人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sun Ra - Sub Underground (Saturn, 1974)

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The Sun Ra Arkestra - Sub Underground (Saturn, 1974) Full Album : http://www.youtube.com/playlist?list=PLD883F250D0C411CA
Side A Recorded at Variety Studios, NYC, September 1974 or Studio/Rehearsal Recording 1967/1968.
Side B Recorded Live at Temple University, Philadelphia, September 20, 1974 or exept B3 Studio/Rehearsal Recording 1968.
Released by El Saturn Records Saturn 92074, 1974 / also released as "Temple U" 1974, reissued as "Cosmo-Earth Fantasy" 1977.
All composed and arranged by Sun Ra.
(Side A)
1. Cosmo-Earth Fantasy - 20:59
(Side B)
1. Love Is for Always - 6:48
2. The Song of Drums - 6:04
3. The World of Africa - 3:00
[ The Sun Ra Arkestra ]
Sun Ra - piano, Mini-Moog synthesizers, keyboards (clavinet, rocksichord)
Marshall Allen - alto saxophone, flute, oboe
John Gilmore - tenor saxophone, percussion
Eloe Omoe - bass clarinet
unknown - b
prob. Tommy Hunter - drums
prob. Atakatune - conga
prob. Odun - conga
prob. Eddie Thomas and other unidentified singer on B2
June Tyson and Cheryl Banks - vocal on B3

(Original El Saturn Alternate "Temple U" LP Handcrafted Front Cover & Side A Label)

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 本作も前々作『Out Beyond The Kingdom Of』('74年6月16日ライヴ録音)、前作『The Antique Blacks』('74年8月17日ライヴ録音)に続くフィラデルフィアの新設サターン・レーベル作品で、オリジナル盤のデータには'74年9月20日フィラデルフィアテンプル大学録音とされていました。ですが近年の研究では(1)A面は'74年9月ヴァラエティ・スタジオ録音、B面は従来通り'74年9月20日テンプル大学ライヴ録音、という説と、(2)A面は'67年または'68年のスタジオ録音、B面の1,2のみ従来通り'74年9月20日テンプル大学ライヴ録音でB3は68年のスタジオ録音、と2説あり、少なくとも全曲が'74年9月20日テンプル大学ライヴ録音ではないのは確かなようです。またメンバー記載がないため上記パーソネルは研究者の推定で、一応バンド公認サイトによるものです。
 74年に矢継早に新設サターン・レーベルからライヴ・アルバムをリリースしたのは、マネジメントに託してあるシカゴ本社の元々のサターン・レーベルよりも、今ではニューヨークを本拠地にアメリカ東部での活動が主なアーケストラにとってバンド自身がレーベル管理をする方が資金繰りをしやすいことからフィラデルフィアで新設サターン・レーベルを立ち上げたため、すぐにでもバック・カタログを増やしたかったものでしょう。本作など『Sub Underground』と『Temple U』の2種類のタイトルで同時発売され、さらに'77年には『Cosmo-Earth Fantasy』と改題再発売されています。サン・ラの場合ライヴ・アルバムといってもレパートリーは新曲が大半であり、また会場売りが主だったサターンのアルバムではライヴ盤の需要が高かったとも思われます。サン・ラのアルバムにハズレはありませんが、特にライヴ・アルバムはバンドの勢いをストレートに伝える好作が揃っています。そこで本作を聴くと、A面の大曲はスタジオ録音曲に間違いないでしょう。B面もライン録音で、仮にライヴ録音としてもA面曲に沿った選曲・編集を意図してバンドが制作したものと思われます。

(Reissued El Saturn "Cosmo-Earth Fantasy" LP Handcrafted Front Cover & Side A/B Label)

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 A面の「Cosmo-Earth Fantasy」は'77年の再発売時にタイトル曲になった本作の目玉ですが、'67年または'68年と指摘されてみると同時期の『Strange Strings』1968や『Atlantis』1969の主要楽曲やアンサンブルに似ています。ピアノの内部奏法から始まって7分間ノイズ演奏が続き、木琴アンサンブルが入ってくるとクラヴィネットのソロになり、14分目からはフルートのソロが曲の終わりまで続く3部構成の大曲で、定型リズム・パターンを持たないフリー・ジャズでもあり、'72年以降はファンクになったアーケストラの演奏とは違います。B2,B3はアフリカン・パーカッション曲ですがB2にはジューン・タイソンのヴォーカルが入ることから'74年のライヴ録音を部分編集したものでしょう。B3は再び'67年~'69年のサン・ラが頻用したクラヴィネットが出てきます。'69年を境にサン・ラはメイン楽器をミニ・ムーグ・シンセサイザーとロクシコードに変えるので、B3が'68年録音という推定は当たっていそうです。演奏も『Atlantis』A面に似ています。ちなみにロクシコードはエレクトリック・ハープシコードのメーカー名で、クラヴィネットはエレクトリック・チェレステのメーカー名になります。ピアノの内部奏法とはグランドピアノの弦を直接爪などで琴のように弾く奏法で、現代音楽以来発明された演奏法です。
 B2とB3はアフロ・パーカッション曲なのにまったくアプローチが異なりますが、どちらも本来は独立した楽曲ではなくインプロヴィゼーション・パートを編集したものとも考えられ、A面の「Cosmo-Earth Fantasy」もクラヴィネット独奏になった箇所で編集があって3部構成に整えられた可能性があり、少なくともこのA面曲は演奏の途中から始まって演奏の途中で終わっています。唯一本作で一般的にジャズらしい演奏が聴けるのがB1で、4ビートでアコースティック・ピアノ、テナーサックスによるムーディーなナンバーで、タイトルも「Love Is for Always」とスタンダード・バラードの向こうを張るようなメロウな楽曲・演奏です。結局統一感があるのか寄せ集めなのかよくわからないアルバムで、アーケストラとしても変則メンバーの録音ばかり集めたような作りですが、どさくさまぎれに出してしまったアウトテイク集という趣もあり、聴くまで予想がつかないのがサン・ラのアルバムですからこれもありでしょう。ちなみにオリジナルのアルバム・ジャケットやレーベルはすべて手書き手塗り手刷り手製で、100枚単位でデザインが異なるそうです。