人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Hawkwind - Doremi Fasol Latido (United Artists, 1972)

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Hawkwind - Doremi Fasol Latido (United Artists, 1972) Full Album : http://youtu.be/qQ2HIr6Os0M
Recorded at Rockfield, Wales, September and October,1972
Released 24 November 1972, United Artists UAG29364, UK#14
(Side A)
A1. "Brainstorm" (Nik Turner) - 11:33
A2. "Space Is Deep" (Dave Brock) - 6:22
A3. "One Change" (Del Dettmar) - 0:49
(Side B)
B1. "Lord of Light" (Brock) - 6:59
B2. "Down Through the Night" (Brock) - 3:04
B3. "Time We Left This World Today" (Brock) - 8:43
B4. "The Watcher" (Ian Kilmister) - 4:00
(Bonus tracks on remasters CD)
add.1. "Urban Guerrilla" (Robert Calvert/Brock) - 3:41
add.2. "Brainbox Pollution" (Brock) - 5:42
add.3. "Lord of Light" [Single Version Edit] (Brock) - 3:59
add.4. "Ejection" (Calvert) - 3:47
[Musicians]
Dave Brock - 6 & 12 string acoustic guitar, electric guitar, vocals
Nik Turner - saxophone, flute, vocals
Lemmy (Ian Kilmister) - bass guitar, acoustic guitar, vocals
Dik Mik (Michael Davies) - audio generator, electrics
Del Dettmar - synthesizer
Simon King - drums
Additional musicians on "Urban Guerrilla" and "Brainbox Pollution" recorded at Olympic Studios, 1973
Robert Calvert - vocals
Paul Rudolph - guitars

 一見ふざけたようなタイトルだが、ドレミファソラシドとは太陽系の天体を象徴しているらしい。すなわち、
Do → Mars → red
Re → Sun → orange
Mi → Mercury → yellow
Fa → Saturn → green
Sol → Jupiter → blue
La → Venus → Indigo
Ti → Moon → violet
 という神秘学が背景にあって、これを幼稚とするのは容易いが、どんな国のどんな文化にもこうした素朴な象徴学はあるものだ。そしてこのアルバム・アートワークはCDでは黒地に白抜きに見えるが、初回プレスLPでは白抜き部分はカンの『スーン・オーヴァー・ババルマ』1974のように銀色の特色を使って印刷されていた。カンのアルバムは氷山地帯だったがホークウィンドは宇宙空間に浮かんだバンドの紋章(を刻んだ盾)なので、これはバンドのブレインだった美術家のバーニー・バブルスのアイディアらしいが、ホークウィンドのアルバム・ジャケットは鷹が両翼を広げた姿を盾の形に描いたデザインがロゴ代わりに使われるようになる。ロゴなら統一した方が良いと思うが、ホークウィンドの場合はそれらしければ良いようだ。だが前作『宇宙の探求』のジャケットで左右対称図形のアイディアが芽生え、この第3作で一気にその後もさまざまなヴァリエーションを生み出す基本形が完成した。そればアルバムの中身の音楽についても言える。

 前作『宇宙の探求』でバンドの音楽性は完成し、楽曲の質も向上したとはいえ、ライヴ・アルバム『宇宙の祭典』では『マスター・オブ・ザ・ユニヴァース』と、同時期のアルバム未収録シングル『セヴン・バイ・セヴン』しか再演されていないようにまだ個々の楽曲の独立性は弱かった。アッパー系では『ユー・シュドゥント・ドゥ・ザット』、ダウナー系では『ユー・ノウ・ユア・オンリー・ドリーミング』『ウィ・トゥック・ザ・ロング・ステップ・イヤーズ・アゴー』も佳曲で現在でも良くライヴで演奏され、『宇宙の祭典』からは外されたものの当時のラジオ放送音源や発掘ライヴでは『マスター・オブ~』『セヴン・バイ~』ほどではないにせよ演奏頻度も高い。
 それに何より『宇宙の祭典』にはデビュー・アルバムからは1曲も選曲されておらず、『セヴン・バイ~』はD面1曲目、『マスター・オブ~』は実質的にクライマックス曲(続く最終曲『ウェルカム・トゥ・ザ・フューチャー』はSEに乗せた終演アナウンス)だから、この2曲は格別に良い位置を与えられていると言えて、バンド自身が『宇宙の探求』を本格的なホークウィンドの出発点とする姿勢がわかる。いや、案外デビュー・アルバムはユナイテッド・アーティスツ傘下とはいえリバティからのリリースだったから、権利関係上ライヴ・アルバムに収録できなかっただけかもしれないが。

