人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

2014年リイシューCDボックス大賞

 前回で予告した通り2014年リイシューCDの続きで、今回はボックス大賞として東西からワンセットずつ選びたいと思う。ボックスセットの醍醐味といえば一気にズドンとまとまって手に入ることだが、海外商品で圧倒的に有利なのはパブリック・ドメイン作品の豊富なカタログがあることだろう。こればかりは国内生産商品ではどうしてもかなわない。2014年筆者が購入した最多枚数のボックスセットはメンブラン社(ドイツ)の『エンサイクロペディア・オブ・ジャズ~ビバップ・ストーリー』100枚組(輸入)でした。半分くらい手持ちのCDとダブったが100枚組で5000円、しかも実質的に2LPin1CDだからCD50枚分でもLP100枚分に相当するし、これでしか聴けないアルバム満載となればアルバム1枚あたり50円という買い物になる。ただしこのボックスセットは2014年の新発売ではないので大賞外とした。実は輸入盤ではこっそりととんでもない代物、レコード大賞企画賞でも足りない、前回候補に上げた"Atlantic Jazz Legends"などありふれた代物にすら見える、誰も想像できなかったような驚愕のボックスセットが出てしまったのだ。

[ボックスセット(海外)]
Charlie Parker Records-"The Complete Collection"(Import)

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 ドイツのパブリック・ドメイン廉価再発レーベル(たまに新録音も発売するが、主力商品はパブリック・ドメイン作品、ジャンルは主にクラシック)Membran社は以前は音源データを記載しないにもかかわらず10枚組で1000円など痛し痒しのレーベルだったが、さすが技術国ドイツだけあって音質は正規レーベル盤を凌駕すらするものだった。だが5年ほど前に驚愕の500枚組(100枚×5セット)"The Encyclopedia of Jazz"(ジャズ史上の主要作品を1917年のジャズ初録音から50年代後半まで網羅したもの)発売あたりから、さすがに分売でも100枚組(当初5000円)にデータなしでは売り物にならないと覚悟して(それまでは意図的にデータ無記載だったのだろう)、精密詳細な録音データを添付するようになった。
 これが当たったようで、2014年のメンブランの廉価盤ボックスはすごかった。フランク・シナトラ全集46枚組、エラ・フィッツジェラルド全集48枚組、マイルス・デイヴィス全集34枚組、価格はCD1枚あたり100円くらいの設定になっている。ただし全集といってもデビュー~1960年までで、版権がうるさいからか抜けも多少ある。それでもシナトラはクリスマス・アルバム、V-ディスク(軍用慰問レコード)、映画サントラ、他歌手のプロデュース作品、シナトラ指揮のオーケストラ作品まで網羅しているのだ。エラやマイルスはすべてではないがラジオ放送音源、マイルスではサイドマン録音、セッション、ゲスト参加作も初期はほぼ完全に、後半もそこそこ入っている。シナトラとエラはLPサイズのブックレット、マイルスはわざわざCD-ROMで録音データが添付されている。
 だがシナトラもエラもマイルスもぶっ飛ぶボックスがこの『チャーリー・パーカー・レコーズ~コンプリート・コレクション』で、つまりシナトラらは正規レーベルからの再発盤を集めれば越したことはない。かなり稀少音源も入っているが、稀少音源のために買うならもう相当に持っているCDがあるだろう。しかし『チャーリー・パーカー・レコーズ~コンプリート・コレクション』は、チャーリー・パーカー(1920~1955)の未亡人がパーカー没後に立ち上げたいわくつきのインディー・レーベルで、たとえば主力商品パーカーの発掘ライヴでは、
チャーリー・パーカー『ハッピー・バード』(1951年4月録音)

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チャーリー・パーカー『バード・イズ・フリー』(1952年9月録音)

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 など、パーカーの発掘ライヴでも屈指の名盤を早い時期に出した功績がある(近年でもまだ未発表ライヴの発見があるが)。パーカーの発掘ライヴについてはそのうち連載記事にでもしたいと思っているが、パーカー存命中から無許可ライヴ盤が出回っていたほどとはいえ、本格的に発掘ライヴを市場に乗せたことはレーベル本来の使命だったろう。また新録音アルバムでも、ユゼフ・ラティーフ『ロスト・イン・サウンドセシル・ペイン『パフォーミング・チャーリー・パーカー』『ザ・コネクション』バリー・マイルス『マイルス・オブ・ジニアス』などがあり、ラティーフ作品以外はパーカー・バンドのピアニストでパーカー没後に長く不遇をかこっていたデューク・ジョーダンがピアニストを勤めていた。ジョーダン自身のアルバムはハンプトン・ホウズ(やはりパーカーが生前西海岸ツアーで起用していた不遇ピアニスト)とのスプリット・アルバムのイースト・アンド・ウエスト・オブ・ジャズ』と、あの、
デューク・ジョーダン危険な関係』(1962年1月録音)

