人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

真・NAGISAの国のアリス(32)

 街、と言ってもすれ違う人もいないような田舎町ですが、実家から宿に送金してもらうよう電話するのに小銭がいるな、とにかく千円札をくずして小銭を作ろう、 と三匹はタバコ屋に寄りました。服を盗られていないカッパはサルとイヌのために小銭を貸す義理はないからです。タバコ屋には青島幸男が店番をしていました。こんな田舎だけれど、とサル、釣りを騙そうとタバコを値切りでもしたら不審者と思われるのがオチだぞ。
 あのオバアさん、とサルは背中が見えないように左右にぴったりカッパとイヌにくっついてもらいながら話しかけました、ゴールデンバットは210円でしたよね?
 ゴールデンバットは210円だったかい?と青島幸男。そうですよ、全国どこでもゴールデンバットは210円、とサルは千円札を出し、1個ください、お釣りは790円。
 はあドキドキした、とサル。3匹は、今度は街を出るためにバス停を探さなきゃならないな、と歩き始めました。電車も通っていない街ですが、バスなら走っているはずです。3匹はそれらしい標識はないかキョロキョロしながら一列縦隊で進みましたが、やがて農民のような漁師のようなオッサンが仏頂面で歩いてきました。こんなオッサンに訊くのは嫌ですが、今日通行人を見かけたのは初めてです。僕が訊くよ、とカッパが列を離れました。サルはつんつるてんの燕尾服、イヌは女物のワンピースと、仲間たちは見るからに怪しいからです。
 なにィ、バス停?とオッサンはしょいこを投げ出すと、あっちだ、とあっさり先の三差路の左を示して、またしょいこを背負って立ち去ろうとしました。あの……とカッパ、僕の足を見なくていいんですか?足?俺は医者じゃねえよ、と小松方正は言うと、もう3匹には興味も親切心もない様子で歩いて行きました。
 最初からここへ来れば良かったよ、と露天風呂に浸かる3匹。体も潮気でベタついてたしさ。でもこの後どうする?残りのお金じゃ服も買えないし、またいつ不審者扱いされることになるかわからないし。
 買えないなら盗めば?と男湯と女湯の仕切りの岩陰から、ボーイッシュな美女が形の良い乳房も露わに身を乗り出してきました。服なら脱衣場にいくらでもあるでしょ?
 そりゃそうです。3匹はおねいさんに代わるがわる感謝しました。またお会いできて天にも昇る気持です。でもまたどうしてまたここへ?それはね……いずれわかるわ、と美人は女湯に消えました。