人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ディジー・ガレスピー&チャーリー・パーカー Dizzy Gillespie & Charlie Parker - ソルト・ピーナッツ Salt Peanuts (Uptown, 1945)

イメージ 1

ディジー・ガレスピーチャーリー・パーカー Dizzy Gillespie & Charlie Parker - ソルト・ピーナッツ Salt Peanuts (Kenneth S. Clarke, John Birks Gillespie) (from the album "Dizzy Gillespie/Charlie Parker - Town Hall, New York City, June 22, 1945", Uptown Records UPCD27.51, 2005) : https://youtu.be/JcNkCG7A558 - 7:02
Recorded live at Town Hall, New York City, June 22, 1945
[ Personnel ]
Dizzy Gillespie (tp, vo), Charlie Parker (as), Al Haig (p), Curley Russell (b), Sid Catlett (ds)

 本物のビ・バップがどれだけ人を食った代物だったかを如実に示す最高の1曲。ディジーさんというのは「Wood'n You」や「Birks Works」、「A Night In Tunisia」や「Manteca」「Tin Tin Deo」など数々の名曲を書く一方で「Blue 'n' Boogie」「Groovin' High」「Dizzy Atmosphere」「Two Bass Hit」など脳天気な乗り乗り曲も平気で書き、極めつけはこの「Salt Peanuts」や「Oop Bop Sh'Bam」などのかけ声入りの運動会ナンバーや祭りばやし曲でしょう。祭りばやしは言うまでもありませんが、では運動会の方はと聴けば単純きわまりないリフをトランペットとサックスがユニゾンで吹いて、ブリッジやブレイクで吼えまくるホーンのソロとともにバンド一丸が全力疾走する、はっきり言ってそれだけの曲です。ガレスピーがこの曲を作ったのは'42年、有名な「ミントンズ」のチャーリー・クリスチャン(ギター)たちとのアフターアワーズ・セッション録音のあった翌年で、まだパーカーはカンザスにいてビ・バップはニューヨークの若手黒人ジャズマンが始めたばかりでした。こうしたかけ声入りブギは'41年にグレン・ミラー楽団の「WHAM (Re-Bop-Boom-Bam)」があり、カウント・ベイシー楽団も同趣向の「Basie Boogie」を同時期にリリースしています。「Salt Peanuts」を最初にレコーディングしたのはジョージ・オールド、コールマン・ホーキンスベン・ウェブスターのオールド=ホーキンス=ウェブスター・セクステットで('44年)、ガレスピー自身は'45年1月に自分のバンドのメンバー、ドン・バイアス(テナーサックス)の名義の録音に「Salt Peanuts」を提供したので、2月にパーカーを含んだ自己名義のギルド・レコーズの録音ではこの曲は取り上げませんでしたが(2月録音は「Groovin' High」「All The Things You Are」「Dizzy Atmosphere」の3曲でした)、ようやく5月に自己名義で「Salt Peanuts」を録音しました。この時は4曲の収録で、他に「Shaw Nuff」「Lover Man」「Hot House」が録音されています。「Lover Man」はサラ・ヴォーンをヴォーカルに迎えた、前年10月に録音されレコード発売されたばかりのビリー・ホリデイの新曲のカヴァーでした。

イメージ 2

イメージ 3

Dizzy Gillespie and His All-Stars - Salt Peanuts (Original Single 78prm. Guild Records 1003, 1945/from the album "Groovin' High", Savoy Records MV 12020, 1955) : https://youtu.be/6Tr3zPLOxVI - 3:16
Recorded in New York City, May 11, 1945
[ Dizzy Gillespie and His All-Stars ]
Dizzy Gillespie (tp, vo), Charlie Parker (as), Al Haig (p), Curley Russell (b), Sid Catlett (ds)

 ギルド・レコーズへの録音の後ガレスピーとパーカーはレッド・ノーヴォ(ヴィブラフォン)のバンドで6月に4曲・9テイクを録音しますが、その後パーカーはガレスピーのバンドから独立して新人マイルス・デイヴィスをトランペットに迎えたバンドを組み、パーカー自身のバンドの初録音はガレスピーの協力で'45年11月に実現します(「Billie's Bounce」「Now's The Time」セッション)。つまり'45年2月~'11月はビ・バップの中心人物ガレスピーとパーカーにとってもっとも重要な時期でした。なので、ニューヨークの発掘音源レーベル、アップタウンが2005年に上掲の'45年6月22日のタウン・ホール・コンサートの録音を発見、CD化リリースした時には話題騒然となりました。約40分、音質バランス良好のプロフェッショナル録音で、曲目は「Bebop」(7:03)、「A Night In Tunisia」(7:23)、「Groovin' High」(6:54)、「Salt Peanuts」(7:02)、「Hot House」(6:38)、「Fifty Second Street Theme」(2:14)の6曲、パーカーが遅刻してきたらしく「Bebop」はドン・バイアス入りのクインテットで始まり途中からパーカーが加わります。「A Night In Tunisia」からはガレスピーとパーカーのクインテット編成で、ドラムスは21歳のマックス・ローチですが「Salt Peanuts」と「Hot House」のみシド・カレットが代わって(まだローチには難しかったのでしょう)スタジオ録音の時と同じメンバーになります。当時レコードはSP盤で片面3分強が収録時間の限界でしたからスタジオ録音の曲はみんな短かくまとめられていたのですが、録音だけならディスク式やワイヤー式録音機で長時間録音できたので、1曲7分前後の時間をかけてたっぷりソロの応酬をするビ・バップのライヴが残されていたのです。この録音は2005年のジャズ界にツタンカーメン級の発掘として迎えられ、発売即モダン・ジャズの古典的ライヴ・アルバムになりました。100枚を軽く超えるパーカーの発掘ライヴでもメンバー、演奏、音質すべてにおいて最上級で、サヴォイやダイアル、ヴァーヴなどに残された公式スタジオ録音の最高のレコードに匹敵するばかりか、収録時間を気にせずソロをとるライヴのパーカーを聴くには数ある発掘音源でもこれほど抜群なものはなかったほどです。このアルバムについてはいずれ全編をご紹介したいと思います。