人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

グリフォン Gryphon - 反逆児 Treason (Harvest, 1977)

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グリフォン Gryphon - 反逆児 Treason (Harvest, 1977) Full Album : https://youtu.be/FHO1skWRiwU
Recorded at the Manor Studio, Oxfordshire expect B3 at Abbey Road Studio, London
Released by EMI/Harvest Records SHSP 4063, 1977
Produced by Mike Thorne
Engineering & mixed by John Leckie
All Lylics by Tim Sebastion
(Side One)
A1. スプリング・ソング Spring Song (Harvey, Sebastion) - 10:00
A2. ラウンド・アンド・ラウンド Round & Round (Harvey, Sebastion) - 4:30
A3. フラッシュ・イン・ザ・パントリー Flash in the Pantry (Gulland, Sebastion) - 4:57
(Side Two)
B1. ファレロ・レディ Falero Lady (Harvey, Sebastion) - 4:08
B2. スネイクス・アンド・ラダーズ Snakes and Ladders (Harvey) - 5:15
B3. フォール・オブ・ザ・リーフThe Fall of the Leaf (Harvey, Sebastion) - 4:22
B4. メジャー・ディザスター Major Disaster (Foster, Sebastion) - 4:04
[ Gryphon ]
David Oberle - lead vocals, percussion
Brian Gulland - bassoon, English horn, recorders, backing vocals
Bob Foster - guitars, backing vocals
Richard Harvey - keyboards, piano, sax, recorders
Jonathan Davie - bass guitars
Alex Baird - drums

(Original EMI/Harvest "Treason" LP Liner Cover, Lyrics Inner Sleeve & Side 1/Side 2 Label)

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 惜しかったとしか言いようのないグリフォンのラスト・アルバム。レコード袋が歌詞カードになっているように初めてヴォーカル曲で統一された作品になっており、ドラムス兼任からヴォーカル専任になったデイヴ・オバリーの替わりに新ドラマーを迎え、前作『Raindance』を最後に脱退したギターのグレアム・テイラーの替わりにギターとベースも新メンバーが加わりました。A1はイエスの「クジラに愛を」Don't Kill the Whale (アルバム『Tormato』'78に収録)を思わせる16ビートのリフが印象的な曲で展開もイエス的ですが、16ビートなのにまるでファンキーでないのは4拍の大きなノリに欠けてイーヴンな16分音譜の羅列になっているからです。しかしA1は例外で、アルバム全体は16ビートへの取り組みが一応成功しており、新メンバーのギター、ベース、ドラムスの貢献が大きいでしょう。その代わり16ビートが決まれば決まるほどプレイは普通のロックバンドに近くなり、サード・アルバムまでのグリフォンはオリジナリティの強いアンサンブルを誇っていたんだなあ、と遠い目になってしまうので、新メンバーも上手い演奏をしているのですが、かつてのイギリス古楽のロック化を試みていたグリフォンの面影は唯一のインスト曲B2にうかがわれるのみで、この曲ではギター、ベース、ドラムスの新メンバーもオリジナル・コンセプトのグリフォンのアンサンブルを十分こなしており、おそらくライヴでは初期~絶頂期グリフォンの曲を演奏できるセンスと力量のメンバーだったろうと推察できます。少なくとも中途半端なヴォーカル曲導入とロック化の不消化が目立った前作『Raindance』より数等優れたアルバムで、『Raindance』発表のタイミングで本作が出ていたらもう少しバンドの寿命も延びたかもしれません。『Raindance』'75の時点で王立音楽院からの助成金オイルショック不況からリストラされたバンドは、予算不足のためにライヴ回数も全盛期(とはいえつい前年)の1/4に減らさざるを得ませんでした。
 何より本作は『Raindance』から2年も開いた1977年発売というタイミングが悪すぎました。せっかくの新生グリフォンによるレコード会社移籍第1弾の力作なのに肝心のレコード会社が本腰を入れて売り出す気がなかったのです。レコード会社のプレスシート(宣伝資料)はメンバーの意向をまったく無視して作成され、本作はシェイクスピアと同時代の劇作家シリル・ターナーの作品をモチーフにしたコンセプト・アルバムとされていました。メンバーはバンド自身によるCD再発のためにレコード会社から原版権を買い戻した'90年代までそれを知らず、そもそもシリル・ターナーって誰?と笑い話になったそうです。ジャケットはおろかアルバム・タイトルもレコード会社のAD部が勝手に決めたそうですが、これはバンド側にも責任はあるでしょう。エンジニアとミックスは解散間際~ソロ初期のビートルズ関連作からアビー・ロード・スタジオ専任エンジニアになり、XTCの初期作品を始めイギリスのパワーポップ系名プロデューサーになったジョン・レッキーで、プロデュースはディープ・パープルのスタッフから業界入りし、グリフォンの本作と前後してワイヤーの初期3作のプロデューサーとして名を馳せ、のちソフト・セルの「汚れなき愛」Tainted Loveをプロデュースし英米・全欧で大ヒットさせたマイク・ソーンです。レッキーは1949年生まれ、ソーンは1948年生まれとグリフォンのメンバーより数歳年上なくらいですが、1980年代にイギリスのロック界の重鎮になったので、グリフォンのメンバーよりも音楽的感性はよほど若かったことになります。というより、グリフォンはあまりに正統派のミュージシャンとして早熟すぎて、デビューと作風の確立も早すぎたためにメンバーの大学卒業の頃には時代遅れになってしまったバンドでした。かくして本作はパンク/レゲエ/ファンク/ニュー・ウェイヴの時代に咲いたプログレッシヴ・ロックの徒花となり、メンバーはバンドを見切ってカタギ(ただし音楽関係)に戻っていったのです。