人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

水谷公生 KIMIO MIZUTANI 1 - 宇宙の空間 A Path Through Haze (ポリドール, 1971)

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水谷公生 KIMIO MIZUTANI 1 - 宇宙の空間 A Path Through Haze (ポリドール, 1971) Full Album : http://youtu.be/gswxoGnJSR0
Recorded at 1971.6.7 Nippon Grammophon No.I Studio
Released by 日本ポリドール株式会社 Polydor - MR 5009, November 1971
(Side A)
A1. Path Through The Haze (Masahiko Satoh) - 5:57
A2. Sail In The Sky (Hiromasa Suzuki) - 7:18
A3. Turning Point (Kawachi Kuni) - 3:46
A4. Tell Me What You Saw (Kimio Mizutani) - 4:54
(Side B)
B1. One For Janis (Masahiko Satoh) - 6:25
B2. Sabbath Day's Sable (Kawachi Kuni) - 4:00
B3. A Bottle Of Codeine (Hiromasa Suzuki) - 7:16
B4. Way Out (Kimio Mizutani) - 3:58
[ Artist (Collective Personnel) ]
水谷公生 - ギター/フォークギター
佐藤允彦 - オルガン/ピアノ/シンセサイザー
鈴木宏昌 - エレクトリック・ピアノ
寺川正興 - ベース
武部秀明 - ベース
猪俣猛 - ドラムス
伊集加代子 - スキャット・ヴォーカル
外山ストリングス・カルテット
江藤ウッド・カルテット
柳田ヒロ - オルガン(ノークレジット)

本作は正規盤ではオリジナル盤発売以来1998年にPヴァイン・レコーズからCD化されるまで30年近く幻のアルバムでした。水谷公生(1947-)は日本のロック畑から出てポップス一般で万能セッションマンになった、ギタリストとしては最初の人で、それまではクラシックやジャズ畑のミュージシャンがポップス作品も兼業していたのは、この水谷公生唯一のソロ・アルバム(本人名義作品)の参加メンバーからもわかります。水谷は寺内タケシ門下生出身で、ジャッキー吉川とブルー・コメッツや田辺昭知とザ・スパイダースのデビューから起こった和製ビート・グループ(グループ・サウンズ)に対応して芸能事務所渡辺プロダクションが若手ミュージシャンから選抜結成させたアウト・キャストのメンバーでした。アウト・キャストは1967年1月にシングル「友達になろう」でデビューし同年11月には唯一のアルバム『君も僕も友達になろう』をリリースしますが1968年1月の5枚目のシングル「愛なき夜明け」で解散し、別メンバーで発表された68年6月のラスト・シングル「空に書いたラブレター」には水谷は参加していません。アウト・キャストは1980年代になって日本のGSマニアのみならず世界的な60年代ビート・グループ(ガレージ・パンク)のマニアから熱烈な支持を集め、まだCD再発が活発ではない頃だったので100ドル単位の中古相場に上がりました。アウト・キャストは作曲もヴォーカル・コーラスもメンバーがこなせ、サウンドも斬新でしたが、1か月遅れ(1967年2月)にシングル「僕のマリー」でデビューした渡辺プロの後輩ザ・タイガースの爆発的人気にはまったく及びませんでした。タイガースは作曲能力もあったのに渡辺プロの方針で歌謡界の専属作曲家の曲しかレコードを出せないバンドで、ヴォーカル録音の時間しかスケジュールが取れなかった超多忙バンドだったので、タイガースのスタジオ録音曲はアウト・キャストが影武者録音していたと言われます。タイガースのアルバム全7作中ライヴ・アルバムが3作なのは、本人たちの演奏はライヴでしか収録する余裕がない事情もありました。
アウト・キャスト解散後にキーボードの穂口雄右はポップスの作曲とアレンジャーになり(後のキャンディーズを手がけます)、渡辺プロはギターの水谷、ヴォーカルの轟健二を中心に松下電器産業が新設したCBSソニーから新バンド、アダムスをデビューさせます。デビュー・シングル「旧約聖書」1968.9から4枚目で最終シングル「明日なき世界」1969.9まで、アダムスはタイガース同様に歌謡界の作曲家の書き下ろし曲のみをレパートリーにさせられたバンドでした。アダムスの活動期間は1年間で急激にGSブームが衰退した時期にあたり、4枚のシングル8曲はオーケストラをバックにした大げさなロック・バラードとしては力作ぞろいでしたが、アダムスはアウト・キャスト以来の少数の熱心なファンの関心しか呼びませんでした。アルバムが出なかったのでアダムス音源は1998年にCD『カルトGSコレクション・CBSソニー旧約聖書』としてCBSソニーの数少ないGSシングルとともにまとめられるまでやはり幻の存在で、ただしアダムスはアウト・キャストの後身という以外は珍品扱いされていたにすぎません。ライヴもやっていたようで解散後にファンクラブ会員向けのライヴ・シングル(未発表曲「アダムとイヴ」)が出たと確認されていますが、水谷公生にとって後のキャリアに結びつくことになったのは、バンドだけで録音していたアウト・キャスト(ビート・グループとして評価が高いのはそこですが)と違って、アダムスでは外部の、ポップス畑でも活動するクラシックやジャズのミュージシャンとの共演が渡辺プロからの企画だったことでしょう。水谷には、手練れの先輩ミュージシャンと互角に渡り合う自信がアダムス時代に生まれたに違いありません。そしてアダムス解散後には、当時黎明期といえた日本のニュー・ロック・シーンでクラシックやジャズのミュージシャンが先導したセッション・アルバムの数々にファースト・コール・ギタリストとして引っ張りだこになります。
(Original Polydor "A Path Through Haze" LP Gatefold Inner Cover & Side A/B Label)

