人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

X - ロサンゼルス Los Angeles (Slash, 1980)

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X - ロサンゼルス Los Angeles (Slash, 1980) Full Album : https://youtu.be/4b5dUtAjJJI
Recorded at Golden Sound Studios, Hollywood, CA, January 1980.
Released by Slash Records SR-104, April 26, 1980
UK Indie Album Chart #14
Produced by Ray Manzarek
All tracks written by John Doe and Exene Cervenka except as indicated.
(Side one)
A1. Your Phone's Off the Hook, But You're Not - 2:25
A2. Johnny Hit and Run Paulene - 2:50
A3. Soul Kitchen (John Densmore, Robbie Krieger, Ray Manzarek; Jim Morrison) - 2:25
A4. Nausea - 3:40
A5. Sugarlight - 2:28
(Side two)
B1. Los Angeles - 2:25
B2. Sex and Dying in High Society - 2:15
B3. The Unheard Music - 4:49
B4. The World's a Mess; It's in My Kiss - 4:43
[ X ]
John Doe - bass, lead vocals, artwork
Exene - vocals, artwork
Billy Zoom - guitar
D.J. Bonebrake - drums
(Additional personnel)
Ray Manzarek - organ, production

(Original Slash "Los Angeles" LP Liner Cover & Side one Label)

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 ポピュラー文化で彼此の評価が極端に異なる現象はさまざまなジャンルに見られますが、20世紀アメリカは軍事・産業大国だった以上に文化大国として世界を席巻していたわけです。映画、ポピュラー音楽、舞台劇など現代のポピュラー文化の発祥はほとんど20世紀前半にアメリカで確立されたものが現在でも文化的規範として流通していると言ってよく、アメリカが共産圏諸国を圧倒しヨーロッパ諸国をも尻に敷いたのはまさに文化の力でした。ただしあまりに生産性が高くローカルなものから全国的なものまでが競いあった状態になったためにアメリカ本国での評価と諸外国での認知に極端な差がついてしまった例も多くあります。たとえばヨーロッパ諸国や日本では映画は映画監督の個性的な創作として作家主義的評価をされましたがアメリカでは総合的なプロダクション作品として価値を測られます。
 ポピュラー音楽では何よりアメリカ本国での功績が評価の基準になりますから、諸外国ではほとんど認知されていなくても国内のジャーナリズムから高い評価を得ればアメリカ独自のポピュラー・クラシックに位置づけられる、という待遇がされます。この場合諸外国での反響がどんなに高かろうと輸出商品としての価値しかないので、ヨーロッパ諸国や日本でどれだけ'50年代~'60年代の黒人ジャズの人気が高かろうとアメリカを代表するジャズはブルーベックとMJQなのです。ブルー・ノートやプレスティッジ、リヴァーサイドのジャズはマニアのためと輸出用のインディー作品に過ぎません。一方国内ジャーナリズムで高い評価を勝ち得れば国際的な話題にはならないままにインディー作品でもメジャーを圧する評判を呼び評価が定着する場合もあり、ロサンゼルスのインディー・レーベル、スラッシュからデビュー・アルバムをリリースしたXの本作はまさにその典型でした。

(Includes two-sided black and white printed inner sleeve with lyrics and band photo)

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 Xは1977年に別々のローカル・バンドで活動していたJohn Nommensen Duchac(ベース、ヴォーカル)とBilly Zoom(ギター)にドラマーのD.J. Bonebrakeが加わり「ラモーンズ+ロカビリー」というアイディアのパンク・バンドを試行していたところジョンが詩の朗読会でナンパしてきた女性ヴォーカルのExene Cervenkaをメンバーに加えて正式に発足、エクシーンのスージー・スー似のヴォーカル、ジョン・デュシャック改めジョン・ドゥ(もちろん1941年の映画『群衆』Meet John Doeから。1945年の映画『緋色の街』Scarlet Streetの主人公から芸名を取ったクリストファー・クロスと同じです)のジム・モリソン似の容貌とヴォーカルにロカビリー風パンク・ロックというアイディアが受けて一躍ロサンゼルス・アンダーグラウンド・シーンの人気バンドになりました。地元のインディー・レーベル、スラッシュからのデビュー・アルバムはドアーズのリーダーだったレイ・マンザレクがプロデューサーに転向して手がけた作品で、バンドの素のままを捉えた好プロデュースが成功しました。
 チャート上ではアメリカではチャート入りに届かずイギリスのインディー・チャート14位が最高でしたがロサンゼルス・パンクの存在を知らしめた本作はヴィレッジ・ヴォイスの年間ジャズ、ロック、ポップスアルバム投票で16位に、また2003年のローリング・ストーン誌のオールタイム・ベストアルバム500選では286位に選ばれました。現在主要音楽ジャーナリズムでのアルバム・ガイド評価では、
・AllMusic [ ★★★★★ ]
・Christgau's Record Guide [ A- ]
・Entertainment Weekly [ A ]
・The Rolling Stone Album Guide [ ★★★★☆ ]
・Spin Alternative Record Guide [ 9/10 ]
・Uncut [ ★★★★★ ]
 また1989年のローリング・ストーン誌の「80年代のベスト・アルバム100」では24位、ピッチフォーク・メデァアの「80年代のトップ・アルバム100」では91位にランキングされ、アルバム・タイトル曲は2009年度発表の「ロックの殿堂ベスト500曲」に選出され、2012年のスラント・マガジン誌の「1980年代ベスト・アルバム」でも依然98位と'80年代ロック名盤の定番アルバムになっています。また本作収録曲は映画、テレビシリーズにも頻繁に使用されています。日本では大仁田厚の入場曲「Wild Thing」がトロッグスの曲のXによるシングル・カヴァーで唯一お茶の間レベルで知られるバンドですがスタジオ・アルバム7枚、ライヴ・アルバム3枚のキャリアがあり、1987年に一旦解散した後オルタナ・カントリー派からの再評価で1993-1995、1997-2007と再結成を重ね、2008年以降はエクシーン・サーヴェンカの筋萎縮症との闘病とともに不定期にライヴを行っています。一旦解散して再結成する以前のオリジナルXのスタジオ録音アルバムは、

1980; Los Angeles (英インディー#14) Slash, Produced by Ray Manzarek
1981; Wild Gift (ビルボード#165) Slash, Produced by Ray Manzarek
1982; Under the Big Black Sun (ビルボード#76) Elektra, Produced by Ray Manzarek
1983; More Fun in the New World (ビルボード#86) Elektra, Produced by Ray Manzarek
1985; Ain't Love Grand! (ビルボード#89) Elektra, Produced by Michael Wagener
1987; See How We Are (ビルボード#107) Elektra, Produced by Alvin Clark

 で、'85年の『Ain't Love Grand!』ではパワー・ポップ、87年の『See How We Are』ではオルタナ・カントリー化が見られます。インディーのスラッシュ盤2枚、メジャーのエレクトラ盤のマンザレクのプロデュースが続いた2枚までは名作として知られ、デビュー作の本作に続くセカンド・アルバム『ワイルド・ギフト』はL. A. パンクの歴史的名盤として本作以上の評価を受けています。次回ご紹介する予定です。