人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

映画日記2016年11月6日~10日

 11月6日~10日も毎日二本立てで観ていきましたが、ついさっき深夜アニメを観ていたらPCゲームを「1枚」と呼んでいて、そうなるとDVDやBlu-rayディスクで映画を観るのも1枚2枚と呼ぶのかな、と悩んでしまいました。やはりアニメの特番で現役高校生声優(男の子)がキャラソンを録音するメイキングで、音響さんに「素朴で良いよ、リンゴ・スターみたいだ」すると男子「リンゴスターって何ですか?」。この男子、きっとブルース・リーも知らないぞ。「……ブルースリー?」

11月6日(日)*社会派映画二本立て

エリア・カザン『紳士協定』(アメリカ'47)*119mins, B/W
・日本公開1987年10月9日。ユダヤ人差別の実情取材のためユダヤ家系を名乗った新聞記者が散々な目にあう話。日本でも置き換えられると思うが、発想そのものが陰惨極まる。アカデミー賞受賞はユダヤ系資本を背景に持つ映画界のゴマすりか。カザン演出がソツなく、グレゴリー・ペックがはまり役の真面目キャラだけにうさんくさい。つまらないかというと普通にスルスル観られるから、会社員ホームドラマにエンターテインメント面でのスリルを盛り込むためだけのテーマ性という気もする。

ロバート・ロッセン『オール・ザ・キングスメン』(アメリカ'49)*110mins, B/W
・日本公開1976年9月25日。原作はアメリカ戦後文学の名作で『グレート・ギャッビー』と同じテーマのもの。ロッセンは不遇な左翼の寡作監督で、40年代~60年代で全監督作10作しかない人。他の代表作にボクシング映画『ボディ・アンド・ソウル』やビリヤード映画『ハスラー』がある。本作がアカデミー賞受賞作なのは不思議な気がする硬派の政界汚職映画で、無冠の傑作『市民ケーン』(1941、オーソン・ウェルズ)との類縁関係が見えるから身替わり受賞なのかもしれない。


11月7日(月)*大都会映画二本立て

ハリー・ボーモント『ブロードウェイ・メロディー』(アメリカ'29)*100mins, B/W
・ブロードウェイで一旗揚げようと上京してきたレヴュー・ガール姉妹のシェアルーム生活。姉の婚約者が妹によろめき、最後は2組のカップルがめでたしと書くと全然面白くなさそうで、実際全然面白くないが、大ヒットしてアカデミー賞作品賞に輝きシリーズ化されている。ミュージカル+コメディ色の強いラヴ・ロマンス、若い娘の私生活(入浴・下着場面満載)が当時映画では新鮮だったということか。ちなみにトーキー初期の技術的問題(同時録音でモニターもなく、リズムのピッチが合わないせい)か、ダンスも歌もよれよれです。

エドマンド・グールディング『グランド・ホテル』(アメリカ'32)*113mins, B/W
・女流ベストセラー作家ヴィッキー・バウム原作、ベルリンの国際的一流ホテル(巨大な回廊がすごい)が舞台の大作オールスター映画でアカデミー賞作品賞受賞作。全編セットの豪華さばかりかキャスト全員の見せ場の巧みさ、リレー式に全登場人物が絡んでいくプロット、それをすっきり渋滞なく進めていく演出など、名作かどうかはともかく良い意味古典的風格のある作品で、今観ても面白いです。


11月8日(火)*西部劇映画二本立て

レスリー・フェントン『ネブラスカ魂』(アメリカ'48)*88mins, Technicolor
・かたや派遣鉄道警備員、かたや牧場経営失敗から鉄道強盗団の一員になった幼なじみの二人の男と、地元に残り後者の男の妻になっていた板ばさみの女。西部劇の設定にはこれが多い。アラン・ラッド主演。ドナルド・クリスプ(『散りゆく花』他。キートン映画の共同監督もある)のとぼけた悪党役が嬉しい。ラッド初の西部劇出演が十分サマになっている。いきなり二丁拳銃だし、腰だめのポーズも決まっている。人情西部劇『シェーン』の大作感はないが、こちらの方を好ましく思う人も多いのでは。

