人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

コールマン・ホーキンス Coleman Hawkins - 身も心も Body and Soul (Bluebird, 1939)

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コールマン・ホーキンス Coleman Hawkins and His Orchestra - 身も心も Body and Soul (Johnny Green with Ed Heyman, Robert Sauer & Frank Eyton) (rec.Bluebird'39, from the album "Body And Soul: A Jazz Autobiography", RCA Victor ‎Records LPV-501, 1964) : https://youtu.be/58HFWEvbMVk - 2:59
Recorded at RCA Victor Studios, New York City, October 11, 1939
[ Personnel ]
Coleman Hawkins (ts), Gene Rodgers (p), Tommy Lindsay & Joe Guy (tp), Earl Hardy (tb), Jackie Fields & Eustis More (as), William Oscar Smith (b), Arthur Herbert (ds)

 イギリス人女性歌手ガートルード・ローレンスの専属ピアニスト時代にジョニー・グリーンが書き下ろし、イギリスでヒット後にブロードウェイのレビュー『Three's A Crowd』'30で使われレビュー版(リビー・ホルマン)、ポール・ホワイトマン楽団版を始め競作がいずれも大ヒットしてスタンダード化。ジャズ・ヴァージョンではルイ・アームストロング('32年)、ベニー・グッドマン('35年)がヒットさせましたが、テナー・バラードの定番曲に定着させたのはコールマン・ホーキンス(1904-1969)'39年の名演でしょう。ホーキンスにはその5年後、若いビ・バップのミュージシャンを集めてA面にディジー・ガレスピー作「Woody 'n' You」の初録音を収めたシングルB面で「Body and Soul」のオリジナル曲名義のビ・バップ流改作をやっています。バンドが若返ったこともありぐっとモダンな演奏で、特にリズムの柔軟性では'39年版「Body And Soul」と格段の差があります。

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Coleman Hawkins and His Orchestra - Rainbow Mist (Coleman Hawkins) (rec.Apollo'44, from the album "The Many Faces Of Jazz: Coleman Hawkins", Disques Vogue ‎CMDINT 9863, 1974) : https://youtu.be/mxRfm83tyzA - 2:55
Recorded in New York City, February 22, 1944
[ Personnel ]
Coleman Hawkins (ts), Dizzy Gillespie, Vic Coulson & Ed Vandever (tp), Leo Parker & Leonard Lowry (as), Don Byas, Ray Abrams & Budd Johnson (ts), Clyde Hart (p), Oscar Pettiford (b),Max Roach (ds)

 古い世代でもモダン・ジャズとの接点があるホーキンスよりも若いのに、ベニー・グッドマン(1909-1986)はアンチ・モダン派の上に白人スウィング・ジャズの大スターだったため、アンチ・モダンながら黒人ジャズの大スターだったルイ・アームストロング(1901-1971)のようにはビ・バップ以降のジャズマンからは慕われませんでした。しかしグッドマンは白人黒人混合バンドを率いた先駆者でもあり、ダンス・バンド的なビッグバンド演奏のみならず小編成のバンドも好んで録音してその可能性を切り開いた功績もあります。カウント・ベイシー楽団との競演でベイシー楽団の存在を認知させたのもグッドマンですし、ビリー・ホリデイの録音デビューはグッドマン・バンドのゲスト・ヴォーカルでした。グッドマン・トリオ版(ピアノは新人ビリーをレギュラー歌手に起用していたテディ・ウィルソン)の「Body and Soul」もモダン・ジャズ以前の白人ジャズのスタイルですが、これはこれで愛らしいものです。

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Benny Goodman Trio - Body and Soul (rec.'35, from the album "Trio-Quartet-Quintet", RCA Victor ‎Records LPM-1226, 1956) : https://youtu.be/GjWJgyTCG-s - 3:28
Recorded at RCA Victor Studios, New York City, July 13, 1935
[ Personnel ]
Benny Goodman (cl), Teddy Wilson (p), Gene Krupa (ds)

