人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

トラフィック・サウンド Traffic Sound - ルクス Lux (Sono Radio, 1972)

トラフィックサウンド - ルクス (Sono, 1972)

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トラフィックサウンド Traffic Sound - ルクス Lux (Sono Radio, 1972) Full Album : https://youtu.be/7piHbxfWeFw
Originally Released by Discos Sono Radio Peru, SE-9362, 1972
Reissued by Lazarus Audio Products CD-2006, 1997
Todas las canciones escritas y arregladas por Traffic Sound, Letras de Manuel Sanguinetti. "Suavecito" por Abel Zarate, Pablo Tellez, Richard Bean

(Lazarus Audio Products CD Tracklist)

1. Solos (Traffic Sound, Sanguinetti) - 3:16
2. Suavecito (Zarate, Tellez, Bean) - 3:00
3. La Camita (Traffic Sound, Sanguinetti) - 2:46
4. Lux (Sanguinetti, Barclay) - 2:55
5. El Gusano (Rizo Patron, Sanguinetti) - 3:57
6. White Deal, Poco, Big Deal (Sanguinetti, Barclay) - 3:50
7. Inca Snow (Sanguinetti, Barclay) - 5:15
8. Marabunta (Rizo Patron, Magnet, Sanguinetti) - 10:08
9. Survival (Rizo Patron, Sanguinetti) - 2:20
10. The Revolution (Rizo Patron, Sanguinetti) - 4:26
11. A Beautiful Day (Rizo Patron, Sanguinetti) - 2:30

[ Traffic Sound ]

Manuel Sanguinetti - 1゚Voz, Voces, Percusion (lead vocal, vocals, percussion)
Willy Barclay - 1゚Guitarra, Guitarra Acustica, Coros (lead guitar, acoustic guitar, backing vocals)
Freddy Rizo Patron - Guitarra Ritmica, Guitarra Acustica, Bajo (rhythm guitar, acoustic guitar, bass)
Zulu - Bajo, Organo, Coros (bass, keyboards, backing vocals)
Luis Nevares - Bateria, Vibrafono, Percusion, Coros (drums, vibraphone, percussion, backing vocals)
Jean-Pierre Magnet - Saxo, Clarinete, Flauta, Coros (saxophone, clarinet, flute, backing vocals)

(Original Sono Radio "Lux" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Lado A Label)

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 ペルーの素晴らしいロック・バンド、トラフィックサウンドの第4作(初期シングル集『バイラー・ア・ゴーゴー(A Bailar A Go Go)』1969を編集盤とすればオリジナル・アルバム3作目)で最終作がこの『ルクス(Lux)』です。バンドは前作『チベット自治領(Traffic Sound a.k.a III, Tibet's Suzettes)』1971発表後初めてアルゼンチンとブラジルに重点を置いた国外ツアーを行い、Discos MaG社との契約を終えて、よりメジャーのSono Radio社に移籍します。ベースと各種キーボードのウィリー・スローンが脱退、ザズーがスローンの後任に加入して制作されたのが本作になります。ザズーはトラフィックサウンド解散後にはソロ・アーティストとして活動した有能な人材でした。レーベル移籍に前後してアルバム未収録シングル「La Camita b/w You Got to Be Sure」(MAG 1971 - Sono Radio 1971)、「El Clan Braniff b/w Braniff style - Usa version」(Sono Radio 1971)、「Suavecito b/w Solos」 (Sono Radio 1972)が発売され、「You Got to Be Sure」は現在『チベット自治領』CDのボーナス・トラックになっています。「El Clan Braniff」はツアーのための企画シングルなので外されましたが、「La Camita」と「Suavecito c/w Solos」の3曲はLazarus盤再発CDの『Lux』に追加収録されました。オリジナル『Lux』が全10曲仕様なのに3曲追加のCDが11曲仕様なのは、オリジナル盤では「White Deal」「Poco」「Big Deal」が3パートに分かれた3曲にカウントされていたからです。「Suavecito」は、サンタナの弟バンド・マロ(Malo)のデビュー・アルバム(1972年1月発売)からのいち早いカヴァー・ヴァージョンでした。Lazarus盤CDとオリジナル盤との相違は、冒頭3曲にシングル曲が追加され、3パートの「White Deal, Poco, Big Deal」が1曲扱いになり、アルバム終盤の2曲「A Beautiful Day」と「The Revolution」の順序が入れ替わっていることです。オリジナル盤通りの曲目を上げてみます。

