人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

グレイトフル・デッド Grateful Dead - アオクソモクソア Aoxomoxoa (Warner Bros.-Seven Arts, 1969)

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グレイトフル・デッド Grateful Dead - アオクソモクソア Aoxomoxoa (Warner Bros.-Seven Arts, 1969) Full Album : https://youtu.be/yvYSQZBgENo
Recorded at Pacific Recording, San Mateo & Pacific High Recording, San Francisco, September 1968 - March 1969
Released by Warner Brothers -Seven Arts Records WS1790, June 20, 1969
Produced & Arranged by Grateful Dead
All tracks written by Jerry Garcia and Robert Hunter, except where noted.
(Side One)
A1. St. Stephen (Jerry Garcia, Phil Lesh, Robert Hunter) - 4:26
A2. Dupree's Diamond Blues - 3:32
A3. Rosemary - 1:58
A4. Doin' That Rag - 4:41
A5. Mountains of the Moon - 4:02
(Side Two)
B1. China Cat Sunflower - 3:40
B2. What's Become of the Baby - 8:12
B3. Cosmic Charlie - 5:29
[ Grateful Dead ]
Tom Constanten - keyboards
Jerry Garcia - guitar, vocals, lead vocals on all songs except "St. Stephen"
Mickey Hart - drums, percussion
Bill Kreutzmann - drums, percussion
Phil Lesh - bass guitar, vocals
Ron "Pigpen" McKernan - keyboards, percussion
Bob Weir - guitar, vocals, co-lead vocals on "St. Stephen"

 1965年結成、1995年のリーダー、ジェリー・ガルシアの病没までにグレイトフル・デッドは22作の公式アルバムがあります。デッドの生存オリジナル・メンバーはガルシア抜きで実質的な再結成ツアーをバンド結成50周年記念の2015年まで断続的に続けていましたし、ガルシア生前のグレイトフル・デッドのライヴは2300回中2150回分の録音が残されていることでも知られ、ガルシア歿後に公式リリースされた発掘ライヴ・アルバムは150作あまりに上ります。しかもそのほとんどがCD2~3枚組で、やはり2015年の結成50周年記念にリリースされたボックス・セット『30 Trips Around the Sun』に至っては初アルバム化される未発表ライヴが1年1コンサートずつ、総計CD80枚組の超大作で、しかもデッドのアルバムはジャケット・アートも似たり寄ったりでどれがバンド存続中の公式アルバムか(今でも毎年4~6作ずつメンバー公認のライヴ・アルバムが発掘リリースされていますからバンド存続中と変わりありませんが)、どれが発掘リリースかCDショップの店頭やネット通販サイトを見ても前知識がないと見分けがつかないでしょう。ジャケットどころかルックスやサウンドも30年間変わらなかったという人たちですから、公式アルバム22作にしても何から聴けばいいのか困ってしまって敬遠している人も多いと思います。簡単に言って年代順に聴けば良いと思いますが、デイヴ・ハッシンガーにプロデュースを依頼したデビュー作は個性発揮の一歩手前、第2作でライヴ録音とスタジオ録音のミックスを試みてようやくデッドらしいサウンドになり、セルフ・プロデュースの第3作『アオクソモクソア』でとうとうスタジオ録音の成功作が生まれました。デッドを聴くならこの第3作か次作『ライヴ・デッド』がいいでしょう。オリジナル・メンバーが揃った初期デッドのアルバムは次の8作になります。
1. The Grateful Dead (1967)
2. Anthem of the Sun (1968)*Recorded Live & Studio
3. Aoxomoxoa (1969)
4. Live/Dead (1969)*Recorded Live, 2LP
5. Workingman's Dead (1970)
6. American Beauty (1970)
7. Grateful Dead (Skull & Roses) (1971)*Recorded Live, 2LP
8. Europe '72 (1972)*Recorded Live, 3LP
『Europe '72』を最後にバンドのシンボル的存在だったオルガン、ヴォーカルのピッグペンがアルコール中毒で逝去してしまうので、デッドを聴くならここまでの8作は外せません。フィル・レッシュのベースのすごさが初めてアルバム化されたのは『ライヴ・デッド』からで(後述)、ボブ・ウェアが自作曲でヴォーカルを取りガルシアに追いついたのは『グレイトフル・デッド(スカル&ローゼズ)』からです。ピッグペンの逝去を乗り越えられたのもレッシュとウェア、クルツマン(ドラムス)の功績で、リード・ヴォーカルでリード・ギターのガルシアのワンマン・バンドだったらデッドは'72年以前に終わっていたでしょう。ただし『アオクソモクソア』は全曲ガルシアのオリジナル曲(歌詞は専属作詞家のロバート・ハンター)、リード・ヴォーカルもガルシアです。前作『太陽の讃歌』はブルースのカヴァー中心だったデビュー作からガルシアの作曲力が開花し始めたアルバムでしたが、本作では曲ごとにカラーがより鮮明になり、スタジオ盤のコンパクトなデッドの魅力が味わえます。すでに伝説化していたデッドのライヴの奔放さは『ライヴ・デッド』『グレイトフル・デッド(スカル&ローゼズ)』『ヨーロッパ72』で明らかになりましたが、続くスタジオ・アルバムの成功作でヒット作『ワーキングマンズ・デッド』と『アメリカン・ビューティー』は『アオクソモクソア』の成果がなければなし得なかったでしょう。