リチャード・ソープ『復讐の谷』(アメリカ'51)*82mins, Technicolor
・こちらも一人の女をめぐる二人の男の対決で、大牧場の養子の兄(マジメ)と実子の弟(不良)という取り合わせ。主演が無表情なバート・ランカスターなので悪人同士の対決に見えてくる。けっこう派手に撃ちあうのに構えが決まっていないのはまずい。谷の地形を使った決闘シーンはアンソニー・マンの『裸の拍車』を思い出したが(先日観たばかり)、あれほど凄くない。『裸の拍車』はヒロインのジャネット・リー(!)も良かったが、こちらはヒロインも印象薄。この時代の西部劇のテクニカラーは素晴らしいので景物だけで絵になるから、牛馬の大群の暴走で点を稼いでいる水準作というところ。


11月9日(水)*ジョン・ウェイン主演戦争映画二本立て

アラン・ドワン硫黄島の砂』(アメリカ'49)*110mins, B/W
・監督ドワンはグリフィスより10歳下、フォードやホークスより10歳上、デミルやヘンリー・キングと同世代、監督本数430本という強者。本作はキングの『頭上の敵機』と並んで第二次世界大戦映画の古典とされるもの。60代半ばでほぼ全編ロケのタフな演出、終盤の戦闘以外はほとんど軍事教練なので戦争映画というより軍隊映画、ジョン・ウェインの鬼軍曹映画と呼ぶ方が適切か。西部劇の騎兵隊ものとノリは一緒だったりもする。とすると、この映画の日本軍は先住民か?

ニコラス・レイ『大平洋航空作戦』(アメリカ'51)*92mins, Technicolor
ロバート・ライアン共演。こちらはミッドウェイ海上の空中戦。『理由なき犯行』で知られるレイは犯罪映画や西部劇でも個性が光る人だが、朝鮮戦争映画で馳せた同世代のサミュエル・フラーと違って戦争映画は不向きなのではないか(『にがい勝利』など変化球もあるが)。本作はジョン・ウェインにも魅力なし。廉価版DVDで観たがプリント状態がひどい。レストアされるほどの価値がある映画でもないし……。


11月10日(木)*怪奇文芸映画二本立て

ルーベン・マムーリアンジキル博士とハイド氏』(アメリカ'32)*96mins, B/W
・サイレント期にも映画化(『狂へる悪魔』1920、ジョン・バリモア主演)の同原作のトーキー映画化。アカデミー賞男優賞、ヴェネツィア国際映画祭男優賞特別賞、昭和7年キネマ旬報ベストテン第10位。監督がマムーリアン、撮影カール・ストラスと一流の布陣。主演フレデリック・マーチは後に『我等の生涯の最良の年』に主演する人。いやー、今観ると『狂へる悪魔』に負けてます。一人称ショットのシークエンス、オーヴァーラップの変身シーン、凝った照明などふんだんに工夫はあるが、素朴なだけ耐久性のある『狂へる悪魔』と違って古びた工夫になってしまっている。

アーサー・ルービン『オペラの怪人』(アメリカ'43)*92mins, Technicolor
ロン・チェイニー主演のサイレント版(1925年)が名高いトーキー再映画化。趣向だけ原作通りでストーリーは完全に改作している。シナリオにはあったという主人公とヒロインの生き別れの父娘設定がカットされたため人間関係が意味不明になってしまった。主演のクロード・レインズは好演だが、オペラ上演シーンが多すぎ・長すぎで冗長。怪人作曲のピアノ協奏曲は印象的な佳曲で作中でリスト(笑)が絶賛して演奏するだけある。1925年版のオペラ座のセットを再利用したという当時のハリウッドの物持ち良すぎのインフラ事情には感嘆。ユニヴァーサルのモンスター映画ながらアカデミー賞美術・撮影・作曲・録音の4部門ノミネート、美術と撮影の2部門受賞は唯一なのも納得で、映像と音響、演技指導はなかなかだが構成が締まりに欠ける。結論、サイレント版の勝ち。ただしまったくの別物音楽怪奇映画として異色の面白さはある。テクニカラーの恩恵といいますか。