人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

SPK - Auto Da Fe' (Walter Ulbricht Schallfolien, 1983)

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SPK - Auto Da Fe' (Walter Ulbricht Schallfolien, 1983) Full Album : https://youtu.be/qaBPJU9yfLQ
Side A originally released on various singles in 1978-1979.
Side B new studio recordings for this LP made in 1981.
CD Bonus Tracks (not on the original release) are taken from 1982 EP "Dekompositiones".
Released by Walter Ulbricht Schallfolien WULP 002, August 1983
Produced by Uli Rehberg
(Side A)
A1. Kontakt - 4:22
A2. Germanik - 6:09
A3. Mekano - 2:13
A4. Retard - 3:01
A5. Slogun - 6:14
(Side B)
B1. Metall Field - 5:57
B2. Walking On Dead Steps - 6:15
B3. A Heart That Breaks In No Time Or Place - 4:30
(CD Bonus Tracks)
9. Another Dark Age - 6:59
10. Twilight Of The Idols - 4:24
11. Culturecide - 4:49
(Alternate Walter Ulbricht Schallfolien "Auto Da Fe'" LP Front & Liner Cover)

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[ s.p.k. aka SePpuKu ]
EMS AKS (Graeme Revell) - syntheseizer (Side A)
Ne/H/il (Neil Hill) - synth, vox (Side A)
Danny Rumour - guitar (Side A)
David Virgin - bass (Side A)
Operator (Graeme Revell) - synthesizers, rhythms, treatments, vocals (Side B)
Wilkins - guitar, bass, tapes, vocals (Side B)
Tone Generator - synthesizers, treatments (Side B)
Mr. Clean - technician (Side B)
Oblivion (Graeme Revell) - synthesisers, elektronik rhythms, tapes, synkussion, vokals (Side B)
Ne/H/il (Neil Hill) - synthesisers, elektronik rhythms, tapes, treatments, vokals (Side B)
Pinker - drums, synkussion, metall perkussion, backing vocals (Side B)
Sinan - vocals (Side B, CD Bonus Tracks)
Graeme Revell - Synthesisers, Electronics, Metal Percussion (CD Bonus Tracks)
Derek Thompson - Trumpet, Keyboards, Metal Percussion (CD Bonus Tracks)

(Reissued Mute/Grey Area "Auto Da Fe'" CD Over & Liner Cover)

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 SPKがどういうバンド(と言っていいものか迷いますが、便宜上バンドということにしておきます)なのかは前回初のフルアルバム『Information Overload Unit』'81をご紹介した際に日本語版ウィキペディアの解説をもってたいがいのところは尽くしました。オーストラリアの精神病院の看護士グレアム・リーヴェルと入院患者のニール・ヒルのコンビによって創設されたSPKはオーストラリアでギター、ベース、ドラムスのメンバーを加えたバンド編成で1978年~1979年に数枚のシングルを発表し、1980年にはグレアム・リーヴェルがイギリスに渡ってゲスト・メンバーと初のアルバム『Information Overload Unit』を制作しますが、ニール・ヒルは渡英できず不参加とはいえSPKの音楽コンセプトはリーヴェルとヒル両者によるものでした。翌'81年にリーヴェルはオーストラリアに帰国しヒル全面参加の初アルバム『Leichenschrei』'82(タイトル「レイシェンシュレイ」はドイツ語で「死体の叫び」の意)を制作します。このアルバムを最後にヒルSPKを辞し、1978年~79年のシングル曲をA面に、1981年録音の未発表曲をB面に収録したコンピレーション・アルバム『Auto Da Fe'』'83がドイツのインディー・レーベルからリリースされましたが、'84年にニール・ヒルは自殺してしまいます。以降のSPKは実質的にグレアム・リーヴェルのソロ・プロジェクトになりました。
 本作『Auto Da Fe'』は1993年のCD再発時に1982年録音のEP「Dekompositiones」'83の全3曲をボーナス・トラックに収録した増補改訂版になりましたが、初期シングル4枚(重複収録曲が多い)に収められた全7曲中1曲「Factory」は「Mekano」と同一曲で歌詞違いを理由に未収録とはいえもう1曲の「No More」は完全なアルバム未収録曲ですから(本作でもA4「Retard」は『Information Overload Unit』で再演される同名曲のアーリー・ヴァージョンです)、グレアム・リーヴェルの渡英中にニール・ヒルがSoliPsiK名義でリリースしたシングル「See Saw c/w Chambermusik」'81(「Chambermusik」は『Leichenschrei』収録の同名曲のアーリー・ヴァージョン)ともども洩らさず収録してほしかったものです。リンクを上げます。
SPK - No More (7inch, 1978) : https://youtu.be/asAk67NZX8I - 2:00
SPK - Factory (7inch, 1979) : https://youtu.be/99bI1OzaF1s - 2:13
SoliPsiK - See Saw (7inch, 1981) : https://youtu.be/36axHuS3MZI - 2:18
SoliPsiK - Chambermusic (7inch, 1981) : https://youtu.be/gfVw_MkgOC4 - 3:10

