人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(51)

 第六章。
 スヌーピーはついに頸椎を掻き切ると、握りつぶしたトマトのように溢れだす自分自身の血だまりの中に倒れ込みました。とはいえもともと犬は座高が低いので、倒れたと言っても座りこんだ程度にしか見えません。あんな不器用なやつだったかな、とチャーリー・ブラウンは妙に冷静に考えました、こんな時あいつはもっと大げさにやってのけたはずなんだ、嫌みなほどに芝居がかった調子で。そうしないのは、今はきっとこの方が効果的な演出だと計算してのことに違いない。リアリズムってやつだな。犬の考えたリアリズム、そんなのはたかだか……。
 今何時でしょうな、とムーミンパパ。どちらの時間ですか?とスノークムーミン谷標準時ですよ。そりゃまた面倒なことを、とスノークがおどけると、客間にいた全員が笑いました。偽ムーミンも一瞬遅れて笑いました。無理に合わせました。ムーミン谷標準時なんて初耳だからです。これはムーミンパパのジョークなのか、それとも知らないうちにムーミン谷標準時という取り決めができたのか。
 そろそろ急いでくれないと、とライナスがリランに言いました、いや急かしているわけじゃない、けれどものごとには理由がいるが、こんなことで遅れるのは理由としては十分じゃない。でもね兄さん、とリランは思いました、ぼくには十分な理由になるんだよ。
 オラ見下げ果てたゾ、としんのすけは地団駄を踏みました。義を見て為さねば勇なきなり……とボーくん。そんなこと言っても仕方がないよ、と風間くんはマサオくんに同意を求めて、そう思わないか、ねえ。えっ、とマサオくんは慌てて、ぼくは……ネネちゃんはどう思う?ネネちゃんは黙っていましたが、
・この男どもがーっ!
 とスモッグの中からウサギのぬいぐるみを取り出すと、樹の幹に押さえつけてばしばしパンチを食らわしました。いつものネネちゃんじゃないよー、と怯えるマサオくんと風間くん。おやおや、お約束ですな、としんのすけ
 一行が歩いていくとやがて陸地のとだえる場所に近づいて、空にかかった虹がその向こうへと延びていました。その虹は陸地の端まで人を誘い出し、世界の外へと弾き出すための罠でした。世界の外に何があるかは誰にもわかりませんが、今いる世界よりはましかもしれない可能性については、誰もが暗黙のうちに触れない約束でした。そうでなくとも虹の端には、古来からの黄金伝説があるのです。