 グッドマンはカーネギー・ホールでコンサートを行った最初のジャズ・アーティストになりました(競演はカウント・ベイシー楽団からの選抜メンバー)。この大コンサートは全編録音されていましたが当時は市販メディアがなく、'50年にLPレコード開発最初のリリースとしてアルバム化されLPレコード最初の大ヒット・アルバムになりました。小編成からビッグバンド、ジャムセッションまでさまざまな編成で演奏がくり広げられたコンサートでトリオ版「Body and Soul」も再演され、モダン・ジャズと違って特にアレンジを変えていませんがこれもまたサックスではなくクラリネットがジャズの花形楽器だった時代を伝える演奏です。

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Benny Goodman Trio - Body and Soul (rec.'38, from the album "The Famous 1938 Carnegie Hall Jazz Concert", Columbia ‎Records SET SL-160, 1950) : https://youtu.be/zS7hlRp78AY - 3:10
Recorded live at Carnegie Hall Jazz Concert, January 16, 1938
[ Personnel ]
Benny Goodman (cl), Teddy Wilson (p), Gene Krupa (ds)

 ビリー・ホリデイ(1915-1959)はホーキンスの「Body and Soul」に参加しているトランペットのジョー・ガイと共演、一時は結婚もしており、またグッドマン楽団のピアノのテディ・ウィルソンのウィルソン楽団名義の録音ではレギュラー歌手だったので、録音以前から「Body And Soul」はビリー・ホリデイの持ち歌でした。ビリーはホーキンスの録音直後の'40年2月にさっそくコロンビア・レコーズ傘下のヴォカリオン・レーベルに録音していますが、その後もデッカ・レコーズに移籍して専属契約していた1945年に、レコード契約とは別にオールスター・コンサート形式のコンサート・ツアー"JATP (Jazz At The Philharmonic)"に参加し始めた時のライヴ録音が後にJATP主宰者ノーマン・グランツの起こしたマーキュリー・レコーズ傘下のクレフ・レコーズ(のちノーグランを経てヴァーヴに改名)から発売されました。このロサンゼルスのライヴは現地調達メンバーが多かったようで、ハワード・マギーワーデル・グレイチャールズ・ミンガス(22歳!)と新進気鋭の西海岸バッパーが神妙にバックバンドを勤めています。この曲のビリーは20代最後の名唱のひとつと呼べるものでしょう。


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Billie Holiday - Body and Soul (from the album "Billie Holiday ‎At Jazz At The Philharmonic", Clef Records ‎MG C-169, 1954) : https://youtu.be/jNja5KLWXtE - 3:24
Recorded live at Philadelphia Auditorium, Los Angeles in Jazz At the Philharmonic Concert, February 12, 1945
[ Personnel ]
Billie Holiday (vo), Howard McGhee (tp), Unknown (tb), Willie Smith (as), Illinois Jacquet, Wardell Grey & Charlie Ventura (ts), Milt Raskin (p), Dave Barbour (el-g), Charles Mingus (b), David Coleman (ds)

 JATPライヴ録音から12年、ビリー戦後初の「Body and Soul」スタジオ再録音が行われました。アルバム・タイトル曲にしたのも納得の素晴らしいメンバーたちの熟達の演奏が堪能できて、ジャズ・ヴォーカルのアルバムの演奏としては極上なのですが、29歳のライヴ録音で聴けた声の潤いと張り、艶やかさが42歳を迎えるこの年では後退して、優れたバラード歌唱テクニックを聴かせるヴァージョンになっています。ビリーの余命は残り2年半しかなく、声の衰えを指摘するのは容易なのですが、声質や声量よりもかつてのビリーにあった自在で絶妙なビート感覚の喪失に問題があり、表現力に富みテクニックに優れた上手い歌ではあっても全体的としては平坦な歌唱になってしまっている。それはこのヴァージョンの後で'45年のJATPライヴ版を聴くと嫌でも気づかされることで、それが翌'58年録音のビリー最大の問題作でフランク・シナトラ曲集でもある壮大で悲愴な弦楽オーケストラ・バラード(トーチソング)集『Lady In Satin』につながっていくのです。

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Billie Holiday - Body and Soul (from the album "Body and Soul", Verve Records ‎MG V-8197, 1957) : https://youtu.be/CMDlk6lGQOk - 6:22
Recorded at Capitol Studios, Los Angeles, January 7, 1957
[ Personnel ]
Billie Holiday (vo), Harry "Sweets" Edison (tp), Ben Webster (ts), Jimmy Rowles (p), Barney Kessel (el-g), Red Mitchell (b), Alvin Stoller (ds)