Sun Ra And His Solar Myth Arkestra - The Solar Myth Approach Vol.1 (BYG/Actuel, 1972) Full Album : http://youtu.be/uWc9OWMJTGs
Recorded at the Sun Studios, New York, 1970-71(Credited, but Probably Recorded between 1967-1968).
Released by BYG Records ?- 529.340, Actuel - 40, 1972
All Titles Written & Arranged by Sun Ra.
(Side A)
A1. Spectrum - 4:52
A2. Realm Of Lightning - 12:00
A3. The Satellites Are Spinning - 3:25
(Side B)
B1. Legend - 9:44
B2. Seen III, Took 4 - 3:25
B3. They'll Come Back - 3:51
B4. Adventures Of Bugs Hunter - 6:25
[ Sun Ra & His Solar-Myth Arkestra ]
Sun Ra - piano, moog synthesizer, space-master, clarinet
Kwame Hadi - trumpet
Ahk Tai Ebah - trumpet, space dimention mellophone
Ali Hassan, Charles Stevens - trombone
Marshall Allen - alto sax, oboe, flute, piccolo
Danny Davis - alto sax, alto clarinet, flute
John Gilmore - tenor sax, percussion
Danny Thompson, Pat Patrick - baritone sax, flute
James Jackson - oboe, flute, ancient egyptian infinity drum
Ronnie Boykins - bass
Clifford Jarvis, Lex Humphries - percussion
Nimrod Hunt - hand drums
June Tyson, Art Jenkins - vocal
サン・ラの70年代アルバムを取り上げるのは年代順でこれが6作目ですが、6作目にしてようやくサターン・レーベル盤(サン・ラ・アーケストラのマネジメントによるシカゴの自主制作レーベル)以外のアルバムが現れます。もっともこの時点で、サターン盤以外のサン・ラのアルバムは、匿名のノヴェルティ的セッション・アルバムを除けば、
Jazz By Sun Ra (Transition, Recorded 1956/Released 1957)
The Futuristic Sounds of Sun Ra (Savoy, Recorded 1961/Released 1962)
The Heliocentric Worlds of Sun Ra (ESP, Recorded & Released 1965)
The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume Two (ESP, Released 1966/Recorded 1965)
Sound of Joy (Delmark, Released 1968/Recorded 1956)
Nothing Is... (ESP, Released 1970/Recorded 1966)
の6枚("Sound of Joy"は本来"Jazz By Sun Ra"に続くTransitionへのセカンド・アルバムとして録音されTransitionの活動休止により未発表になっていたもの)しかありません。Delmarkでは『Sound of Joy』の前に『Jazz By Sun Ra』を『Sun Song』1967として改題再発売していますから、ライヴ演奏に接する機会のないリスナーにはサン・ラの音楽は自主流通で入手困難なサターン盤よりもESP盤とDelmark盤で知られていたのです。
ですがESP盤とDelmark盤はアーケストラの音楽でも完成度の高い面を堅実にとらえたアルバムであり、良かれ悪しかれ記録的な要素の強いサターン盤よりも音楽的な焦点が絞られた内容でした。サン・ラ側でも、ライヴ会場の手売り販売や通信販売向けのサターン盤はアーケストラへのファン・アイテムとして好き放題な内容を楽しみ、インディー・レーベルとはいえメジャー傘下の流通網でアメリカ国内全域のみならず国際発売もされるESP盤、Delmark盤はサンプラー的ながら名刺代わりの意義があったと思われます。50年代~60年代のサン・ラにはもっと優れたサターン盤がありますが、代表作に『Sun Song』と『The Heliocentric Worlds of Sun Ra』が上がることが多いのは、一般に多く聴かれているだけが理由ではないのです。
(Original BYG/Actuel "The Solar Myth Approach Vol.1" LP Liner cover, Gatefold Sleeve & Side A /Side B Label)
サン・ラは多作かつ作風も多彩なアーティストで、サターン盤は優れたアルバムの場合でもアーケストラの一面を切り取ったものという性格があり、5枚~10枚単位でアーケストラの全体像が見えてくる、といったものです。Delmark盤(Transition原盤)はもっとも初期の満を持したアーケストラのアルバム・デビューであり、Savoy盤はニューヨーク進出を意識したバンドの新たな方向性を打ち出したアルバム、そしてESP盤は60年代前半の実験の集大成であるとともに60年代後半のアーケストラの作風をステートメントした、いずれもサン・ラにとって節目となるアルバムでした。アーケストラの広大な音楽はサターン盤を洩れなく追跡していかなければ不足がありますが、凝集力によってDelmark盤、Savoy盤、ESP盤をコンパクトなサンプラー・アルバムであり代表作と見做すのはあながち的外れでもありません。