 だが『宇宙の祭典』で抜群のハイライト曲になっているのはライヴ用の新曲『ボーン・トゥ・ゴー』『ソニック・アタック』を除けば大半は『ドレミファソラシド』の収録曲からで、『ドレミファ~』の全7曲中『ブレインストーム』『スペース・イズ・ディープ』『ロード・オブ・ライト』『ダウン・スルー・ザ・ナイト』『タイム・ウィ・レフト・ジス・ワールド・トゥデイ』と主要な5曲をライヴならではのアレンジで決定版といえるヴァージョンに仕上げている。『ドレミファ~』の残る2曲は50秒ほどのデル・デトマーのインスト曲『ワン・チェインジ』と、アルバム末尾を陰鬱に締めくくるレミー作のヘヴィなアシッド・フォーク曲『ザ・ウォッチャー』だから、大傑作『宇宙の祭典』は『ドレミファソラシド』の改訂拡張版ライヴ・アルバムとも言えるのだ。
 デビュー・アルバムからの曲は割愛する(実際はこの時期にも演奏されていた曲がある)という方針は『宇宙の祭典』の密度と統一感を高めたが、72年6月のシングル『セヴン・バイ・セヴン』は実はB面曲で、A面はホークウィンド史上最大のヒット曲『シルヴァー・マシーン』だった。チャートによって異なるが、トップ3入りは確実に記録し、文献によっては1位ともされる。また『宇宙の祭典』発表2か月後のシングル『アーバン・ゲリラ』もトップ40入りのヒットになったが、『宇宙の祭典』収録時にはこれらのシングル曲も演奏されていたのにアルバム未収録となった。そもそもスタジオ盤にすら収録されなかった。では『宇宙の祭典』未収録が惜しまれるかというと、やはりうまく収まらなかったのではないかと思われる。

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 (Remasterd "Doremi Fasol Latido" CD Liner Cover)
 この『ドレミファソラシド』が『宇宙の祭典』の母体になった画期的アルバムになったのは(それを言えば前作『宇宙の探求』も画期的アルバムだったが)、ドラムスがテリー・オリスからサイモン・キング、ベースがデイヴ・アンダーソンからレミーに代わって遂にホークウィンド最強メンバーが揃ったことにある。アルバムは72年9月~10月に録音され11月に発売、初のチャート入りを果たした前作の18位から14位へと売り上げも好調だった。『宇宙の祭典』は『ドレミファソラシド』発売に伴うツアーからアルバム発売の翌12月に録音され、『ドレミファ~』収録曲などはスタジオ録音から3か月も経たないうちのライヴ録音になる。
 ホークウィンドはテクニカルな演奏はしない、ぱっと聴くと垂れ流しみたいな単純なスリーコードでエイトビートのロックンロール・バンドだが(裸のラリーズへの影響は大きいと思われる。ジャックスの曲をホークウィンド風に演奏するとラリーズになる)、メンバーにミキシング・オペレイターがいてステージ上で演奏をいじりまくってしまうため実際の演奏はシンプルなのにカオスティックに聴こえる。現在のようなイヤフォン・モニターもないからメンバーばぐちゃぐちゃのサウンドを浴びながら演奏しているので、まともに演奏するのはまず不可能なのだが、レミーのベースだけはキーもコードもリズムも正確無比で、サイモン・キングもリズムはレミーに合わせ、巧みに空間演出するドラムスで曲の輪郭を引き締める。

 アルバムの構成がまた素晴らしい。CD時代以降のアーティストは構成力が希薄になってしまった。まずオープニングはターナー作・リードヴォーカルの『ブレインストーム』で嵐のようなヘヴィ・コズミック・サイケを11分半に渡って展開する。ターナー脱退後も定番曲に残った代表曲のひとつ。次のブロック作『スペース・イズ・ディープ』では6分半を費やして宇宙空間の孤独と虚無を描く。A面はデトマー作の50秒のインストで、A面のコーダともB面への導入部ともなっている。
 B面に移ると、ロジャー・ゼラズニイ(1937~1995)のヒューゴー賞受賞作で代表作『光の王』をタイトルごといただいたブロック作『ロード・オブ・ライト』が軽快に始まる。こういう曲だとベースの腕前がはっきりわかる。ほとんどレミーのベースを堪能するための曲だろう。次のブロック作『ダウン・スルー・ザ・ナイト』も『スペース・イズ・ディープ』と同系統の曲だがよりアシッド・フォーク的で、こちらは『宇宙の祭典』で思い切り大胆なロック・アレンジがなされた。どちらのヴァージョンも良いのは、元々の曲がいいからだ。続いてブロック作『タイム・ウィ・レフト・ジス・ワールド』は9分近くを1コード・反復ビートで聴かせるアルバム中最大の実験作。こういうヴォーカルもコール&レスポンスと呼ぶのか(笑)?アルバム最後はレミー自作のアコギ弾き語り『ザ・ウォッチャー』で、レミーのレコード・デビューはアシッド・フォーク・バンドのサム・ゴパールだったのを思い出す。

 と、宇宙の神秘を音階に置き換えてタイトルにした『ドレミファソラシド』は緊密な構成と密度の高い内容を持ったコンセプト・アルバムで、こう書くとプログレッシヴ・ロックのアルバムみたいだが、サバスの『マスター・オブ・リアリティ』やツェッペリンの『IV』、パープルの『マシン・ヘッド』、ヒープの『対自核』がプログレならホークウィンドもプログレッシヴ・ロックだろう。
 しかし『ドレミファソラシド』までくるとすでにピンク・フロイドからの影響も独自に消化しきって、ソフト・マシーンキング・クリムゾン、イエスジェネシス、ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーター、エマーソン・レイク&パーマーら、いわゆるプログレッシヴ・ロック勢よりはそれこそパープル、ヒープあたりと並べた方がしっくりくる気がする。