人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

トラフィック・サウンド Traffic Sound - A Bailar A Go Go (Mag, 1968)

イメージ 1

トラフィックサウンド Traffic Sound - A Bailar A Go Go (Mag, 1968) Full Album : https://youtu.be/mAUGVT7zbRA
Originally Released by MAG Records Peru, Mag-2354, 1968
Reissued CD Released by Lion Productions, US, Repsychled-CD 1019, 2015
Lado A (Side A)
A1. I'm So Glad (Skip James) - 3:15
A2. You Got Me Floating (Jimi Hendrix) - 4:12
A3. Sueno (Eddie Brigati, Felix Cavaliere) - 3:16
Lado B (Side B)
B1. Destruction (Darryl DeLoach, Danny Weis) - 2:44
B2. Sky Pilot (Eric Burdon, Vic Briggs, John Weider, Barry Jenkins, & Danny McCulloch) - 5:39
B3. Fire (Jimi Hendrix) - 3:11
(Reissued Repsychled-CD Bonus Tracks)
Bt1. Sueno [Remix]
Bt2. I'm So Glad [Remix]
Bt3. Fire [Remix]
Bt4. Destruction [Instrumental]
Bt5. You Got Me Floating [Remix Edit]
Bt6. Sueno [Acoustic Remix]
Bt7. Sky Pilot [Remix Edit]
[ Credits ]
Formed in 1967, Lima, Municipalidad Metropolitana de Lima, Peru
(Members)
Manuel Sanguinetti - Primera Voz, Pandereta (lead vocals, tambourine)
Willy Barclay - Primera Guitarra, Guitarra Acustica, Coros (lead guitar, acoustic guitar, backing vocals)
Freddy Rizo Patron -Bajo, Guitarra Ritmica, Guitarra Acustica (bass, rhythm guitar, acoustic guitar)
Miguel Angel Ruiz - Bajo (bass)
Luis Nevares - Bateria (drums)
Jean-Pierre Magnet - Saxo, Flauta, Vibrafono, Coros (saxophone, flute, vibraphone, backing vocals)
Willy Thorne - Organo , Bajo, Coros (keyboards, bass, backing vocals)

日本のGSが英米以外の非英語圏ではいかに国際水準にあったかを示す証拠物件。トラフィックサウンドはペルーのロック・バンドだがコンドルが飛んだりジョビジョバだったりするわけではなく、1968年当時ペルーで最先端のサイケデリック・ロックをやっていた。このデビュー・アルバムは1968年に相次いで発売された先行シングル「I'm So Glad c/w Destruction」「Sky Pilot c/w Fire」「You Got Me Floating c/w Sueno」の全6曲をそのまま収録したものがオリジナルで、33 1/3prmの12インチLPにもかかわらずA面・B面合わせて22分の収録時間しかない。10インチLP時代の収録時間しか入っていない。どうやらこのデビュー・アルバムの時点では他に持ち曲がなかったらしいのだ。曲はすべて当時最新の英米ロックをそのまま英語カヴァーしたものになる。単刀直入に言ってペルーGSでございます。
シングル単位で見ると、「I'm So Glad c/w Destruction」はクリームのデビュー作『Fresh Cream』1966.12からとアイアン・バタフライ(「Destruction」の原題は「You Can't Win」、デビュー・アルバム『Heavy』1968.1収録)、「Sky Pilot c/w Fire」はエリック・バードン&ジ・アニマルズ『The Twain Shall Meet』1968.4収録の先行シングル(全米14位)とジミ・ヘンドリックスのデビュー・アルバム『Are You Experienced?』1967.5より、「You Got Me Floating c/w Sueno」はジミ・ヘンドリックス(同前)とラスカルズ(アルバム『Groovin'』1967.7収録)と、日本のジャガーズゴールデン・カップス、ダイナマイツ、モップス、ビーバーズら洋楽傾倒が強いサイケデリック・ロック寄りの後期GSと選曲センスはそのまんまと言える。シングル・ヒットした有名曲もアニマルズのB2しか採り上げていない(ラスカルズのA3はNo.1ヒット「Groovin'」B面、アイアン・バタフライのデビュー作はともかくクリームとジミはアルバム自体が大ヒット作だが)。
(Original MaG "A Bailar A Go Go" LP Liner Cover)

イメージ 2

 では硬派GSを代表する『ザ・ゴールデン・カップス・アルバム』1968.3やモップスの『サイケデリックサウンド・イン・ジャパン』1968.4、ダイナマイツ『ヤングサウンドR&Bはこれだ』1968.4、ザ・ビーバーズ『ビバ・ビーバーズ』1968.6と較べてどうかというと、ニッポンGS偉い、ペルーのトラフィックサウンドしょぼい、と言わざるを得ない。ペルーだって日本と英米ロックとの距離感は大差なかっただろうと思うのだが、どんなものか。とにかく音が軽い。軽い分ダンサブルな質感はあり、試しに踊ってみると一応踊れるロックにはなっているのに感心する。でも言ってみればそれしか取り柄がないサウンドでもある。ペルーのロックはインカ・ロック(すげぇネーミング)と呼ばれているが、たしかにペルーはかつてのインカ帝国の中心地で紀元前~スペインに征服される16世紀までは2000年以上に渡って世界最大の文明国だった地域だが、これでは名前負けもはなはだしくはないだろうか。
踊れるGSならジャガーズとカーナビーツの各『ファースト・アルバム』が1968.2、ザ・ハプニングス・フォー『マジカル・ハプニングス・トゥアー』1968.7だが、内容的にも発売時期でも明らかにジャガーズとカーナビーツ、ハプ4の圧勝だろう。セカンド以降はメンバー自作オリジナルで固めるザ・テンプターズも『ファースト・アルバム』1968.6はオリジナルとカヴァー半々で、トラフィックサウンドのように軽快ではないがアイドルGS風に売り出されたにもかかわらず内面性の強い、もっと英米ロックと精神的に共鳴した作風を持っていた。
(Original MaG "A Bailar A Go Go" LP Lado A Label)

