人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sun Ra - THe Magic City (Saturn, 1966)

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Sun Ra - THe Magic City (Saturn, 1966) Full Album : https://www.youtube.com/playlist?list=PLW1w8neoXejusL6Tzb76xRBJB5eOkXqVr
Side B were recorded live at Olatunji's loft, New York, Spring 1965. Side A was recorded during rehearsals around 24 September, 1965.
Released by Saturn Records Saturn Research LPB-711, 1966
All songs written by Sun Ra.
(Side A) :
A1. The Magic City - 27:22
(Side B) :
B1. The Shadow World - 10:55
B2. Abstract Eye - 2:51
B3. Abstract 'I' - 4:08
[ Sun Ra and His Arkestra ]
Sun Ra - piano, clavioline
Pat Patrick - baritone saxophone, flute, tympani
John Gilmore - tenor saxophone
Marshall Allen - alto saxophone, flute, oboe, piccolo
Danny Davis - alto saxophone, flute
Harry Spencer - alto saxophone
Robert Cummings - bass clarinet
Walter Miller - trumpet
Chris Capers - trumpet
Ali Hassan - trombone
Teddy Nance - trombone
Bernard Pettaway - trombone
Roger Blank - Percussion
Ronnie Boykins - bass
Jimhmi Johnson - Percussion

 前作『The Heliocentric Worlds of Sun Ra』1965.4の制作時点でESP-Diskの強力プロモーションは確約されていたと思われ、バンドはさらに意欲的な活動に入ります。発売半年後の11月には続編『The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume Two』と『Volume Three』の録音が早々決定したようですが、サン・ラとマネジメント事務所はESP盤に便乗して自主レーベルのサターンから未発表だった旧作を1965年に一挙に4枚、1966年には6枚発売します。『The Heliocentric Worlds~』(以下『Volume One』)までには制作枚数22作に対して5作しか発表できなかったのですから、1966年にはサン・ラの発表アルバム枚数は一気に3倍に急増したことになります。1966年発表のアルバムのうちサターンからの唯一の新作になったのが『Volume One』と『Volume Two』の間に制作即発売された本作『The Magic City』で、すんなりサターンから発売された新作はこれが22枚中の4枚目ですから自信のほどが伺えます。1965年9月に『The Magic City』は完成し、次作は再びESP-Diskからの『The Heliocentric Worlds~, Volume Two』(11月録音、同日録音の『Volume Three』はお蔵入りになり2010年のCD化まで未発売になります)が制作されます。『The Magic City』と『Volume Two』の発売は翌1966年の初頭~春になりました。
 タイトル曲の「The Magic City」とはサン・ラの生地、正確には人間の赤ん坊の姿で土星人が転生してきた町ですが、それがアラバマ州バーミングハムで、この町のキャッチフレーズが「The Magic City」であり、エヴィデンス盤CDのインサートには町境の巨大な門の標識に「The Magic City」と謳ってある写真が掲載されています。サン・ラは28歳までバーミングハムのジャズ・シーンで修業を積んでのち1942年から大都市シカゴに単身出郷し、ビッグバンド・ジャズの創始者フレッチャー・ヘンダーソンの晩年の助手を本格的なキャリアの第1歩に作曲家・編曲家・ピアニスト・演出家・レコードディレクターとしてシカゴのジャズ界の裏番長にのし上がったのち1955年にサン・ラ・アーケストラ結成、翌1956年に初のアルバムを発売しますが、1965年にこの制作枚数では24枚目、発表順では7枚目のアルバムは故郷に錦を飾るデビュー作から10年名盤中のメルクマールで、レーベルからの支援のあるESP-Diskからも地道に続けてきた自主レーベルのサターンから出したかったのでしょう。実際『Volume One』『Volume Two』効果で1965年・1966年リリースのサターン作品は注目されて好セールスを上げます。日本の「スイングジャーナル」誌の人気連載だった故・植草甚一氏のジャズ時評でも『Volume Two』発売を受けて「サン・ラの『太陽中心世界』とESPディスクの反響のありかた」と題して1回が割かれ、デビュー作を輸入盤店で試聴した時の悪印象からゲテモノと思っていたサン・ラへの評価が一変したとしてデビュー作、ESPの『Volume One』と『Volume Two』以外にコレクター諸氏の協力で調査できた1966年当時のサン・ラの発売作品全14枚を紹介し、海外ジャズ雑誌のレコード評からの高い評価を引用しています(晶文社『ジャズの前衛と黒人たち』1967年5月刊所収)。
(Original El Saturn "The Magic City" LP Liner Cover)

