人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

エリック・ドルフィー&ブッカー・リトル Eric Dolphy & Booker Little Quintet - ザ・プロフェット The Prophet (Prestige, 1961)

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エリック・ドルフィーブッカー・リトル Eric Dolphy & Booker Little Quintet - ザ・プロフェット The Prophet (Eric Dolphy) (from the album "Eric Dolphy ‎At The Five Spot, Volume 1.", Prestige/New Jazz NJLP 8260, 1961) : https://youtu.be/vibyWODkz-Y - 21:25
Recorded live at The Five Spot Cafe, July 16, 1961
[ Eric Dolphy & Booker Little Quintet ]
Eric Dolphy (as), Booker Little (tp), Mal Waldron (p), Richard Davis (b), Ed Blackwell (ds)

 アルバム『Eric Dolphy ‎At The Five Spot, Volume 1.』はLPではA面がA1「Fire Waltz」、A2「Bee Vamp」の2曲、B面全面がこのエリック・ドルフィーの書き下ろし曲「The Prophet」1曲です。このクインテットのライヴは長い演奏が多く、'61年7月16日の収録は9曲10テイク(テスト録音で「Bee Vamp」リハーサル・テイクを録音)がありますが、4枚に分割収録された内訳は『Volume 1.』3曲、『Volume 2.』2曲、『Here and There』2曲(他3曲は別アルバムのアウトテイク)、『Memorial Album』2曲となっています。つまり『Volume 2.』と『Memorial Album』はAB面各1曲ずつの15分~20分に及ぶ長い曲が収められており、『Here and There』の2曲も1曲は13分にも及ぶ長い曲ですから、メディアがLPだった時代には曲の配分が大変だったようで、記録によると『Here and There』の2曲、『Volume 2.』の2曲、『Volume 1.』の3曲、『Memorial Album』の2曲の順でマトリックス番号が振られていますが実際の演奏順としては出来すぎていますから後から整理し直したものでしょう。ドルフィーはアルトサックス、バスクラリネット、フルートをほぼ均等に演奏する奏者ですからこの3つの楽器をどれも使った演奏が1枚に集められれば良かったのですが、フルート演奏曲はアルバム片面の長さの演奏しかなかったのでまず発売するベスト選曲の『Volume 1.』にはドルフィー、リトル、ウォルドロンのオリジナル曲を1曲ずつ選んだ収録になったと思われます。このライヴ盤の前月に録音されていた、「Fire Waltz」の初演入りのマル・ウォルドロンのスタジオ録音アルバム『The Quest』の発売が『Volume 1.』'61発売の翌年'62年になったのも『Volume 1.』を全曲新曲のアルバムにするための措置と考えられ、このクインテットのライヴ9曲はスタンダード2曲、ドルフィーのオリジナル2曲、リトル3曲、ウォルドロン2曲ですがリトルとウォルドロンの提供曲は1曲ずつ先にスタジオ録音があり、リトルの曲はアルバム『Booker Little』'60(及び参加作『Fantastic Frank Strozier』'60でも再演)で発売済みであり、ウォルドロンの『The Quest』は同じプレスティッジ社のニュー・ジャズ・レーベル作品でしたからリトルの急逝で追悼アルバムとしての話題性のあった本作の先行発売を優先したのでしょう。『The Quest』自体が佳曲を含んでも出来はあまり良くないアルバムなので、先にドルフィーとの『At The Five Spot, Volume 1.』を発売し呼び水にしておいて正解だったという気がします。
 この「The Prophet」で『At The Five Spot, Volume 1.』からは全曲を名曲名演と褒め称えることになりますが、ABAB'32小節、またはAA'32小節の単純きわまりないこの鼻歌程度のテーマからクインテットが引き出している豊かな音楽は驚くべきもので、まずこれはビ・バップから大勢が流れ込んだハード・バップの様式性とはまったく反対の発想によるバンド・コンセプトのアンサンブルで、フィーチャリング・ソロイストがアドリブ中に他のメンバーが割り込んでも良く、リズムはきっかけさえあれば倍テンポにもできるし標準テンポに戻ってもいい。音色・フレーズともアウトしたドルフィー、バグを起こしたようなリトルの吹奏がこれほどうまく乗った曲はありません。テーマ合奏ですら半音でクラッシュしているほどですし譜割りで言うと縦の線はばらばら、全然合っていないもいい所で、この曲はいかにかっこよく崩れているかが決め所のような曲なのです。ホーンが下がってピアノ・トリオだけになる箇所の、ウォルドロンの黒い暗い真夜中のような抒情がたまりません。リトルのアドリブはまだアクセント記号だらけになるにしても採譜が可能と思われますが、凄まじいリズム感で連発されるドルフィーのアルトサックスのラインはあぜんとして聴くしかない、分類も分析も無意味な解読不能の読経のようです。一見地味で冗長ですが、このクインテットのライヴ9曲の中で最高の演奏は深い情感、謎めいたムード、音楽の深みそのものでこの「The Prophet」に尽きる(次点は『Volume 1.』の他の2曲)だと思います。