人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

本日の1時間作文、または荷台いっぱいのゴミ袋

 もう1か月あまり前になるだろうか。昼間部屋にいるとドアにノックがあり「車をどけて下さい」という若い男の声がした。アパートの中庭駐車場に不法駐車があり邪魔になっているらしい。たまにあることだ。在宅中の部屋には一通り訊いているのだろうが車どころか運転免許証もないのにとんだ藪蛇だ。「うちじゃないですよ」「そうですか」。その時はまたか、と思っただけだった。
 夕闇が下りた頃買い物に外に出ると、パトカーと警官、アパートの住人数人が1階の空き部屋の窓側に集まっているのとぶつかった。「どうもここにいるみたいなんですよね」もう1年ほど前からその部屋は空き部屋になっていて、カーテンも外されている。その前は得体の知れないペーパー・カンパニーが事務所にしていたらしく、玄関には●●商事という表札がかかっていたが人の出入りを見たことがない。「ドアの鍵はかかっているけど窓は開いてますね」それに明かりが点いている。部屋の中はまる見えで、カップラーメンの空容器と割り箸が窓際近くにある。「部屋の中にいるんならバスルームに隠れているんでしょう」どうもその人物が昼間から数時間おきに場所を移して中庭に不法駐車しているらしい。
 今不動産屋に問い合わせているが、もう営業時間を過ぎていてつかまらない、と警官。不法駐車で不審を尋ねるのと、入居者登録のない賃貸アパートの部屋への不法侵入の場合では警察の管轄部署が違ってくるらしい。もともと●●商事自体も怪しい入居者だったし、一度も人の出入りを見たことがない、と他の住人も口を揃えた。今不法侵入している人物がそこの関係者かは断定できないが、鍵のかかっていなかったという窓から出入りしている様子なのが不気味だ。ベランダ部分にはくたびれた男物のスニーカーが一対揃えてある。

 ところが警察から不動産屋への問い合わせはどうなったのか、翌日以降も男は空き部屋に住み続けた。1週間後ほどにはカーテンもかかった。もっともこのアパートの窓は規格より背が高いので既製品のつんつるてんのカーテンで、足元30cmからは部屋の一部が外からでも見える。男はカップラーメンを常食にしているようで、カップラーメンの空容器と割り箸、ペットボトル飲料の空容器ばかりを詰め込んだゴミ袋をベランダに出していた。相変わらず出入りは窓かららしく、いつも同じよれよれのスニーカーがベランダに出ている。

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 ここ数日、たぶんその男本人らしき人物を早朝の散歩、もう晩になってからの買い物の際に中庭で見かけた。男は軍手をして、朝はトラックの荷台からぎっしりふくらんだ半透明のゴミ袋、黒のゴミ袋をほぼ半々ずつ、トラックの荷台いっぱいのおよそ10数袋あまりを下ろしていた。トラックの荷台にはシートがかかっていて、ゴミ袋も通りすがりの一瞥では何が入っているのかわからなかった。
 晩に見かけると、この男は朝でも晩でも手拭いで頬かむりしていて顔が見えないのだが同一人物なのは体格や服装から間違いないのだが、晩にはやはりたっぷりふくらんだゴミ袋を半透明と黒合わせて朝と同じ数だけトラックの荷台いっぱいに詰め込んでいる最中だった。やはり荷台には用心深くシートをかけていて、一瞥では袋の中身はわからない。しかし朝にゴミ袋10数袋を積み下ろしておそらく部屋に運びこみ、晩には同じ分量のゴミ袋をトラックに積み込むのはいったい何を行っているのか。相変わらず窓から出入りしてカップラーメンとペットボトル飲料だけで食生活を送っている様子なのはいったいどういうことか。そもそも不法侵入か入居か確認は取れたのか。
 たぶん●●商事は看板こそ1年前に下ろして内装も撤去したが、賃貸契約自体は続いているのだろう。もともとペーパー・カンパニーだったろうから不思議ではない。それが最近に至って謎の手拭い男の個人作業場になったということだ。鍵を持たず窓から出入りしている事情はわからないが、裏の世界では何でもありだろう。しかし謎は朝運び込まれ晩に運びだされる大量のゴミ袋の中身に尽きる。単に預かり所を勤めるだけかもしれないが、ダンボール箱でも搬送用ケースでもなくぎっしり詰め込まれたゴミ袋が、一応半透明と黒に分けてあるらしいとはいえ、単なる中継にこんな手間をかけるだろうか。何か非常に不法な手段の違法投棄(民間の危険物処理業者は儲かる。薬品なら大金で引き受けて平気で川に流してボロ儲けする)の臭いがする。あるいはもっと猟奇的な解体作業が行われているかもしれないのだ。