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 があり、これは日本では格別人気の高いアルバムで、日本からの根強い支持によってのちにジョーダンは引退同様の状態から国際的に認知された長老ピアニストとして復帰することになる。ここまでの文中でゴシック体にしてきたアルバムは当然全部ボックスセットに収録されている。コンプリートですから。
 チャーリー・パーカー・レコーズ発売の全アルバムを集めたのがこの30枚組ボックス・セットなのだが、同じような企画で『チャールズ・ミンガス・コンプリート・デビュー・レコーディングス』1990というのがあった。これはチャールズ・ミンガスマックス・ローチが主宰した自主レーベル『デビュー』のアルバムのうち、ミンガスの参加アルバムを完全網羅した12枚組だった。それ以前には日本で児山紀芳氏監修による『コンプリート・キイノート・コレクション』が出ている。短命なインディー・レーベルの場合、全アルバムのボックス・セットもCDでは可能ということになる。だが、デビューもキイノートもちゃんと新録音アルバムを出していたレーベルだった(だから現在でも正規レーベルから正規版権で出ている)し、前回紹介したコロンビア、アトランティック、ヴォーグ等のレーベル別の名盤集成なども新録音レーベルだったから収録アルバムを単体で集められないわけではない。だがチャーリー・パーカー・レコーズは発掘ライヴも旧作の再発(しかも改題、別ジャケット、曲順を改竄して)も、権利関係不明なままでまともな新録音とごちゃ混ぜに出しまくっていたのだ。アルバム総数は46枚、収録曲総計421曲になる。うち14枚がチャーリー・パーカーのアルバムで、他アーティストまたはオムニバスが32枚(CDでは2in1)。通販サイトから爆笑の商品説明(英文)を簡単に要約すると、レコード収集家ならば必ずぶち当たる謎のチャーリー・パーカー・レコーズだが、パーカー専門のレーベルかと思うと全然関係ないR&Bやラテン音楽のアルバムまで出しているわ、有名ジャズマンかと思うとデータ不明で新録音か新装再発かわからないアルバムだわ、時代的にあり得ないはずのステレオミックスになってるわ(疑似ステレオ?)、謎だらけのレーベル「チャーリー・パーカー・レコーズ」の全貌が今ここに……しかもブックレットのデータはチャーリー・パーカー・レコーズの原盤から丸写しなので、謎の解明はリスナーに丸投げですが、ついに伝説の全貌がワンセットになったのです。と、まあそういう内容の紹介になる。ジャズと名のつくものならクソでも、ましてやチャーリー・パーカーとつくとあらば素通りできない人には地獄行き片道切符みたいなボックスだろう。ちなみにこのボックスセットもCD1枚当たり100円相当の価格でした。
Charlie Parker Records-The Complete Collection(Membran,Import)
[この商品について]

Exhaustive 30 CD collection from the Jazz legend's short-lived label. Contains 46 original albums (421 tracks) plus booklet. Every record-collector has run across an album with the little sax-playing bird in its label-logo, right next to the brand name Charlie Parker Records or CP Parker Records. Turning the sleeve over, especially if it was one of the non-Parker releases, and seeing a '60s release date under the header Stereo-pact! was as exciting an experience as it was confusing. Was the claim Bird Lives meant more literally than previously thought? What do the Rays Nance and Barretto have to do with Charlie Parker? Who is the Satan In High Heels? When did Barney Kessel and Harold Land tame El Tigre? And what is Stereo-pact!, after all? Rumors are far and wide, speculation and misinformation abounds, while fans and experts discuss the releases of this short-lived label from the '60s at record fairs and in internet forums. But even though a discography can be found online, never before has anyone made an attempt to present the complete output of this legendary label in one set.

[ボックスセット(国産)]
五つの赤い風船URCコレクション1969-1971 CD-BOX』

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 このボックスは販売店舗限定商品で、たとえば最大手通販サイトA.では分売でしか扱っていない。しかし分売されずボックスのみ収録のディスクが2枚あり、インディー・レーベルからの発売としては痛いところを突いてきた。偶然にもこれは映像ディスクの『ジャック・タチ・コンプリート・ボックス』と発売日が重なったが、五つの赤い風船ジャック・タチの映画ディスクも廃盤が長くて旧規格の中古ディスクに相当なプレミアがついていた。ジャック・タチの方は、DVDボックスよりBlu-rayボックスの方が高価だが特典映像を含めるとBlu-rayの方が収録時間が倍近い、という、こちらも泣きどころを突く商法で来た。
 しばらく前に五つの赤い風船の記事を載せているので、発売レーベルの資料引用で内容紹介としたい。分売なら、ジャケットを掲載した2作を推薦したい。

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[商品説明]
教科書にも載った名曲"遠い世界に"を始めとして、伝説のフォーク・レーベル、URC に残したオリジナル・アルバ厶をコンプリート。更には、URC の倉庫に眠っていた、超お宝蔵出しライヴ音源を収録した特典ディスク付!
五つの赤い風船〈アルバム第一集〉
五つの赤い風船の衝撃のデビュー・アルバム。風船のトラックのみを収録したスペシャル・ヴァージョン! 1969年作品
※このアルバムはBOXのみに収録で一般には市販しません。
おとぎばなし〈アルバム第二集〉
自由な発想から生まれたコンセプト・アルバム。「青い空の彼方から」他、珠玉の名曲を収録! 1969年作品
■巫OLK 脱出計画〈アルバム第三集〉
五つの赤い風船の実験性が凝縮された傑作!サイケでアヴァンギャルドで、アシッドな香りが漂う。 1970年作品
■イン・コンサート〈アルバム第四集〉

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五つの赤い風船の絶頂期を記録した貴重なライヴ・アルバム!今回は「遠い空の彼方に」のフル・ヴァージョンを初収録! 1970年作品
■New Sky・Flight〈アルバム第五集〉

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赤い風船における『ホワイト・アルバム』のような作品で、実験性とポップさが美しく対になっているアルバム! 1971年作品
URC 未発表ライヴ集〈特典ディスク〉
URC の倉庫から新たに発掘された、超貴重なお宝ライヴ音源収録!
※このアルバムはBOXのみに収録で一般には市販しません。