人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

INU - メシ喰うな ! (徳間ジャパン, 1981)

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INU - メシ喰うな ! (徳間ジャパン, 1981) Full Album : https://youtu.be/33X7VrRy5d4
Recorded and mixed at Sunrise Studio, Tokyo, in October and November 1980.
Released by 徳間ジャパン・レコード JAL-4, March 1, 1981
Produced by 鳥居ガク
Arranged by INU
(Side A)
A1. フェイド・アウト (詞・町田町蔵/曲・西川成子) - 1:45
A2. つるつるの壺 (詞・町田町蔵/曲・北田昌宏) - 3:05
A3. おっさんとおばはん (詞・町田町蔵/曲・西川成子) - 1:45
A4. ダムダム弾 (詞・曲 町田町蔵) - 2:04
A5. 夢の中へ (詞・曲 町田町蔵) - 3:14
A6. メシ喰うな!(詞・曲 町田町蔵) - 4:05
(Side B)
B1. ライト・サイダーB (スカッと地獄) (詞・町田町蔵/曲・北田昌宏) - 3:54
B2. インロウタキン (詞・町田町蔵/曲・北田昌宏) - 1:44
B3. 305 (詞・町田町蔵/曲・北田昌宏) - 3:15
B4. メリーゴーラウンド (詞・曲 町田町蔵) - 4:53
B5. 気い狂て (詞・町田町蔵/曲・北田昌宏) - 4:45
[ INU ]
町田町蔵 - ボーカル
北田昌宏 - ギター, パーカッション
西川成子 - ベース
東浦真一 - ドラムス, パーカッション
(Original Tokuma Japan "INU" LP Liner Cover)

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 このアルバムはあまりにも有名なので聴いて「なるほど」と納得してしまったきりか、何となく聴く機会がないままになっている人も多いだろう。INUはこのデビュー・アルバム発表から半年後の1981年8月に解散してしまい、さらには解散後3年経った1984年に1979年のライヴ録音『牛若丸なめとったらどついたるぞ!』がインディーズのアルケミーからLP化されたこともあり(未CD化)、結果的に唯一のスタジオ・アルバムになった本作はバンド本来のパワーが少しもとらえられていない満足のいかないアルバムと、長年評価は高くなかった。INU自体はリーダーの町田町蔵が1962年生まれと当時の日本のパンクロック・シーンでも際立って若く、徳間ジャパン・レコードではフリクションを擁したパス・レーベルを傘下にキングとの契約が切れたリザード、ワーナー・パイオニアから移ってきたP-Modelなどアンダーグラウンドなパンク/ニュー・ウェイヴのアーティストを積極的にリリースしていたが、自身もパンク・バンドをやっていたロック・ジャーナリストの鳥居ガクが京都のパンク・シーンからスカウトしてきたのがすでに京都ではアンダーグラウンドの尖鋭バンドだったINUだった。ウィキペディアにはこうまとめられている。
INU(イヌ)は町田町蔵を中心として構成された日本のパンク・ロックバンド。1979年に結成され、1981年にアルバム『メシ喰うな!』を発表。同年のうちに解散した。」
(Original Tokuma Japan "INU" LP Lyric Sheet)

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 解散原因は結局20歳前後のメンバー全員が地元京都から上京して活動するのは無理があったということになるようで、1980年代の町田氏は主に肉体労働のアルバイトやピンク映画・一般映画を問わない映画出演で生計を立てながら毎年のように新バンドを再編して音楽活動を続け、歌詞をまとめた詩集の刊行を経て小説家デビューを期に本名の町田康名義に改名、以降は日本の現代文学最高の作家に数えられており、文学的評価のみならず読者層も広く、人気も高い。以前、一度町田氏と仕事をご一緒したことがあり、町田氏がインタビュアーで筆者が進行と原稿作成だったが、気のまわる腰の低い方だった(原稿の事務所チェックはいりませんから、と先方から申し出られた)。『メシ喰うな !』は高校生の時に出てすぐ買いました、とはとてもではないが口にできなかった。
ベスト・テイクはアルバム・タイトル曲(スターリンのインディーズからのファースト・アルバムには「メシ喰わせろ !」という曲があり--「俺の存在を頭から輝かさせてくれ!」と歌っている--Thanksに町田氏の名前が上げてある)、そしてスリリングな「305」だと初めて聴いた時から思っていたが、この2曲が白眉には違いないとしても35年あまりの時代の遠近法を隔てると、パンク云々を抜きにして若々しい軽快さのある、全体が瑞々しい魅力のある良いアルバムでくり返し聴いて飽きがこない。1981年にはもっと実験的で攻撃・破壊的なサウンドな求められていたかもしれないが、適度にポップにまとめたことで古びやすい要素が少ない音楽に仕上がったように思える。演奏はうまく、特にギタリストは後に井上陽水のツアー・バンドに抜擢された力量で、メンバー全員が現在では音楽活動から退いているのが惜しまれる。唯一作なのが残念だが、同一メンバー、同一バンドで同じことがくり返せなかったのも仕方がないかもしれない。それにいくらポップだと言っても、この音楽性は現代ではメジャー・レーベルからの発売は考えられないだろう。