人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記231

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(人物名はすべて仮名です)
・5月14日(金)晴れ
(前回より続く)
「入院だけで終るつきあいじゃないだろ、おれは佐伯くんに一目も二目も置いているんだぜ、と勝浦くんには相当買いかぶられているが、彼がこれまで出会ったタイプの人間ではないというだけのことだろう。非凡でもなんでもないのは自分でもよくわかっている。勝浦くんの方がこれまで、乏しいとは言わないが一面的な人間関係や社会性で世の中を割り切ってきたのだ。精神科入院のなかでまったくこれまでとは異質の人間関係があると知ったのは、それ自体彼には驚きだったのだろう」

「最初のうちは大阪大学理学部博士課程卒業が自己紹介の決り文句だったが、こちらは神奈川大学みたいなイメージしかないから公立私立?西の東大と呼ばれている国立だよ!と言っていた彼も入院患者に学歴の肩書は通じないことにしょげ返り、そのうち出身校を訊かれても誰も知らないようなところですから、とか、大したところじゃないですとか、割と普通の答え方ができるようになった。学歴を誇示するのは品がないと45歳にしてやって気づいたのだ。遠慮がちに答える彼は恥ずかしそうだった」

「鍵は見つかったし退院祝いの本も納得いったしで、二人してデイルームへ行きお茶を汲んでいると、もう灰皿掃除の時間なのに気づいた。今日は勝浦くんが当番なので、喫煙室無人になるのを待って、昼と同様二人で手際よく片づける。吸い殻ネットを流しで絞っていると、降谷智子がコップ片手に見ているので、すこし待っててね。見てるだけ。そうか。水を飲みに来ているんじゃないのか。片づけてネットを掛け替え、流し台のすすぎを終えると降谷が、二人でやると早いわね。声かけてくれれば手伝うよ。いたらね。いたらね」

喫煙室で勝浦くんと掃除後の一服しながらデイルームを見渡す。言ってはなんだが、みんな得体の知れないチンピラばかりだ。金子は昨晩から二連泊、吉村くんと工藤くんも外泊している。自分だってチンピラの一人だし勝浦くんだってそうだ。天気予報では勝浦くん退院の月曜までは晴れが続き、来週の木(佐伯退院)金は雨になっている。入院した日も雨の中ひとりで来た。退院の日も雨の中ひとりで帰るのだ。月曜からは勝浦くんはいないが、それで困るようなこともあるまい。その逆だったら勝浦くんは大変だったろうが」