人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(53)

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ところで、とムーミンパパは小首をかしげました、今はどのくらい経ったのだろう?なんだかあっという間だったような気もするし、いつまで経っても進んでいないような気がするぞ。
当り前だろこのカバ、とムーミンママは優しくほほえみました。ムーミン族の妻は無限の忍耐力があるのです。ケンタウルス座のひとつやふたつ滅んでも彼女は表情ひとつ変えないでしょう。もちろんそんなすごい能力が天性はおろか一朝一夕にできるわけがなく、ムーミンママが今あるのは鬼姑からの過酷な試練に耐えぬいたからでした。
・鬼姑?
姑はどこの世界でも鬼と決まっていますが、ムーミンパパは孤児でしたので媒酌人夫妻がいわば親代り、そして継母はむろん鬼ですので、その権力は鬼に金棒どころではありません。またムーミンパパは絵に描いたようなぼんくらなので、どうしたんだねフローレンその痣は?林をくぐったら木の枝がはねてきたの。そうか、鞭で打たれたのかと思うほどだな。おお大丈夫かフローレン!…平気よ、つい階段を踏み外したの。骨折しているのではないか、まるで思いきり突かれて転げ落ちたようだぞ。フローレン、足を傷めたのか?ええ、靴に画鋲が入っていたの。それはいかん、靴屋に画鋲入りだぞと苦情を言わねば。という調子です。
この仕打ちは新妻の妊娠判明まで続くので、ムーミンママこと当時フローレンはもうそれは夜な夜な(略)。しかもその妊娠は、トロールのような概念的存在には肉体的兆候ではなく、きわめて古典的ですが、
・受胎告知をする天使
として現れます。その時、ベッドの隣ではムーミンパパこと当時ムーミンが悪夢にうなされていました。悪い夢から冷めると商店街の通りに置かれた氷柱になっていた夢です。うわあ、おれは解けるぞ。
フローレンは夫が眠ったのも気づかず、娘時代のバイト先で覚えた上級テクでもう一戦その気にさせようと実践中でしたが、ふと眉間に風を感じると、羽根の生えた手のひらサイズのムーミンが顔の前で羽ばたいていました。フローレンは驚きのあまり噛みちぎってしまうところでしたが、その不細工な天使は驚くな、先ほど汝は受胎した、と告げたのです。なら噛みちぎってもよかったのですが、晴れて彼女はムーミンママとなりました。
ムーミンパパは(偽)ムーミンに訊きました。なあ、どのくらい経ったと思う?
えっ、いつから?
5月15日からさ。