◎Traffic Sound - Lux (Original 1972 Sono Radio LP Song Order)

(Lado A)
A1. Lux (Sanguinetti, Barclay) - 2:55
A2. El Gusano (Alice in Wormland) (Rizo Patron, Sanguinetti) - 3:57
A3. White Deal (Sanguinetti, Barclay) - 1:45
A4. Poco (Sanguinetti, Barclay) - 1:00
A5. Big Deal (Sanguinetti, Barclay) - 1:11
A6. Inca Snow (Sanguinetti, Barclay) - 5:15
(Lado B)
B1. Marabunta (Rizo Patron, Magnet, Sanguinetti) - 10:08
B2. Survival (Rizo Patron, Sanguinetti) - 2:20
B3. A Beautiful Day (Rizo Patron, Sanguinetti) - 2:30
B4. The Revolution (Rizo Patron, Sanguinetti) - 4:26

 オリジナル盤の曲目・曲順で聴くとこのアルバムは相当印象が異なります。Lazarus盤以外ではシングル曲を追加しないオリジナル盤の全10曲仕様のCDも出ています。また、丁寧な編集とマスタリング、詳細な解説で現在トラフィックサウンドの決定版ベスト・アルバムといえるVampi Soul盤コンピレーション(2LP, 1CD)の曲目は、

◎Yellow Sea Years : Peruvian Psych-Rock-Soul 1968-71 (Vampi Soul, 2005)

(Side A)
A1. Lux
A2. El Gusano (Alice In Wormland)
A3. La Camita
A4. You Got To Be Sure!
(Side B)
B1. White Deal/Poco/Big Deal
B2. Suavecito
B3. Chicama Way
B4. Those Days Have Gone
(Side C)
C1. Solos
C2. Survival
C3. A Beautiful Day
C4. Marabunta
(Side D)
D1. Yesterday's Game
D2. Sky Pilot
D3. Meshkalina
D4. What You Need And What You Want
D5. Tibet's Suzettes (You Can't Appreciate A Gift From God)
D6. Inca Snow

 というもので、CDも同じ曲順の1CD18曲です。これをトラフィックサウンドディスコグラフィーと対象すると、

[ Traffic Sound (Peru,1967-1972) Discography ]

(Original Albums)
1.『バイラー・・ア・ゴーゴー』A Bailar Go Go (MaG, 1969) - D2
2.『ヴァージン』Virgin (MaG, 1970) - D3
3.『チベット自治領』Traffic Sound (a.k.a. III) (a.k.a. Tibet's Suzettes) (MaG, 1971) - B3, B4, D1, D4, D5
4.『ルクス』Lux (Sono Radio, 1972) - A1, A2, B1, C2, C3, C4, D6
(Original Singles)
・Sky Pilot b/w Fire (MaG, 1968) - D2
・You Got Me Floating b/w Sueno (MaG, 1968)
・I’ m So Glad b/w Destruction (MaG, 1968)
・La Camita b/w You Got to Be Sure (MaG, 1971-Sono Radio, 1971) - A3,A4
・El Clan Braniff b/w Braniff style - Usa version (Sono Radio, 1971)
・Suavecito b/w Solos (Sono Radio, 1972) - B2, C1
 となり、後期シングルからのAB面4曲を押さえているのは嬉しいものの、アルバム『バイラー・ア・ゴーゴー』(初期シングルAB面6曲)からは1曲、全曲オリジナルの初アルバムで名盤『ヴァージン』全8曲からは1曲と初期に手薄なのに対し、『チベット自治領』の全6曲(アルバム末尾には1分半のピアノ曲がシークレット収録されていますが)からはバラード「America」とシークレット曲を除く5曲、ラスト・アルバム『ルクス』からは「The Revolution」を除く全曲が入っています。つまり実質的には『チベット自治領』と『ルクス』から1曲ずつ除いた2in1に『バイラー・ア・ゴーゴー』と『ヴァージン』から1曲ずつ、後期オリジナル・シングル2枚(4曲)を足したようなもので、CD収録時間ぎりぎりの79分53秒収録されていますから元々短いオリジナル・アルバム(各30分程度)の2in1よりもヴォリュームがあります。また、トラフィックサウンドのコンピレーションCDは先に、
・Traffic Sound 68-69 (Background, 1993)*2in1 CD of "A Bailar Go Go" & "Virgin"
・Greatest Hits (Discos Hispanos, 1998)
 の2種があり、もっと簡略なベスト盤なら1998年盤があるし、初期アルバム2作は1993年盤でまるごと聴けます。