イメージ 3

A1. I'm So Glad (Skip James) - 3:15
A2. You Got Me Floating (Jimi Hendrix) - 4:12
A3. Sueno (Eddie Brigati, Felix Cavaliere) - 3:16
まずA面の3曲だが、レーベル面を見ると3曲とも作曲者名が「D.R.」、著作権登録が「Go Go」となっている。D.R.はPublic Domain(著作権公開、または作者不詳)、著作権登録がGo Goなのは要するにペルーではトラフィックサウンドがGo Go名義でこれらの著作権を登録してしまったことを示す。つまり当時ペルーは英語圏を含む国際著作権条約に加入していなかったということになる。クリームのA1は1927年に初録音され、1931年のスキップ・ジェイムズのヴァージョンが知られた戦前の伝承的ブルースだからまだしもだが、ジミのA2、ラスカルズのA3の勝手な著作権登録はやばいだろう。A1とA2は世界中のサイケ・バンドの定番曲だが、ラスカルズの「Sueno」は異色。シングルB面にもなった悪くない曲とはいえラスカルズでも地味な曲だし、タイトル(原題通り)がスペイン語だからか。次にB面に行くと、
B1. Destruction (Darryl DeLoach, Danny Weis) - 2:44
B2. Sky Pilot (Eric Burdon, Vic Briggs, John Weider, Barry Jenkins, & Danny McCulloch) - 5:39
B3. Fire (Jimi Hendrix) - 3:11
B1は副題に「You Can Win」とあり(作者無記名)、アイアン・バタフライの『Heavy』A面ラストの「You Can't Win」とすぐには気づかなかった。これはもともとシングル曲でもないし、CanとCan'tでは逆ではないか。B2のアニマルズ曲はヒット曲で、7分の大曲をシングルA面Pt.1(2分半)、B面Pt.2(5分)に分けた大胆なものだった。トラフィックサウンドも5分40秒かけている。作者はエリック・バードンの名前だけ上げている。B3もB2同様GSカヴァーも多い曲で、なぜかB2とB3だけは作者名が記してあるが、Jimmy Hendrixと来た。Jimiなら笑って許すだろうが、とにかく全曲の版権がペルー国内ではGo Goにあるので、ペルー国内ならこれは全曲オリジナル曲のアルバムでもある。なんでB2, B3の2曲だけ作者名を載せ(しかも間違って)、しかも著作権不詳扱いにしたのかペルーの人のやることはわからない。
(Original MaG "A Bailar A Go Go" LP Lado B Label)

イメージ 4

 トラフィックサウンドのアルバムは、リストにすると、
1. A Bailar Go Go (MaG, 1968)
2. Virgin (MaG, 1969)
3. Traffic Sound (a.k.a. III) (a.k.a. Tibet's Suzettes) (MaG, 1970)
4. Lux (Sono Radio, 1971)
があり、2.「Virgin」以降のアルバムは全曲オリジナル曲を演奏している。再発CDは単品でも出ているが、
1968-1969 (Background, 1992)
は1.と2.をそのままカップリングしたものとなっており、
Yellow Sea Years (Vampi Soul, 2005)
は3.と、1997年までマスターテープが行方不明になっていた4.のほぼ全曲に、1.と2.の代表曲、シングルのみの曲を加えたものになっている。2005年に2.「Virgin」がイギリス盤CDで再発されたのをきっかけに、この10年には何度か散発的なリユニオン・コンサートが行われている。結構しぶといバンドなのだった。国際的認知と本格的な再評価は今世紀に入ってからと言ってよく、まだ途上にあるだろう。これも日本のGSやニューロックの勝ち。
このデビュー・アルバムに限って言えば、GS時代の日本の在日アメリカ人バンドのザ・リードや在日フィリピン人バンドのデ・スーナーズに似ているが、リードやスーナーズの方が断然上手い。録音の質にも依るかもしれない。RCAのリードやフィリップスのスーナーズの録音は当然当時最高水準の技術と機材で制作され、特に在日ミュージシャンで初めてギターのスクィーズ奏法(チョーキング)を披露したギタリストを擁するリード、ジミ・ヘンドリックス曲を得意として日本の後期GSの教則本バンドになったスーナーズの功績を考えると、もしトラフィックサウンドが在日ペルー人バンドだったとしてもリードやスーナーズには及ばなかっただろう。ゴールデン・カップスモップスの方がよっぽど上なのだから。
(Original MaG "Virgin" LP Front Cover)

イメージ 5

 だが楽曲もすべてオリジナルになったセカンド・アルバムからこのバンドは面白いことになる。ここまでずっとトラフィックサウンドがまるで冴えないバンドのように書いてきたが、負の札を揃えたら逆転一発してしまったように、突然英米ロックからは出てこない(サンタナのようなラテン系アメリカ人バンドからも出てこない)独創的なラテン系ロック・スタイルを確立してしまうのだ。イギリスのホークウィンドやキャタピラーなどのサックス入りのサイケデリックアンダーグラウンド・バンドにも似ているが、時期的に直接の影響関係は考えられず、また独自性の方がはるかに強い。楽曲やアレンジのオリジナリティも高い。幸い全アルバムをご紹介できそうなので、そのよくわからない面白さをよくわからないままお届けしたい。

(プログレッシヴ・ロック編に続く)