人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sun Ra - Media Dreams (Saturn, 1978)

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Sun Ra - Media Dreams (Saturn, 1978) Full Album : http://www.youtube.com/playlist?list=PLQ37sYiv1CUbRkO0oMaoT5k9TLxi8ROPg
Recorded Live in Italy, January 1978, probably on 9th
Released by Saturn Research Saturn 1978; 19783 (matrix CMP 1978 C-A/D-B), 1978
all compositions by Sun Ra
(Side A)
A1. Saturn Research (Sun Ra) - 2:57
A2. Constellation (Sun Ra) - 13:33
A3. Yera of the Sun (Sun Ra) - 4:33
(Side B)
B1. Media Dreams (Sun Ra) - 13:36
B2. Twigs at Twilight (Sun Ra) - 7:20
B3. An Unbeknowneth Love (Sun Ra) - 4:39
[ Sun Ra and his Arkestra ]
Sun Ra - organ, piano, Crumar Mainman organ, drum box, etc,
Michael Ray - trumpet
John Gilmore - tenor saxophone
Luqman Ali (Edward Skinner) - drums

 数回前から言及していたアルバムにやっとたどり着きました。本作は続く『Disco 3000』『Sound Mirror』とともに三部作、または『Disco 3000』を姉妹作に『Sound Mirror』を補遺編とする'78年1月期間限定カルテットのライヴ・アルバムです。すでにご紹介した通り、サン・ラは1977年秋からのヨーロッパ巡業中イタリアのホロ・レコーズからライヴ・アルバム『Unity』(1977年10月ニューヨーク録音)のリリース契約を結びました。ホロ・レコーズはサン・ラのイタリア巡業中にローマの自社スタジオでの新作録音の企画を持ちかけ、1978年の正月早々2枚組アルバムを2作制作します。それが『New Steps』 (1978年1月2日&7日録音)と『Other Voices, Other Blues』 (1978年1月8日&13日録音)で、1977年5月の完全ソロ・ピアノ作に続くソロ・ピアノ連作同様サン・ラ・アーケストラ始まって以来初の試みとしてベースレスの2管カルテットで行われたセッションでした。正確にはこれまでにもアルバム中部分的にソロ・ピアノ、1ホーンないし2ホーン・カルテットの曲がなかったわけではありません。ですがアルバム丸々完全にソロ・ピアノ、2管カルテットとなると作品の根幹のコンセプトにも係わりますから、ソロ・ピアノはもちろん2管カルテットもアーケストラを解体して新しいバンドを立ち上げるようなものです。これは急な企画のためホロ・レコーズの自社スタジオ以外のスタジオを押さえられず、自社スタジオの規模では20人編成のアーケストラはおろかエコノミー編成の10人アーケストラの収容も無理で急遽カルテット録音になったと言われますが、アーケストラの膨大なレパートリーでも20人用の楽譜と10人用の楽譜ならまだしも互換性があるのに対し、2管カルテットとなるとアーケストラ用アレンジは一旦白紙にせざるを得ません。結果的に両アルバムは8曲計16曲のうちこの時期アーケストラの得意曲だったスタンダード曲「My Favorite Things」「Exactly Like You」の2曲をカルテット・ヴァージョンで収める以外は新曲で固めたアルバムになりました。
 この『New Steps』と『Other Voices~』の2作はトランペットとテナーサックスの2管とドラムス、サン・ラのピアノに、ベースレス編成を補うためにピアノによるベースライン、またはキーボード・ベースが同時またはオーヴァーダビングされた結果、まずドラムスがシンバル・ワーク以外ほとんど使えない状態になりました。ベースラインが予期できないのでは迂闊なフィルやロールができないからです。ドラムスにボトムが欠けた演奏に半端にピアノのベースラインが入り、そこにキーボード・ベースがダビングされたサウンドは結果的にどこか重心の高い、揺らいだアンサンブルになりました。70年代のアーケストラの唯一の難点はレギュラー・ベーシストとドラマーの不在にあり、60年代アーケストラの不動のベーシストだったロニー・ボイキンスや歴代ドラマーのトミー・ハンター、レックス・ハンフリーズ、クリフォード・ジャーヴィスらの手練れが臨時に戻って乗り切り、その都合もつかない時はアーケストラ結成以来のバリトンサックス奏者パット・パトリックがエレクトリック・ベースにまわっていました。そのパトリックもアーケストラの活動が一時充電期間に入った1975年を境にレギュラーから外れてしまい、アーケストラのレパートリーなら全部暗譜していると言えるベーシストとドラマーのあてがなくなったのです。
(Original Saturn Research "Media Dreams" LP Liner Cover & Side A/B Label)

