人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

魍猟綺譚・夜ノアンパンマン(18)

 性感とは何か、とカレーパンマンに訊かれ、ちゃかすのが好きなカツドンマンあたりなら、ミーの知識ではクラシックとブルースとジャズとロックが本質ざます、とケムにまいたかもしれません。ですがアンパンマンしょくぱんまんは意味ありげでその実何も内容のないような冗談を思いつく性格ではありませんでしたから、カレーパンマンが不思議がっているのをまともに受けとめた格好でした。つまり今ピンチなのは乳頭や性感うんぬんの危機ではなく、パン工場の正義の味方トリオの結束の方なのです。ものごとを冗談にしてしまう精神の衛生術では、パン工場トリオはふだん三バカトリオのようなあつかいを受けているカツドンマン、かまめしどん、てんどんまんのどんぶりまんトリオの器量にはかないませんでした。どんぶりまんトリオは自分たちがすることなすこと、一度でもまともに受け取られるとはまったく思っていなかったからです。要するに、かまめしどんたちはパン工場のルールや世界観からは自由な存在で、アンパンマンたちとばいきんまんの戦いではいつでも邪魔なだけでした。
 もう雨は止んだみたいザンス、とカツドンマンは傘から腕を出し、空に手のひらをかざしました。てんどんまんはザンスね、と目をぱちくりさせると、かまめしどんはあんまり関係ないザンスか、とうらやましそうにかまめしどんの頭のふたに目をやりました。そんなことはないダス、ふたはついていても傘はささないと濡れてしまうダス、とかまめしどんも傘をたたむと、晴れるにこしたことはないダスよ。ミーも同感ザンス、とカツドンマンが空を見上げると、ちょうど視界に、あっ、アンパンマンたちがパトロールしてるザンス、とカツドンマンは手を振りました。おーい。てんどんまんとかまめしどんも嬉しくなって手を振りました。おーい。アンパンマンたちがいるかぎり、どんぶりまんトリオは永遠の道化でいられ、道化とは悲劇でも喜劇でも決してドラマの主人公にはなり得ず、ドラマの主人公になり得ないとは何の責任も負わないことなのです。
 その頃ばいきんまんは、今朝は雨上がりでかびるんるんたちも調子がいいぞ、と良い予感を抱きながら通販サイトにがんがんアダルトグッズを注文していました。ばいきんまんの壮大な計画は世界的な凄腕ハッカーの腕の見せどころで、一夜にして全世界を崩壊に導く、アンパンマンたちにも止めようもないはずの、空前絶後の策略なのでした。