では、70年代初にフランスのBYGレーベルに提供したこの『The Solar Myth Approach』はどのようなアルバムでしょうか。本作はTransition、Savoy、ESP盤のような録り下ろしの新作ではなく、レーベルの求めから未発表曲をまとめたアルバムとされています。書誌的にはまず『The Solar Myth Approach Vol.1 & 2』1971として2枚組アルバムで発売され、翌年にVol.1とVol.2に分売されたという珍しいリリース方法でした。音源リンクが引けませんが、Vol.2の曲目は以下の通り(録音メンバーも同一)になります。内容はVol.1と同じ傾向のもので、Vol.1、Vol.2ともに1970年~1971年録音とクレジットされていますが参加メンバーの顔ぶれ(ロニー・ボイキンスら)からは1967年~1968年にベーシック・トラックが録音されており、1970年~1971にダビングとリミックスが行われたもの(ムーグ・シンセサイザ導入、ジューン・タイソンの参加)と見て間違いないでしょう。
Sun Ra & His Solar-Myth Arkestra - The Solar Myth Approach Vol.2 (BYG/Actuel, 1972)
A1. The Utter Nots - 11:00
A2. Outer Spaceways, Inc - 1:05
A3. Scene 1, Take 1 - 8:02
B1. Pyramids - 2:22
B2. Interpretation - 7:30
B3. Ancient Ethiopia - 2:43
B4. Strange Worlds - 8:27
(Original BYG/Actuel "The Solar Myth Approach Vol.2" 1972 LP Front & Liner cover)
ジャズはとにかくマイルスを聴け、と言われるほどにはジャズはとにかくサン・ラを聴け、と言う人はあまりいませんが、マイルスにはアーティスト公認の未発表曲の編集盤『Big Fun』『Get Up with It』(ともに1974)があり、それらはマイルスには珍しく試作段階の未発表曲を集めて新作としたものでした。『The Solar Myth Approach Vol.1 & 2』はサン・ラ・アーケストラにとっての『Big Fun』『Get Up with It』に相当します。1970年にすでに7枚のアルバムを出していますから(音源リンクがなく、この連載では紹介しなかった『Out There A Minute』を含めて)BYGレコーズからLP2枚分のオファーを受けても純粋な新録音のマテリアルがなかった、という事情が考えられます。ただしBYGは内容には未発表作品であれば一切注文をつけなかったと思われ(さすがに50年代の未発表曲では困ったでしょうが)、ちょうど『The Heliocentric Worlds of~』直後の時期に大量に未完成未発表曲が残っていました。『The Heliocentric Worlds of~』はサン・ラのヨーロッパでの評価を決定的にしたアルバムですからその後に続く拾遺作品集なら文句はなく、メンバーはアーケストラ史上でも最高です。
アルバム・タイトルはサン・ラ側が複数候補を上げたと思われますが、Vol.1とVol.2に分けて2枚組版とバラ売りの両方で発売したのは、当時はLPは高価だったので商業的な事情でしょう。BYGはニューヨークのESPレーベルを範にしたレーベルでサン・ラやドン・チェリー、アーチー・シェップらのフリー・ジャズと、ゴングらのアンダーグラウンド・ロックを発売していました。ESPレーベルやBYGレーベルのアルバムのリスナーにはジャズとロックの最先端のアンダーグラウンド発の音楽は等価に聴かれており、同時期にマイルスがメジャーなロック・シーンに切り込もうとして苦戦を強いられていたより無理なく柔軟なリスナーを開拓していたということが言えるのです。
(Original BYG/Actuel "The Solar Myth Approach Vol.1 & 2" 1971 LP Front & Liner cover)
サン・ラにとってはアルバム2枚分の完全な新録音を作ろうと思えばできたでしょう。ですが1967年~1968年の最強メンバーのアーケストラの未発表未完成録音は機会があれば発表したかったに違いなく、それもマイルスの『Big Fun』『Get Up with It』と性格が似ています。70年にはアーケストラはアレン、デイヴィス、ギルモア、パトリックのサックス4人衆以外は新メンバーになっており、ジューン・タイソンのヴォーカルが加わり、サン・ラの主楽器はピアノ、ホーナー・オルガン、クラヴィオーネ以上にムーグ・シンセサイザーを駆使したものになっていました。意図してか偶然か、このアルバムには4拍子の曲はありますがシャッフル系の4ビート曲はありません。60年代アーケストラを担った天才ベーシストのボイキンスはストレートな4ビートにもビート感の稀薄なルバート・テンポでも強靱なベース・ラインでバンドを牽引する逸材でしたが、本作収録曲ではほとんど存在感がありません。
1967年~1968年の未発表曲というより、アルバムにクレジットされている1970年~1971年の作品と見るべきなのは、オーヴァーダビングとリミックスによって音楽が1967年~1968年のアーケストラとはまったく違った響きに変貌していることでも顕著で、1967年~1968年のベーシック・トラックはドラムスとトランペット/トロンボーンの一部にしか残っていないのではないかと思われます。オーヴァーダビング部分のみミックスに残してベーシック・トラックは大半カットしてしまったのではないでしょうか。A面は『Cosmic Tones For Mental Therapy』1963の人力ダブと『The Heliocentric Worlds of~』の抽象音楽を混合した路線ですがA3のコーラスはフランスのジャズ・ロック・バンド、マグマのコバイア語コーラスの手法を思わせ、サン・ラの方が早いですし、同曲のムーグ・シンセサイザーはエレクトリック・ギターと間違えてもおかしくない音色とフレージングで驚かされます。B面で聴けるサン・ラの演奏も驚くべきもので、唯一比較的オーソドックスなピアノが聴けるB3も良いですがB1、B2のサウンドは60年代にはなかったもので、B4がおそらく『Atlantis』1969と同時期のアウトテイクをそのまま使った例外的な1曲でしょう。余力を残しながらほぼ全貌を示したアルバムとして、このアルバムは高い完成度を誇るものです。ライヴ盤に見せかけたジャケットはズルですが、そこはインディー・レーベルですから。