人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

メロウ・キャンドル Mellow Candle - 抱擁の歌 Swaddling Songs (Deram, 1972)

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メロウ・キャンドル Mellow Candle - 抱擁の歌 Swaddling Songs (Deram, 1972) Full Album : http://youtu.be/r9YTwsIohGc
Recorded in December 1971
Released by Deram Records Deram SDL-7, April 1972
Produced by David Hitchcock
(Side One)
A1. 天国の荒野 Heaven Heath (Alison Williams) - 3:00
A2. 羊の季節 Sheep Season (Clodagh Simonds, A. Williams, David Williams) - 5:01
A3. シルヴァーソング Silversong (Simonds) - 4:26
A4. 詩人と魔女の物語 The Poet and the Witch (Simonds) - 2:51
A5. 伝導鳥(黒い空、白い子供) Messenger Birds (A. Williams) - 3:38
A6. ダンよ悪魔に気を付けろ! Dan the Wing (Simonds) - 2:45
(Side Two)
B1. 麗しきシスター達よ Reverend Sisters (Simonds) - 4:21
B2. 証拠を壊せ! Break Your Token (Simonds) - 2:27
B3. バイ・オア・ビウェア Buy or Beware (D. Williams) - 3:04
B4. 過ぎたるは及ばざるがごとし Vile Excesses (D. Williams, William Murray) - 3:14
B5. ロンリー・マン Lonely Man (Simonds) - 4:30
B6. 墓の宝石 Boulders on My Grave (Simonds) - 3:40
[ Mellow Candle ]
Clodagh Simonds - lead vocals (alto), backing vocals, piano, harpsichord, mellotron
Alison Williams - lead vocals (soprano), backing vocals
David Williams - guitar, backing vocals
Frank Boylan - bass guitar, backing vocals
William Murray - drums, percussion

 本作はイギリスの70年代フォーク系女性ヴォーカル・ロックを知る人には周知の名盤で、80年代以来日本盤がくり返し再発売されてきた人気作でもあります。チューダー・ロッジの『Tudor Lodge』(Vertigo, 1971)、スパイロジャイラ(Spirogyra)の『Bells, Boots and Shambles』(Polydor, 1973)と並んでアーリー70'sフィメール・ヴォーカル・フォーク/ロック三種の神器との評価は80年代から不動のもので、チューダー・ロッジもスパイロジャイラも良いアルバムですが男女リード・ヴォーカルが曲を分け合い男性ヴォーカルがリーダーです。また演奏はゲスト・ミュージシャンを多数迎えたものでした。メロウ・キャンドルだけがアルトとソプラノの女性ツイン・ヴォーカルであり、バンド・メンバーのみの演奏でアルバムを仕上げており、バンド創設者でリーダーのアルト・ヴォーカルと鍵盤楽器かつメイン・ソングライターのクローダ・シモンズはまだ19歳、ソプラノ・ヴォーカルのアリソン・ウィリアムズさえまだ20歳でした。バンドは商業的成功はかなわずヴォーカルの二人はソロ活動へ、楽器メンバーは高い実力からセッション・ミュージシャンになりますが、80年代の再評価から1996年には『抱擁の歌』以前の未発表デモテイク・アルバム『The Virgin Prophet』が発表されます。『抱擁の歌』ほぼ全曲が完成したアレンジで演奏されており、さらにアルバム未収録の未発表曲も高い水準を示しており、メロウ・キャンドルの実力を測り知る以上のもう1枚の傑作になりました。

(Original Deram "Swaddling Songs" LP Liner Cover & Side One Label)

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 アルトとソプラノの両者が声質、歌唱表現力に恵まれており、さらに優れた楽曲とシンプルながらシャープで、楽曲の抒情性に流れない歯切れの良いサウンドがバンドの力量を見せつけているのが本作の傑作たるゆえんですが、アイルランド出身のこのバンドはまず1965年、12歳のクローダ・シモンズが友達二人とシュープリームスのコピーを目的に始めたポップ・ヴォーカル・グループだったといいますから『抱擁の歌』までの7年間にとんでもない飛躍をとげたわけです。『抱擁の歌』の初CD化は日本で、現在までに16ヴァージョンの再発売がされてきたと確認されますが、日本盤CDにはクローダ・シモンズ書き下ろしでバンド・ヒストリーを語ったライナーノーツの翻訳が添付され、何の資料もなかったLP時代のリスナーを刮目させました。斯く言う筆者もこれにはびっくりしました。今回のご紹介もほとんどシモンズ自筆ライナーノーツ(本作と『The Virgin Prophet』より)を出典とするものです。楽曲は全12曲中クローダ単独7曲、アリソン単独2曲、クローダ/アリソンと素晴らしいギタリストのウィリアムズ(当時アリソンの夫)の共作1曲、ウィリアムズ単独1曲、ウィリアムズとドラマーの元リンダ&リチャード・トンプソン・バンド、後にケヴィン・エアーズ・バンド、マイク・オールドフィールド・バンドに行くウィリアム・マレーの共作1曲という配分ですが、自作曲(または夫婦曲)でリード・ヴォーカルを機械的に分け合うのではなく、楽曲に合ったアルト/ソプラノ・ヴォーカル配分がされているのはクローダ・シモンズの優れたリーダーシップでしょう。弱冠19歳の女性が率いたバンドと思うと驚異的です。シングル・カットされたクローダ作の「Silversong」は70年代ブリティッシュ・ロック屈指の美メロ・バラードですが、クローダはソプラノのアリソンに歌わせ(デモテープ『The Virgin Prophet』の段階ですでにそうでした)、自身はピアノとコーラスに専念しています。これほど的確な自己プロデュース力に恵まれたバンドが唯一のアルバム発表の翌年あっけなく解散してしまい、クローダはアメリカに渡って音楽の個人教師になったそうですが、しかし本作は再発見以後不動の高評価を受けている伝説的アルバムです。名曲満載でメロディアスでポップ、演奏はセンス良く軽やかにロックしています。加えて瑞々しいアルトとソプラノの美声ヴォーカルが聴けるとなれば、これほど間口の広いアルバムは稀ではないでしょうか。