 しかしトラフィックサウンド最高のアルバムは『ヴァージン』でしょう。『チベット自治領』と『ルクス』は各段に演奏力とアレンジの密度が向上したアルバムですが、『チベット自治領』でより同時代の英米ロックに接近したトラフィックサウンドは、『ルクス』ではペルーのバンドとしてのアイデンティティ、オリジナリティではきわどい線まで来ているように思われます。その意味では、英米ロックのストレート・カヴァー集『バイラー・ア・ゴーゴー』がかえって無垢な魅力を放って見えもするのです。名盤『ヴァージン』は、1970年の時点で、これまで英米ロックのカヴァーだけをやっていたペルーのバンドが初めて自分たちならではのオリジナリティを目指したもので、一応はサイケデリック・ロックとフォーク・ロックとブルース・ロックの融合ながら、その結果生まれたのは英米または伊独仏日にも似た作例がない、トラフィックサウンドならではのラテン・ロックになりました。それはブラジルの先達バンドのムタンチスとも、ほぼ同時期にデビューしていたメキシコ系アメリカ人バンドのサンタナともまったく違った独創的なラテン・ロックでした。

 後期トラフィックサウンドカルロス・サンタナの弟ホルヘ・サンタナのバンド、マロのデビュー作からシングル「Suavecito」を素早くカヴァーしているように、アメリカのラテン・ロックやイギリスのプログレッシヴ・ロックハード・ロックなど、トラフィックサウンド自身がすでに『ヴァージン』で回答を出していたポスト・サイケ~アシッド・フォーク~ブルース・ロックの突然変異的ラテン・ロックを発展させていくより、同時代の英米ロックの進展を反映する方向に進みました。独自の世界を完璧に1枚のアルバムで描いてみせた『ヴァージン』の画期的な独創性に、バンド自身が気がつかなかったのです。『ヴァージン』はどの1曲が欠けても成立しない、いわばペルーの『ペット・サウンズ(Pet Sounds)』1966(ビーチ・ボーイズ)とも言えるアルバムでした。『ペット・サウンズ』同様、当時こうしたアルバムが内容に値する評価を即座に得られた例は少ないのです。もっとも後期トラフィックサウンドは磨かれたセンス、曲作りや編曲、演奏はますます安定したプロらしいバンドになりましたから、『チベット自治領』はハードなプログレッシヴ・ロックのアルバムとして聴けば『ヴァージン』より緊密かつ焦点の絞られた力作になり、『ルクス』はプログレッシヴ・ロックとラテン・ロックの融合がよく練れてハード・ロック色は後退しますがより柄の大きな作品になりました。『ヴァージン』の第一印象は愛らしい小品的な良さですから(初期カヴァー曲集『バイラー・ア・ゴーゴー』もそうです)、ハードに、または軽快にロックする『チベット自治領』の「Yesterday's Game」、『ルクス』冒頭のタイトル曲や「Survival」、シングル曲「You Got Be Sure」「Solos」や、それぞれアルバムのクライマックスとなるハードなプログレッシヴ・ロック大作「Chicama Way」(『チベット自治領』)、「Marabunta」(『ルクス』)などは『ヴァージン』でもっともハードなラテン・ロックの代表曲「Meshkalina」からの確かな進展は見られます。『ヴァージン』の大作は愛らしい「Yellow Sea Years」で、ドリーミーでアシッドな味わいのプレ・プログレッシヴ・ロックでしたが、同曲や『ヴァージン』タイトル曲こそはトラフィックサウンド唯一無二の味でした。そして「Yellow Sea Years」はベスト盤のタイトルにもなっているのに、収録されていないのもこのバンドの評価がまだまだ過渡期であり、未定着であることがうかがえます。

(旧稿を改題・出直ししました)