人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

エリック・ドルフィー&ブッカー・リトル Eric Dolphy & Booker Little Quintet - ビー・ヴァンプ Bee Vamp (Prestige, 1961)

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エリック・ドルフィーブッカー・リトル Eric Dolphy & Booker Little Quintet - ビー・ヴァンプ Bee Vamp (Booker Little Jr.) (from the album "Eric Dolphy ‎At The Five Spot, Volume 1.", Prestige/New Jazz NJLP 8260, 1961) : https://youtu.be/C3oRt8yX5Vw - 12:30
Recorded live at The Five Spot Cafe, July 16, 1961
[ Eric Dolphy & Booker Little Quintet ]
Eric Dolphy (bcl), Booker Little (tp), Mal Waldron (p), Richard Davis (b), Ed Blackwell (ds)

 享年23歳で腎臓病のため夭逝したトランペット奏者ブッカー・リトル(1938-1961)は、エリック・ドルフィーとのこの逝去3か月前の双頭リーダー・クインテットがライヴを行った唯一のリーダー・バンド(ライヴ・アルバム4枚『Eric Dolphy ‎At The Five Spot, Volume 1.』『Volume 2.』『Here and There』『Memorial Album』に分散収録)になりました。リトル自身の名義のスタジオ録音アルバムは、
1. Booker Little 4 and Max Roach (United Artists, 1958)
2. Booker Little (Time, 1960)
3. Out Front (Candid Records, 1961)
4. Booker Little and Friend (Bethlehem, 1961)
 ――の4作がありましたが、短いキャリアはマックス・ローチ(ドラムス)のピアノレス・クインテットのメンバーとしての活動が主で、マックス・ローチのバンドでは、
1. Max Roach + 4 on the Chicago Scene (EmArcy, 1958)
2. Max Roach + 4 at Newport (Emarcy, 1958)
3. Deeds, Not Words (Riverside, 1958)
4. Award-Winning Drummer (Time, 1958)
5. The Many Sides of Max (Mercury, 1959)
6. We Insist! (Candid, 1960)
7. Percussion Bitter Sweet (Impulse!, 1961)
 ――の7作を残しています。他の参加作は、
1. Slide Hampton : Slide Hampton and His Horn of Plenty (Strand, 1959)
2. Bill Henderson : Bill Henderson Sings (Vee Jay, 1959)
3. Frank Strozier : Fantastic Frank Strozier (Vee-Jay, 1960)
4. Eric Dolphy : Far Cry (Prestige, 1960)
5. John Coltrane : Africa/Brass (Impulse!, 1960)
6. Abbey Lincoln : Straight Ahead (Candid, 1961)
 ――がすべてになり、フランク・ストロジャー(アルトサックス)のアルバムはローチ・クインテットの同僚ジョージ・コールマン(テナーサックス)の縁で、コルトレーンの『Africa/Brass』はドルフィーがアレンジャーに起用されていたことから、アビー・リンカーンのアルバムはリンカーンがローチ夫人だった縁で参加したものです。'58年~'61年の4年間では充実した活動でしたが、23歳とはあまりに惜しまれる早逝でした(遺児は男の子2人、女の子2人がいたそうです)。リトル在籍時のマックス・ローチクインテットのアルバムは名作揃いですし、リトルのアルバム4作もほぼ全曲リトルのオリジナル曲で、特にスコット・ラファロ(ベース)参加のトランペットのワンホーン・カルテット作品『Booker Little』が収録曲の半々をトミー・フラナガンウィントン・ケリーの両名人ピアニストが分け合い、ドラムスもロイ・ヘインズとなれば文句なしの名盤で、ドルフィー参加のアヴァンギャルド寄りの『Out Front』と並ぶアルバムです。遺作『Booker Little and Friend』もローチ・クインテットのメンバーと重なるメンバーでオーソドックスな『Booker Little』と尖鋭的な『Out Front』の中間を上手くこなした好作でした。同世代トランペット奏者のリー・モーガン、フレディー・ハバード、ドン・チェリーらに劣らないばかりか端正で清冽な演奏はマックス・ローチクリフォード・ブラウン以来の逸材と見込んだだけはあり、ブラウンの事故死に続いてリトルの夭逝は悲運もはなはだしいことでした。
 ローチのバンドで、またリトル自身のアルバムで聴けるリトルの演奏はクラシックの基礎を積んだというのが納得できる、丁寧で明瞭な音の抜けの良い歯切れ良い演奏です。ローチ・クインテットのライヴ・アルバムでもそうです。しかしドルフィーとの双頭クインテットではリトルは意識的に肉声的な表現を試しているのがこのリトル自身のオリジナル曲「Bee Vamp」ではわかります。ドルフィーや、またドン・チェリーからの感化もあってか、音程をベンドして意図的にピッチを歪めているフレーズが非常に多いばかりか、明らかに吹きそこなってミストーンを出してしまっている箇所も多い。マイルスほどのヴェテランならミストーンまで瞬時にフレージングに組みこむ巧みなアドリブになりますが、リトルの場合はまだ肉声的な奏法も偶発的なインプロヴィゼーションも運用途上にあるようなプレイです。曲は文句なしにかっこいい。ドルフィーバスクラリネットで自在にいなないていますし、面白いリズム構成の曲なのでベースとドラムスも弾んでいて、ピアノのウォルドロンは調律のいいかげんな楽器に手こずっておもちゃのピアノのような音色に四苦八苦しながら何とかソロらしいソロを弾いている。作者のリトルのプレイが一番あぶなっかしいのが面白いというか、スタジオ録音だったらこのテイクは没かもしれません。それでもスリリングな名曲名演になっているのは気合いだけは素晴らしいからで、こういう火事場泥棒みたいな猛突進の演奏はスタジオ録音ではなかなか出てこないでしょう。この乗りの前ではミストーンなど些細なことでいっそ愛嬌にすらなっており、それは後年発表されたテスト録音の別テイク(マイク・ポジションに問題があったか音質やバランスも悪く、テスト録音だからか演奏時間も短い)がこれよりずっと劣る出来なのと較べても明らかです。このクインテットが2週間限定とは言わずもっと長続きして、さらに優れたテイクを残してくれていたらまた別ですが、リトルは逝去3か月前、ドルフィーですら3年後には不帰の客となっていたのです。

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Eric Dolphy & Booker Little Quintet - Bee Vamp (Alternate Take) (from the album "Dash One", Prestige ‎Records MPP-2517, 1982) : https://youtu.be/K1qzy2SG_MU - 9:27
Place, Date & Personnel ; same as Master Take