでしたので、実習先の保育所でも子供やママさんたちにも人気、実習先の保育士や実習生にもモテモテになり、しまいには全員の女性と関係しましたが(子供以外)、それがバレなかったのもスナフキンの人徳あればこそでした。
それにしてもこの悪臭は、とスナフキンはけげんに思いましたが、リヤカーまたは猫車のようなワゴンにずらりと並んだ皿やお椀、それらはどれも半球状の蓋がしてあり、宿屋から追い出されてから、いや実際は赴任する途上で食べたサンドイッチ以来何も食べていないスナフキンには、蓋さえ透視できるような気がしました。
食器が異なるのは料理も異なるに違いない。あのワゴンは見かけはみすぼらしいが、おそらく調理師の側からは数段収納できるようになっていて、最上部に乗っているものだけでも20種類近くはあるようだ。
しかし料理が着いたのに飲み物が配られている様子はない。ここの連中は乾杯もしないのか?いや、飲み物も一緒に運ばれてきたのかもしれない。すると、
・ハーイお食事ですヨー
と調理師が口を開くやいなや、店内の空気が殺気立ちました。その声はスナフキンにすら激しい嫌悪感を催させました。
次回第四章完。