人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sun Ra - When Sun Comes Out (Saturn, 1963)

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Sun Ra and his Myth Science Arkestra - When Sun Comes Out (Saturn, 1963) Full Album : http://www.youtube.com/playlist?list=PL2n1428fctHwef_ylwQ-94tiEiQ5-mECP
Recorded by Tommy Hunter at the Choreographer's Workshop, New York (the Arkestra's rehearsal space) in 1962, 1962-1963.
Released by El Saturn Records Saturn LP-2066, 1963
All songs by Sun Ra
(Side A)
A1. Circe - 2:34
A2. The Nile - 4:51
A3. Brazilian Sun - 3:50
A4. We Travel The Spaceways - 3:21
(Side B)
B1. Calling Planet Earth - 5:30
B2. Dancing Shadows - 5:56
B3. The Rainmaker - 4:33
B4. When Sun Comes Out - 4:54
[ Sun Ra and his Myth Science Arkestra ]
Sun Ra - piano, electric celeste, percussion
Walter Miller - trumpet
John Gilmore - tenor saxophone, drums, percussion
Teddy Nance, Bernard Pettaway - trombone
Marshall Allen - flute, alto saxophone, percussion
Pat Patrick - baritone saxophone, bongos, drums on A4
Danny Davis - alto saxophone on B4
Ronnie Boykins - bass
Clifford Jarvis - drums
Lex Humphries - drums on B1
Tommy Hunter - recording, gong, drums, tape effects
Theda Barbara - vocals
Ensemble vocals

 こう言うと普段は要注意みたいで語弊がありますが、今回は堂々とお勧めできます。1962年~1963年録音の本作『When Sun Comes Out』は傑作連発期の到来を告げる1961年~1962年録音の前々作『Art Forms of Dimensions Tomorrow』、1962年録音の前作『Secrets of the Sun』からさらにテンションの高い、圧倒的なパワーがみなぎる名盤で、録音順18作目にしてこれまで13枚が未発表作品に上ったサン・ラ・アーケストラにとっても、完成即発売されたアルバムでは『Jazz by Sun Ra』1957、『Super-Sonic Jazz』1957、『Jazz in Silhouette』1959、『The Futuristic Sounds of Sun Ra』1961に次ぐ第5作になった勝負作です。『Art Forms~』や『Secrets of~』を差し置いて『When Sun Comes Out』まで熟成を待ったサン・ラのすごみ、と前回書いたのはそういうことです。もっとも勝負で勝っても商売ではそれほどの成果が上がらなかったのは仕方のない面もあります。まだサン・ラ・アーケストラがニューヨークに進出して満2年、アーケストラとしてのライヴ活動はほとんど停滞し、メンバーたちは優秀なミュージシャン揃いでしたから生活費の捻出だけでも他のバンドと掛け持ちせざるを得ず、また音楽以外のアルバイトで食いつながなければなりませんでした。サン・ラは不服でしたが、アーケストラを最優先とすることでバンド外活動を許します。ニューヨーク進出後はシカゴ時代より編成を縮小したとはいえ、10人弱のグループに全員十分なギャラがまわるには相当な興行活動が必要ですが、ニューヨーク進出後のアーケストラは発売未定のアルバム制作をするだけのスタジオ・リハーサルバンドになっていました。よくこの時期に空中分解しなかったものですが、ノーギャラどころか持ち出しでもこの親分についていこう、というカリスマがサン・ラにはあったのです。
 1963年度にアーケストラが完成させたアルバムは本作に続いて『Cosmic Tones for Mental Therapy』(発表1967年)、『When Angels Speak of Love』(発表1966年)があり、1964年録音の『Other Planes of There』(発表1966年)までが無料練習場Choreographer's Workshopでの録音時代になっています。コレオグラファーズ・ワークショップでの自主録音は1961年録音の『Bad and Beautiful』(発表'72年)から1961~1962年の『Art Forms of Dimensions Tomorrow』(発表'65年)、1962年の『Secrets of the Sun』(発表'65年)、1962年の『What's New』(発表'75年)、本作と続いてきましたが、本作に続く3枚のアルバムも充実した内容にも関わらず、これら8枚中サン・ラのマネジメントが経営するサターン・レコーズが即刻リリースしたのは本作きりだったのはサン・ラには不本意だったでしょう。ようやく未発表に終わっていた50年代~64年までのセッション・テープが次々に新作とともに発売されたのは1965年に話題の新設フリー・ジャズレーベルESPからの『The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Volume One』発表によってアーケストラの認知度が急上昇した1965年~1967年のことで、一部の録音は70年代まで持ち越されました。本作『When Sun Comes Out』でこれまでとちょっと違うのは、それまでアーケストラの花形ソロイストはテナーのジョン・ギルモアでした。アルバムのほとんどのホーン・ソロをギルモアが吹いている場合もあったほどです。本作ではギルモアのソロらしいソロがなく、マーシャル・アレン(アルトサックス、フルート)かパット・パトリック、新人のダニー・デイヴィス(アルトサックス)がフィーチャーされています。古参メンバーのパトリックやアレンも他のバンドのビッグバンド要員でアルバイトしていたのですが、ギルモアはメイン・ソロイストとして他のアーティストのアルバムに積極的にレコーディング参加していました。そこでリハーサルへの参加が足りず、本番録音での出番も削られたのではないかと思えます。そこでギルモアのテナーに存在感がないのが唯一の不満と言えば言えますが、アレンやパトリックの演奏が埋め合わせて余りあるので後から気がつく程度の不在でしかありません。