(Original Warner Bros.-Seven Arts "Aoxomoxoa" LP Liner Cover & Side 1 Label)

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 デッドのどこがいいというと融通無碍な演奏がいい、特にガルシアの変態ギターが良いとは定評がありますが、全然ロックのヴォーカルっぽくないガルシアのよれよれヴォーカルと意外に上手いウェアとレッシュのコーラス、リズム・ギターとリード・ギターでガルシアと絡むウェアのギター、ジェファーソン・エアプレインのジャック・キャサディーと双璧をなすレッシュの変態ベースなどじわじわと染み込む良さがあり、今回リンクに引いたのは珍しい1969年のオリジナル・アルバム・ミックスですがデッドは本作を1971年にリミックスして以来再発LPもCDも'71年リミックスを使用しており、レッシュのベースは『ライヴ・デッド』以前に本作ですでにすごかったことがわかります。ところで誰も言わないのはデッドは曲が良い、本作の万華鏡のように多彩な楽曲を聴くと演奏以前にガルシアの作曲センスの良さに唸らされます。およそメジャーなバンドの中でデッドほどシングル・ヒットのなかったバンドはないので、'87年の6年ぶりのアルバム『In The Dark』がバンド最大のヒット・アルバムになった時(全米6位)、シングル「Touch of Grey」がバンド唯一のトップ10ヒット(全米9位)になったくらいで、30年間にトップ40ヒットになった曲もこれが唯一でした。デッドと言えば「ああ、あの曲の」という名刺代わりの代表曲もないでもありませんが、デッドの名前で曲名が浮かんでくるほどならばアルバムを聴いていないとまず無理なので、ひょっとしたらクイックシルヴァー・メッセンジャーズ・サーヴィス(「Fresh Air」「Just For Love」「What About Me」など)より分が悪いかもしれません。
 デッドの音楽的バックグラウンドにはブルース、フォーク、ブルーグラス(カントリー)、ロックン・ロールがあり、文化的にはサンフランシスコの作家ケン・キージー(代表作『郭公の巣』)が主催するアシッド・テスト・パーティーの専属バンドからスタートした、というサイケデリック・バンドでした。当時の名称はワーロックスで、同時期にニューヨークではアンディ・ウォホールがパーティーを定期開催しており、そのバンドもワーロックスという名前でした。後にヴェルヴェット・アンダーグラウンドと改名するバンドです。この東西ワーロックスは同名のバンドがレコード契約すると知って一方はヴェルヴェット、一方はグレイトフル・デッドと改名したという悪夢のような実話があります。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのサード・アルバムも1969年ですが、ルー・リードという抜群のソングライターがいたヴェルヴェットに楽曲でも勝負できるというか、このカントリーなのか(A2,A4)フォークなのか(A3, A5)ブルースなのか(B2, B3)ロックン・ロールなのか(A1, B1)そのどれかであるようで同時にすべてであるようなサイケデリック・ロックには、都会的なヴェルヴェットにはない地に足のついたおおらかな包容力があり、東洋思想かぶれのうさんくさいヒッピー文化から生まれながら、むしろそれゆえにロックの宿命的なナルシシズムに一度も陥らなかった稀有なバンドに成長したことがわかる素晴らしいアルバムです。『アオクソモクソア』と『ライヴ・デッド』がいければデッドの全アルバム(公式アルバム、発掘アルバム問わず)はいけます。筋金入りのアンチ・ヒッピーだったフランク・ザッパルー・リードではそういうわけにはいきませんから、音楽とは不思議なものです。