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 ホロ・レコーズ作品2作の録音後、サン・ラは帰国の予定を延ばして1月いっぱいソロ・ピアノかホロ作品と同一メンバーのカルテットでイタリア巡業を続けました。サン・ラがカルテットのサウンドの強化に見つけてきたのがシークエンサー内蔵型シンセサイザーであるクルマー・メインマン・オルガンと実用化初期のドラムマシーンでした。サン・ラはこの年数え年64歳ですからあっぱれというしかありません。本作『Media Dreams』は1月9日のライヴ録音ですから『Other Voices~』の1月8日分の翌日ですが、『New Steps』より『Other Voices~』の方がアヴァンギャルドなアルバムになったのも納得のいく内容です。『Other Voices~』は『New Steps』と共通する比較的メインストリームに近い4ビート曲とアヴァンギャルドな曲が半々で交互に配列されていますが、1月8日と13日に録音日か分かれ9日に『Media Dreams』収録のライヴがあったと思うと、(1)8日にアヴァンギャルド系の曲が『Media Dreams』ライヴの予習を兼ねて行われ、13日にメインストリーム系の曲を補った。(2)8日は7日の『New Steps』と同様の4ビート曲を引き継いだが、9日のライヴを経て13日録音ではアヴァンギャルドサウンドに一変した、とどちらも考えられます。ちなみに『Media Dreams』は現行再発CDでは2枚組でエキスパンデッド・エディション(コンプリート・コンサート)版になっていますが、ディスク1にLPと同内容、ディスク2にLP未収録曲となっており、姉妹作『Disco 3000』の再発2枚組CDがLPの曲順を解体して全編をコンサートの通りに配列し直しているのと対照をなしています。これは『Media Dreams』がLPではシークエンサーによる反復パターンのベースとリズム・フレーズ、ドラムマシーンを導入したエレクトリックな演奏をアヴァンギャルド・サイドのA面とB1、アコースティックな演奏をメインストリーム・サイドのB面最後の2曲に分けたためアルバム構成が緊密なのに対し、1月23日ライヴ録音の『Disco 3000』はA面に実際にもコンサートの1曲目だった26分(!)のタイトル曲、B面に合計20分ほどの3曲という構成のLPでしたからLP未収録曲の増補はB面の未収録曲増補になるので、LP時代のB面3曲を解体してコンサートの実演順に並べ直すのは理にかなっています。『Disco 3000』は冒頭の26分のタイトル曲が本編で2曲目以降はアンコールみたいなものだからです。
 サン・ラがドラムマシーンと同期したシークエンサー内蔵型シンセサイザーでベース・ラインとリズム・オスティナートの反復パターンを自動演奏させ、パターンを切り替えながらトランペットとテナーサックスとオルガンまたはピアノ、ドラムスの生演奏がインプロヴァイズしていくこのスタイルはずばりシルヴァー・アップルズ、タンジェリン・ドリームやエルドン、スーサイドやクロームらアシッド・ロック系の実験的グループのサウンドを思わせるもので、サン・ラはジョルジオ・モロダー・プロデュースのディスコ・ヒットやアメリカでも大ヒットしたクラフトワークあたりは知っていたと思われます。しかし実演してみなければこんな過激なものになるとは予期していなかったでしょう。ドラムマシーンの継続的ビートと生演奏の同期は困難なものですし、ルクマン・アリのドラムスはサン・ラのバンド以外では採用されないようなものですが、マシーン・ビートにリズム・キープを任せた分ドラムスはスタジオ盤からは見違えるように奔放でドラムセットをフルに叩きまくることができるようになりました。シークエンサー使用曲ではサン・ラはベース・パートはパターンの切り替えだけでいいので、存分にシンセサイザーとオルガンを弾きまくっています。アーケストラの厚みのあるサウンドと異なりキーボード、ベース、ドラムスだけのスカスカな空間にトランペットとテナーサックスが切り込むと、アンサンブル・パートは最小限のため実際は普段と同程度の長さでもインプロヴィゼーション・パートは格段に豊富に聴こえます。もちろんメインストリーム的な実力は、B2の長い長い完全無伴奏テナーサックス・ソロでピークをなすようにかかってきやがれの勢いなのですが、シークエンサーとドラムマシーンの使用が余興ではなく本作で最初にしてほぼ完全な完成を見せているのには驚かされます。サン・ラは'60年代からエレクトリック・キーボードは片っ端から試し、1969年からの数年間はピアノやオルガンよりも単音しか出せず音程・音色の設定も手動の、操作性の悪さで悪名高いムーグ・シンセサイザーを主楽器にしていたので、音程・音色プリセット済みの上にチューナーもありリズムボックスやシークエンサーまで内蔵している簡易型ポリフォニック・シンセサイザーの操作・演奏は即座にマスターしたでしょう。本作は「サン・ラ・カルテット」ではなく堂々とアーケストラ名義に戻り、スタジオ盤2作をはるかに凌ぐ快演ですが、『Disco 3000』ではさらに凄いことになるのです。