人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(41)

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第五章。
コイントス
コイン、と言ってもムーミン谷には通貨はないので文献上の知識から考案された偽コインですが、その偽コインはジャコウネズミ博士とヘムル署長の立ち会いのもとヘムレンさんの手のひらに載せられ、スノークが下から叩きあげました。
失礼、大丈夫ですか?
なあに平気だよ。それよりコインが飛んで行ったぞ。探してくれんか?
まずいことにコインは垂直に跳ばなかったのです。それは間近にいたフローレンとスティンキーの眼もかすめ、ムーミン一家のテーブルに跳ね、ミムラとミイの35人兄妹のテーブルの下に潜り、ビフスランとトフスラン夫婦のテーブルの下を走り、トゥーティッキとモランとフィリフヨンカのテーブルの横をすり抜けて、スナフキンの椅子の下で止まりました。レストラン中の、
・今ここにいる人
・いない人
は重い沈黙のなかにいましたから、転がって行ったコイン(偽コイン)が倒れる音ですら巨大なつららが落ちたように響きました。
わっ、と肩ひじついていたスナフキンは自分の肛門の真下から響いた音に驚き、その声に驚いてテーブルから生えたり引っ込んだりしていたニョロニョロもいっせいに硬直しました。実はニョロニョロが硬直した姿を見た住民はムーミン谷にはおらず、コインが倒れたことよりもそちらのほうが驚嘆すべきことでしたが、誰ひとりそのことには気がつかないのがムーミン谷の知的水準を永久凍土と化している原因でもあり、ムーミン谷の存在理由と限界を示しているのです。
それは同時にムーミン谷が世界から結界によって隔絶されねばならない理由でしたが、ムーミン谷の住民たちにはこの谷が全世界で、ここはどこかの大陸の西海岸で北西に大山、その向こうの北西沖にニョロニョロ島、海岸の南西側には二子山があり、東の山脈はおさびし山で、谷の中央には川が流れています。大山と二子山の間には住民たちが水遊びする海岸があり、二子山にはほらあながあってムーミンたちの多目的施設になっており、谷の南北の北部は氷土、谷が平原につながる南部にはムーミン一家の住む家があってその南側の庭にはムーミンママの家庭菜園があり、谷の南はそこから先がありません。しかしスナフキンはその、未知の南からやってきたのでした。
ありましたよ博士、これは裏ですか表ですか?
そんなの私にもわからん。とにかく食事は続くようだな。