Hawkwind - BBC Radio 1 Live in Concert (Windsong, 1991)
Hawkwind - BBC Radio 1 Live in Concert (Windsong, 1991) Full Album : http://youtu.be/tOn5RUj5fVk
Recorded 28 September 1972, Paris Theatre
Broadcast on 14 October 1972, BBC Radio 1 In Concert
Released October 1991: Windsong WINCD007
Reissued as "At BBC" 15 March 2010: EMI, HAWKS7, UK
1. "Countdown" [unlisted] (Dunkley) - 1:00 into~ "Born To Go" (Calvert/Brock) - 11:15 into~ "Black Corridor" [unlisted] (Moorcock) - 2:30
2. "Seven By Seven" (Brock) - 7:05
3. "Brainstorm" (Turner) - 10:38
4. "Electronic No 1" [unlisted] (Dik Mik/Dettmar) - 2:30 into~ "Master of the Universe" (Turner/Brock) - 7:22
5. "Paranoia" (Hawkwind) - 5:55 into~ "Earth Calling" [unlisted] (Calvert) - 3:29
6. "Silver Machine" (Calvert/Brock) - 4:45 into~ "Welcome to the Future" [unlisted] (Calvert) - 3:03 into~ "Credits" [unlisted] (Dunkley)
[Personnel]
Dave Brock - guitar, vocals
Nik Turner - saxophone, flute, vocals
Lemmy - bass guitar, vocals
Dik Mik Davies - audio generator,electronics
Del Dettmar - synthesizer
Simon King - drums
Stacia - announcements
Andy Dunkley - announcements
("BBC Radio 1 Live in Concert" Liner Notes)
初のライヴ・アルバム『宇宙の祭典』の録音は72年12月、発売は73年7月だからこのBBCライヴはそれに先立って録音・放送されたものになる。つまり72年9月~10月録音で11月24日に発売されたサード・アルバム『ドレミファソラシド』の制作真っ最中に録音された公開収録のラジオ用ライヴで、『ドレミファソラシド』発売の1か月半近く前に放送されている。メンバーも『ドレミファソラシド』『宇宙の祭典』の最強メンバーのホークウィンドだし、録音も『宇宙の祭典』収録から3か月早いだけなので一番おいしい時期のホークウィンドになる。前作『宇宙の探求』の発売は71年10月、オリジナル・シングル『シルヴァー・マシーン/セヴン・バイ・セヴン』の発売が72年6月だから、バンドは最初の上昇期の最中だった。
初出のウィンドソング・レーベルからのCDでは曲の区分は『ボーン・トゥ・ゴー』『セヴン・バイ・セヴン』『ブレインストーム』『マスター(マスターズと誤記)・オブ・ザ・ユニヴァース』『パラノイア』『シルヴァー・マシーン』の全6曲に分けられているだけだったが、『宇宙の祭典』で曲の前後のインストルメンタル・パートにも名称があるのが判明しているので、後のEMIからの新装リマスター再発では細かく11曲に分けられている。ここでは折衷的な表記に整理し直した。
("Hawkwind At BBC" Front Cover)
ラジオ番組用のセット・リストのため実質50分ほどにまとめられ、『宇宙の祭典』の半分くらいの長さのライヴだが、『宇宙の祭典』と重複しない重要曲として『パラノイア』と『シルヴァー・マシーン』が演奏されているのが嬉しい。デビュー・アルバムからの『パラノイア』はこの時期を最後にセット・リストから外れる。スタジオ・テイクよりもヘヴィな、ジャーマン・ロックとの親近性の強いアレンジになっていりる。『シルヴァー・マシーン』は発売直後にトップ3入りの大ヒットになったホークウィンド最大のヒット曲。オリジナル・シングルもライヴ・ヴァージョンにスタジオで編集やオーヴァーダブを施したものだが、ストレートなライヴ・ヴァージョンが聴けるのはアルバム未収録曲だけにありがたい。その『シルヴァー・マシーン』のB面曲だった『セヴン・バイ・セヴン』は、セカンド・アルバムの代表曲『マスター・オブ・ザ・ユニヴァース』や、『ドレミファソラシド』にも未収録となったライヴのオープニング専用曲『ボーン・トゥ・ゴー』ともども『宇宙の祭典』に先立ってここでもすでに演奏されている。
