人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(44)

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・未登場人物
スニフ。ムーミンパパの旧友の冒険仲間ロッドユールとソースユールのあいだに生まれた、ツチブタに似たトロールの少年で、ムーミンの親友。親子二代のつきあいのため、ムーミン家ではスニフの部屋があるほどもてなされている。臆病だが落ちているものを拾い集めるのが得意。ムーミンに輪をかけたうすのろ。

ですがスニフはこれまでもずっと存在を消していました。ムーミンに輪をかけたぼんくらでしたが、臆病なだけに危機察知能力には長けていたのです。
名前の響きは似ていますがスノークの語源はスノッブ(気取り屋)と同一なのに対しスニフはそのものずばり嗅ぎつけ屋でした。キラキラ光る物には目がないのです。特に小銭と光り物には鋭いカンを働かせました。器用で大胆で知恵のまわる両親の長所をことごとく遺伝しなかったために、スニフは谷でもうすのろの、不肖の二代目扱いされていました。スニフに対して親密なのはムーミン一家とスナフキン、トゥーティッキおばさんくらいのもので、ミイやスノークは当然のことミムラやフローレンにすら小馬鹿にされているくらいです。
ムーミンスナフキンすら見当たらないと、スニフの遊び相手は見えない友だちだけでした。ひとり言を言いながら谷の子どもの遊び場で楽しげにしているスニフが夕方にはよく見られました。両親や親しい人は別として、ムーミン谷の住民誰もがスニフには子どものうちに死んでほしいと願っていました。
ですがスニフが存在を消していたのは住民からの嫌悪を感じていたからではありません。スニフは偽ムーミンを見破っている唯一のトロールだったのです。
初めて偽ムーミンが現れた時、スニフは一瞬で偽者だと看破しました。逆光を浴びてつむじから伸びた三本のアホ毛に気づいたからです。その後もしばしば偽ムーミンムーミン本人になりすましているのにスニフ以外はムーミンの両親すら気づかず、谷での自分の立場を思うとスニフが指摘しても説得力はまるでなさそうでした。
スニフは徐々に活気を増してくるレストランを眺めながら、ああやっぱり偽ムーミンだ、とぼんやり壁にもたれていました。姿を現してしまったら確実にムーミン一家のテーブルに呼ばれてしまう。それは避けたいが事の成り行きは見守りたい。途方にくれて壁にもたれているスニフは、まるでかつてのスナフキンのようでした。