(Original Walter Ulbricht Schallfolien "Auto Da Fe'" LP Liner Cover & Side A/B Label)

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 この『Auto Da Fe'』には未収録に終わった4曲を聴くと、「No More」はSPKにしてはストレートなパンク・ロック色が強すぎて外されたのかな、と思えます。「Factory」はなるほど「Mekano」と同じ曲で、これはいささか仕方がないでしょうか。グレアム・リーヴェル抜きでニール・ヒルがリリースしたSoliPsiK名義のシングルは『Leichenschrei』にも参加しているヒル夫人のマーガレットのヴォーカルをフィーチャーしていて、この夫人はダイエット薬の過剰摂取で亡くなりニール・ヒル後追い自殺をする原因になった女性ですが、「See Saw」も『Leichenschrei』でまったくアレンジを一新して再演される「Chambermusic」も埋もれさせるには惜しい出来です。リーヴェルがヒル不参加で作った『Information Overload Unit』が確かにヒルのコンセプトを感じさせるようにリーヴェル不参加のヒルのSoliPsiKもリーヴェル=ヒルSPKの作品であることを感じさせ、CDの収録可能分数からも上記4曲を網羅するのは十分に可能だったでしょうし、LPではB面に当たる'81年録音の未発表曲から'82年録音のEP「Dekompositiones」の3曲(9~11)を聴いていくとリーヴェル=ヒルのオリジナル・コンセプトがどんどん薄れて、ふたりの創設メンバーによる偶発性をはらんだアイディアのキャッチボールから、ひとりのトラックメイカーによるソロ・アーティストの作品に急激に移り変わった様子が見えるようです。SPKサウンドを期待するとこのアルバムは前半、つまりオリジナル・アルバムのA面の5曲しか満足させてくれません。もっともA面だけでもこれだけ堪能させてくれるなら、B面はおまけでも文句は言えないと割り切るべきかもしれません。
 LPではA面を占めていた「Kontakt」から「Slogan」(8ビートに乗せた轟音ノイズをバックに"Kill, Kill, Kill !"とか"SPK, SPK, SPK, OK !"とか叫んでいるだけ、しかもリズムに乗れてない)までの盛大にぶっ壊れた5曲から、LPのB面に当たる「Another Dark Age」以降、CDボーナス・トラックの9~11にいたるまで、まだポップスの基準からは十分実験的とはいえ打ち込みのドラム・マシーンが正確に16ビートを刻むダークなムードのファンク・リズムの楽曲になります。B1~3はクレジット通りなら'81年録音で『Leichenschrei』のアウトテイクになるはずですが、こうしてまとめて聴くと『Leichenschrei』よりもヒルが参加しているのか完全に不参加かわからないファンクなEP「Dekompositiones」に寄って聴こえます。コンピレーション・アルバム『Auto Da Fe'』制作時にはヒルSPKを辞めていますから、A面の初期シングル集はそのまま再録したとしてもB面の未発表曲はリーヴェルが手を加えて完成させたと考えられる。EP「Dekompositiones」も同様でしょう。『Auto Da Fe'』B面とEP「Dekompositiones」はSPKがリーヴェルのソロ・プロジェクトになった『Machine Age Voodoo』'84への橋渡しとなるもので、『Information Overload Unit』と『Leichenschrei』を挟むように『Auto Da Fe'』のA面とB面には断絶があると言うことです。しかしSPK最大の傑作『Leichenschrei』と『Auto Da Fe'』B面の落差も相当なもので、リーヴェルによるヒル色の払底がここまで念入りに行われたのを残念に思わずにはいられない気にもなります。ここで一旦ニール・ヒルの置き土産をそっくりそのまままとめておいた方が本作の価値は高かったでしょう。リーヴェルにはソロ・アーティストとしての未来がありましたがヒルにはなかったのですからなおさらそう思われるのもありますが、リーヴェルとヒルが組んだ最高傑作『Leichenschrei』に対して本作B面曲(とEP「Dekompositiones」の3曲)はあまりに期待をはぐらかされたような無念さが残るのです。