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 前々作『Other Planes of There』と『The Heliocentric Worlds~(Volume One)』(この2作の間に1975年発掘発売の変則メンバーによるライヴ盤がありますが、それは置いておいて)、そして本作を連続する三部作と見るのは筆者の独断ではなく、『Other Planes~』は当時より現在、『Volume One』との作風の連続性が指摘されています。『Other Planes~』制作直後のライヴ活動がESP-Diskとの契約のきっかけになったことから、『Volume One』の制作には『Other Planes~』の発展作という意図があったでしょう。また『The Magic City』は『Volume One』の成功を意識しつつも、ESPからの次回作にオファーがあった『The Heliocentric Worlds~』シリーズ『Volume Two』とは異なる路線への発展作を目指したのは妥当な推測だろうと思われます。
 三部作の相違はサン・ラの使用楽器にも明瞭に表れており、『Other Planes~』ではピアノ、『Volume One』ではピアノ、エレクトリック・チェレステ、バス・マリンバティンパニ、『The Magic City』ではクラヴィオーネ(Clavioline)、ピアノとなっています。エレクトリック・チェレステは改造フェンダー・ローズか自作楽器でしょうが(トイ・ピアノの構造はチェレステですから、ピックアップ・マイクを内蔵させれば簡易に自作できます)、クラヴィオーネとは1947年アメリカ開発の一種のアナログ・シンセサイザーで6オクターヴの音域を持つ電子楽器で、同時代のフランスのオンド・マルトノ(オリヴィエ・メシアントゥーランガリラ交響曲』1948など)と同様に効果音的に現代音楽や映画音楽、ポップスにSE的に使われていたそうです。ポップスではデル・シャノンの「Runway」1961、ジョー・ミーク/ザ・トルネドーズの「Telster」1962、ザ・ビートルズの『Magical Mystery Tour』1967で特に「Baby, You're a Richman」などにピヨピヨ鳴っているのがクラヴィオーネで、クラヴィオーネ以前の発明ではソヴィエトのテルミン(ザ・ビーチ・ボーイズ「Good Vibrations」1967やレッド・ツェッペリンの映画『永遠の詩~狂熱のライブ』1976)、70年代にはアメリカ製のムーグ・シンセサイザーに取って代わられました。
(Original El Saturn "The Magic City" LP Side A & Side B Label with Alternate Press)

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 この『The Magic City』は暴騰からピヨピヨ鳴っているテルミンのようなサウンドに腰が砕け、やがて明らかにサックスのフラジオ音が引き継ぐのでフラジオ音だったのかと合点がいきますが、実際はクラヴィオーネだったわけです。わかりやすいことにサン・ラの担当楽器だけでもアルバムごとのサウンド傾向の違いがあり、ピアノのみ使用の『Other Planes~』はシリアスな現代音楽の室内楽を思わせ、ピアノ以上にエレクトリック・チェレステとバス・マリンバティンパニをサン・ラ自身が演奏した『Volume One』では現代音楽でもエドガー・ヴァレーズの打楽器アンサンブルによる音響作品「アメリカ」1920や「イオニザシオン」1931をより研ぎ澄ました作風にも聴こえます。『The Magic City』では音楽はよりまろやかになり、A面全面27分半の大作タイトル曲は前2作よりやや冗長ですがアーケストラらしい大らかさは本作に軍配が上がります。
 またB面にミュージシャンでアフリカ文化研究・普及活動家のオラトゥンジ(ジョン・コルトレーンも尊敬し、スポンサーになっていました)の文化センターでのライヴを収めた構成も成功で、サン・ラの発売作品ではまとまったライヴ音源が初めてリスナーにとどけられることになりました。出来の良い新曲で特にB1はライヴ定番曲になり、音質・演奏ともに良好で明記されなければスタジオ録音と紛うばかりに完成度が高く、B2とB3は同一曲ですが演奏内容はまるで違います。実験的で際どい成功だった前2作の成果をうまく生かして、なおかつ従来路線のアーケストラのサウンドと融合させる試みがほぼ理想的に実現したアルバムでしょう。本作のライヴ録音の成功がESP-Diskからのライヴのフルアルバム『Nothing Is』1970(録音1966)につながっていくのも見逃せず、『Nothing Is』はサン・ラ屈指の傑作になるのです。