人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

手すりの上の猫

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 住んでいるアパートの外廊下に、一階に集合ポストから郵便物を取るため出てみると、中庭を挟んではす向かいのメゾネットの二階窓のヴェランダの手すりに、ぽっちゃり太った猫がのんびりと座っているのが見えた。向こうもこちらに気づいた様子はあり、猫は警戒心の強い動物だが、これだけ高低差を含む物理的な距離があると何の心配もないのを理解していて、ひょいとこちらを向いたまま伸びをしたりしている。

 水平的な距離なら、猫にとって5メートルが間合いの限界ではなかろうか。人間と猫の瞬発力なら5メートルの距離なら振り切れる。3メートルではかなりぎりぎりになり、2メートルでは猫の瞬発力をもってしても人間に捉えられる危険がある。体長だけでも人間は2メートル近いから、一振りの動作で捕獲される可能性もあり、一瞬の猫の移動距離なら振り切れるとしても、人間と猫の移動方向次第ではさらに間合いが詰まる場合もあり得るだろう。

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 獲物の行動を予測して捕獲するのは食肉狩猟動物なら自然に備わった本能で、また食物連鎖で自分の種族は何に捕食され、何を捕食するかを一番知っているのも食肉狩猟動物だから、猫にすらその本能の痕跡は残っている。人間と共生しているネコ目ネコ科の猫には事実上、食物連鎖の面では天敵はいないから人間に食べられる恐れは本能からも退化しているが、体長の大きく攻撃力のある動物に対する防衛本能は維持しているだろう。

 あの猫がヴェランダの手すりの上なんていう、人間から見れば危なっかしく落ち着かない場所で居心地良さそうなのは、そこがどんな動物からもまず危害がおよばない場所だからだ。自分と同じ能力を持つ同族相手でもそうで、こんな場所にいる相手に攻撃行動を試みたら攻撃した方の足場が不安定で不利になる。そんなことは馬鹿な猫でもわかるから高い手すりの上はかえって安全な場所なのだ。

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 わからないのはどうやって外壁に伝う方策もなさそうな二階の窓のヴェランダにあの猫がたどり着いたかで、隣接した登りやすい建物のもっと高い位置から下りてくるならともかく、そんな建物も樹木もない。猫の爪が十分に体重を支えるに足るとしても、木造住宅ならまだしもメゾネットのコンクリートの外壁では爪が立つとは思えない。

 しばらく見ていて、ようやく窓の様子がわかった。もう一匹、レースのカーテンを抜けて中から猫が出てきたのだ。何てことはない、部屋飼いされている猫が網戸を開けたヴェランダに出ていただけだった。自分の縄張りだから寛いでいるのも道理で、猫同士も仲良く、もう一匹も丸々太って毛並みも美しかった。猫は病気でもないなら、太っているくらいの方が可愛い。