一方、『ドレミファソラシド』が発売前の録音・放送のためか、『宇宙の祭典』で再演されていた『ドレミファ~』の全7曲中の主要な5曲『ブレインストーム』『スペース・イズ・ディープ』『ロード・オブ・ライト』『ダウン・スルー・ザ・ナイト』『タイム・ウィ・レフト・ジス・ワールド・トゥデイ』からはジャム・セッション的な『ブレインストーム』しかこのライヴでは演奏されていない。これらは『宇宙の祭典』ではハイライト・ナンバーだったから、改めて『ドレミファソラシド』収録曲のポテンシャルの高さに気づかされる。
("Hawkwind At BBC" Liner Notes)
また、ここではメンバー自身が行っているが、マイケル・ムアコック(SF作家)やロバート・カルヴァート(作詞家)による詩の朗読をサウンド・エフェクトに乗せて曲と曲のインターミッションにする(『宇宙の祭典』ではカルヴァートが朗読に参加)する手法は『宇宙の探求』発表後のライヴから始められており、それが初めて明らかになったのも『ドレミファソラシド』『宇宙の祭典』発表に先立つこのBBCライヴの放送によるものだった。ホークウィンドはこの手法をフランク・ザッパやグレイトフル・デッド、ピンク・フロイドを参考に考案したと思われ、サウンド・コラージュ作品としてならザッパはより複雑だろうが、ロック・バンドがステージ進行に導入した手法としては限界まで過激なものと言える。インターミッションばかりかホークウィンドにはノイズ専任の担当メンバーが3人もいるのだ。
それはシンセサイザーのデル・デトマー、オーディオ・ジェネレーターのディック・ミック、サックス&フルートのニック・ターナーで、なぜサックス&フルートまでノイズ担当かというと、ディック・ミックのオーディオ・ジェネレーターというのはサウンド・オペレーターであって、シンセサイザーとサックス&フルートの音色の区別がつかないくらいライヴ演奏中にエフェクトがかけられている。冒頭の『ボーン・トゥ・ゴー』に顕著だが、曲としては3コードで4/4と3/4を往復するだけで、変拍子はあるが転調はない。シンセサイザーとフルート(途中サックス持ち替え)はヴォーカル・パートのバックでもノイズを垂れ流しっ放しで、さらにIV→Iの繰り返しでインプロヴァイズする合奏パートになるとギターにも過剰なエフェクトがかかり、ベースとドラムスによる変拍子の上をシンセサイザーとサックス、ギターまでが区別のつかない音色で絡み合うのだが、ホークウィンドの手法は音色変化を重視したもので、楽理的にはドローン以上に出ないとも言える。
だが音楽的にはシンプルなロックをやっているホークウィンドがオリジナリティに溢れたサウンドになっているのは、音色変化の興味にポイントを絞って大胆にノイジーなアプローチに徹したからで、ホークウィンドにはキース・エマーソンもメル・コリンズもアルヴィン・リーもいらなかった。というか、ライヴ演奏にサウンド・エフェクト担当オペレーターがいて、ミックスもエフェクトも演奏と同時進行でどばーっ、とかましてしまう、そんな乱暴な方法は演奏技量の高いプレイヤーは嫌うし、仮にテクニカルな演奏のできるメンバーがいても当時のモニタリング・システムでは実音と加工音を分離してプレイヤーにモニターを聴かせ同期させるする手段はなかった。
ホークウィンドのメンバーが元々テクニックを前面に出すタイプのプレイヤーではなかったのもあるかもしれないが(唯一デビュー作のみで脱退したヒュー・ロイド=ラントンはテクニックのあるメンバーなのが79年の復帰後に判明する)、デル・デトマーをシンセサイザーに加入させ、ディック・ミックが音響のエレクトロニクス処理に専念するようになってからバンドの演奏が音色を決定するか、音色のテキスチャー自体を目的としてバンドが演奏するのかという発想の転換が起こった。ライヴ演奏でそれを行うには、楽理的に複雑なアレンジと過剰なエフェクト処理は両立させられない。そこでホークウィンドはアンサンブルの精密さよりも大胆なサウンド・アプローチを選択する。
このBBCライヴが『宇宙の祭典』との比較で興味深い点は、ライヴ収録そのままにオーヴァーダブもリミックスもされていないことだろう。BBCライヴでも有名なジョン・ピール・セッションなどはオーヴァーダビングやリミックスも行われ、必ずしもスタジオ・ライヴと言わずラジオ用再録音と言ってよいテイクになっている場合が多いが、BBCラジオ1コンサートでは観客を入れたライヴをそのまま収録し、実際のライヴの録音をそのままマスター・テープに使用している。となると、ライヴ盤の金字塔『宇宙の祭典』は案外スタジオで二次編集された可能性が高いのがわかる。ヴォーカルはほとんどスタジオで差し替えてあるとおぼしい。『BBC ラジオ 1』はヴォーカルについてはけっこうヨレていて、歌い出し4小節欠落というのも少なくない。さらにスタジオ作業でのリミックスで『宇宙の祭典』は実際のライヴよりはずっとバランスのとれたサウンドになっていたのもわかる。この『BBC ラジオ 1』のカオス度は『宇宙の祭典』よりずっと高いのだ。ドラムスは前面に出ているが、ベースのミックスでは『宇宙の祭典』の方が優れている。
ウィンドソングからの初CD化時、ファンが騒然としたのはついに伝説のバンド専属ダンサー、ステーシアがアルバム冒頭でバンド紹介のアナウンスをしている声が聞けたことだった。現在でこそホークウィンドの発掘ライヴは30枚を超える枚数が出回っているが、この『BBC ラジオ 1』はオリジナル・アルバムに準じる価値がある。初期アルバム3作と『宇宙の祭典』までのホークウィンドの拾遺ライヴとしても、このアルバムは独自の存在感がある立派な作品になっている。