(Original El Saturn "When Sun Comes Out" LP Liner Cover & Side A Label)

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 アルバムA1「Circe」は『Art Forms of Dimensions Tomorrow』以降の音響的作風を示すチャイナ・ゴングをフィーチャーしたパーカッション・アンサンブルにセダ・バーバラ(サイレント期のヴァンプ女優セダ・バラのもじりか)の妖艶なヴォーカリゼーションが絡む曲です。A2「The Nile」はシカゴ時代にもあったエキゾチック路線ですがやはりドラムス/パーカッションの録音とアレンジが異常で、こういう曲ではマーシャル・アレンがフルートにまわります。永遠に続くんじゃないかと思わせるリフだけの楽曲です。A3「Brazilian Sun」はちっとも暑さも清涼感もないピアノ曲で、ドラムスの他にパーカスが最低2人はいそうですし、ロニー・ボイキンスのベースも冴えますが、まったくサンバ・ビートに聴こえないのがミソでしょう。そして1967年に発表されることになる、56年~1961年シカゴ時代の録音をまとめたアルバムのタイトル曲、A4「We Travel The Spaceways」は旧来のレパートリーで本作収録のヴァージョンは再録ですが発表年度ではもっとも早く、バンドのヴォーカル・コーラスも器楽曲との違和感がなく、旧ヴァージョンを黒さと重さではるかに凌ぎます。
 B面に移ると、メンバーのチャットから始まるB1「Calling Planet Earth」はA面にはなかったアグレッシヴなフリージャズで、サン・ラのピアノが進行を仕切っていますがソロイストにフィーチャーされたパット・パトリックはバリトンサックスの限界を越えるプレイで、全体的にはパトリックとこの曲のみ参加のレックス・ハンフリーズの独壇場になっています。続くB2「Dancing Shadows」は特定のモード(特殊音階技法)を特定しないオープン・フォームなモード・ジャズでしかも4ビートですが、ホーン陣は良いのにピアノがオフ気味なのが惜しまれます。と思うとすかさず変態4ビート曲のB3「The Rainmaker」が出てくるのがアーケストラの醍醐味で、今回のレコーディングから加わった17歳のアルト奏者ダニー・デイヴィスとともに22歳のドラマー、クリフォード・ジャーヴィスが活力を吹き込んでおり、ジャーヴィスのドラムスはブルー・ノートのフレディ・ハバードジャッキー・マクリーン作品でも冴えていましたが主流派4ビートをやって4ビートに収まらない奔放さがあります。B4「When Sun Comes Out」はパトリックがドラムスを兼ねてツイン・ドラムスになり、手の空いている人間はパーカスで、あまり怖くないおばけ屋敷のような曲想にアレンとデイヴィスの兄弟子・弟弟子のアルトが気持ち良く吹いています。CDではボーナス・トラックに3分半ほどの「Dimensions of Time」がボーナス収録され、今回のアルバムでほとんど出番のなかったジョン・ギルモアのバスクラリネットとパーカッションのデュオ演奏になっています。これはなくてもいいのでリンクにも引いていません。本作はギルモアがメイン・ソロイストでないだけでもアーケストラの異色作なのですが、それ以上にバンドの一体感と勢いに圧倒されます。サン・ラの音楽に馴染めない人にもこれは説得力があるでしょう。筆者の好みでは黒さと抽象性の均衡があやうい『Art Forms~』や『Secrets of~』、この後の『When Angels~』や『Cosmic Tones~』の方が好きですが、サン・ラ堂々の公式発売第5作という事実には敬意を表さないではいられません。この辺のアルバムはとにかく黙って聴いて、それから話が始まるというものでしょう。