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 本作は1990年代に水谷参加の柳田ヒロ『MILK TIME』1970、同『HIRO YANAGIDA(七才の老人天国)』1971、LOVE LIVE LIFE『LOVE WILL MAKE A BETTER YOU』(LOVE LIVE LIFE+ONE)1971、ピープル『ブッダ・ミート・ロック』1971、佐藤允彦サウンドブレイカーズ『恍惚の昭和元禄 Amalgamation』1971などの実験的なインストルメンタル・ロック作品(LOVE LIVE LIFE+ONEは布施明が+ONEとして参加したヴォーカル作ですが)が一通り再評価された後に、水谷自身の唯一のソロ・アルバムとして注目されました。前記アルバムは同時代の非英米的な実験的プログレッシヴ・ロック(主に西ドイツの前衛ロック)と肩を並べる作品とされ、水谷はギタリストとして日本のフランク・ザッパ(ザッパ自身はアメリカ人ですが、音楽的に異端なため直接的な影響は先にヨーロッパのバンドに現れました)と位置づけられるまでになりました。日本国内では70年代~80年代にキャンディーズ郷ひろみから南こうせつ浜田省吾まで作曲・編曲・演奏を手がけるポップス畑の大御所でした。
本作は一応A面・B面ともに4曲ずつに分かれていますが、各面冒頭曲のテーマ反復が各面最後に再現され、実際はメドレー的にAB面各1曲になっています。A面はマイルス・デイヴィスの『In A Silent Way』1969と『Bitches Brew』1970からの強い影響がうかがわれ、楽曲提供だけで演奏には参加していないクニ河内(ハプニングス・フォー。後期タイガースへの楽曲提供、ライヴのキーボード・サポートも)、アダムスのベーシストだった武部秀明以外はGS出身者はいません。マイルスの両作はジョン・マクラフリンのギター、ハービー・ハンコックチック・コリアフェンダーエレクトリック・ピアノのフィーチャー度が高く、マクラフリンとコリアの出世作でもあります。ロック・キーボード奏者として水谷と共演も多かった柳田ヒロにはジャズ的方向性はありませんでしたから、このアルバムは元来ジャズ・ピアニストの佐藤允彦との共同作業の成果でしょう。フェンダーエレクトリック・ピアノのソロもふんだんに出てきます。B面でテーマをとるのは伊集加代子のジャズ・スキャットで、伊集さんはルパン三世のテーマやジングル、後にはピチカートVのスキャット・コーラスまで取られた方です。マイルスの両作はソフト・マシーンやヘンリー・カウなどイギリスのカンタベリープログレッシヴ・ジャズ・ロックのルーツでもあるので、言われなければカンタベリー派のジャズ・ロックのようにも聴こえますが、この傾向のサウンドカンタベリー派より本作の方が早いのもポイントです。もっとも本作には賛否両論あり、アウト・キャストから前述の諸作まで一貫して聴かれた爆裂ギターが本作は抑制された演奏で、イタリアのプログレッシヴ・ジャズ・ロックのバンドのイル・ヴォーロのギタリスト、アルベルト・ラディウスのプレイにそっくりですが、本作の方が先です。ただしロック的ダイナミズムはソフト・マシーンやヘンリー・カウ、イル・ヴォーロに軍配が上がるうえ、マイルスはもちろんそれらのバンドや他の水谷公生関連作品にあるような一撃必殺の完全燃焼感が不足しているように思えます。水谷と並ぶヘヴィ・ロックの渡り鳥ギタリスト陳信輝が唯一のソロ・アルバム(本人名義作)ではおそらく慎重さから抑制した演奏になってしまったのと事情は同じなのかもしれません。