人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sun Ra - On Jupiter (Saturn, 1979)

イメージ 3

Sun Ra and his Arkestra - On Jupiter (Saturn, 1979) Full Album : http://www.youtube.com/playlist?list=PLPt4GZP5ZGBZ5Ea13L9PGJT5OTI3wymUB
Recorded at an unknown studio, October 16, 1979
Released by El Saturn Records El Saturn 101679, 1979
All composed and arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. On Jupiter (Sun Ra) - 4:02
A2. UFO (Sun Ra, S.Clarke, T.Richardson) - 8:35
(Side B)
B1. Seductive Fantasy (Sun Ra) - 17:09
[ Sun Ra and his Arkestra ]
Sun Ra - piano, organ, keyboards, vocal
Eddie Gale - trumpet
Michael Ray - trumpet
Marshall Allen - alto saxophone, flute, oboe
John Gilmore - tenor saxophone
Julian Pressley - baritone saxophone
Danny Ray Thompson - baritone saxophone, flute
James Jacson - basoon, flute
Skeeter McFarland - electric guitar
Taylor Richardson - electric guitar
Steve Clarke - electric bass
Richard Williams - bass (possibly)
Atakatune (Stanley Morgan) - percussion
Luqman Ali (Edward Skinner) - drums
June Tyson and the band - vocal

 サン・ラのアルバム紹介は前回の『Omniverse』までで73作になりました。これまでも数期に区切ってご紹介してきましたが、現在ご紹介中の時期区分は今回の『On Jupiter』と次回の『I, Pharaoh』で完結します。その内訳は、
●第1期-1956年~1961年・シカゴ時代(デビュー・アルバムからニューヨーク進出準備まで)=13作(13枚)
●第2期-1961年~1969年・ニューヨーク潜伏時代(本拠地移転後60年代いっぱいのアルバム)=20作(20枚)
●第3期-1970年~1976年・国際メジャー進出時代(ヨーロッパ進出、メジャー契約の成功期)=36作(39枚)
●第4期-1977年~1979年・変則編成の試み(ソロピアノ、カルテット等)とサターン作品リリースの強化=20作(23枚)
 --と、こうして見るとサン・ラの多作は慣れっこになってしまっているとはいえ、第4期は正味3年の制作アルバム数では多作だった第3期以上の多産な時期だったのに驚かされます。1914年生まれのサン・ラは1977年~1979年には63歳~65歳だったわけで、活動がスローダウンこそすれますます活発になるなど同年輩のジャズマンには普通はあり得ず、ジャズマンではなく古代エジプト文化を築いた土星人を自称していたのがサン・ラですが、第4期にアルバム制作枚数が急増したのはアーケストラのレギュラー制を一旦登録制にしてメンバー編成を臨機応変なものにしたこと、それによってソロピアノ、カルテットなどの多作しやすい変則編成レコーディングを重ねたこと、また従来運営をマネジメントに任せていた自主レーベルのエル・サターン・レコーズを完全にバンド自身の運営とし、そのために新作カタログの充実を急いだことが原因に上げられます。しかし原因があっても実行が伴わなければそれ相応のことは起こらないので、特に古参メンバーと新参メンバーの年齢差が親子ほどに開き、また編成のレギュラー制も崩れたこの時期は事と次第によってはメンバーが離反していってしまう可能性もあったので、売れ行きは望めても利益率の低いメジャー・リリースより限りなく原価の低く利益率の高いサターン盤をがんがんリリースしたのは手の空いたメンバーの仕事を作るためもあったでしょう。ご覧の通り『On Jupiter』のオリジナル盤はサンプル盤用ジャケットにレコードを入れただけの仕様で、アーケストラのアルバム中もっともみすぼらしいものであり、第4期サン・ラのサターン盤はこれにせいぜいイラスト印刷紙を糊やセロテープで貼っただけのものがほとんどを占めます。

(Original El Saturn "On Jupiter" LP Liner Cover & 2005 Art Yard Front Cover)

イメージ 2

イメージ 1

 本作は前作『Omniverse』や、'78年後半~'79年度作品中の重要作『Lanquidity』『Sleeping Beauty』のように曲ごとにメンバー選抜制が取られたアルバムではなく、A面2曲・B面1曲のいずれもフル・メンバーのバンド作になっています。A1のアルバム・タイトル曲「On Jupiter」はミディアム・テンポのファンク・ナンバーで、『Lanquidity』からのフュージョン路線が板についてきたことを示す曲ですが、フランジャーのかかったギターがリズムを刻み、これまでになくキャッチーなヴォーカル・コーラスが入ってくると本作はダンス・アルバムなのがわかります。マーシャル・アレンのアルトサックスがコーラスの裏で咆哮していますが、ホーンやピアノのアドリブ・ソロをフィーチャーしたパートはありません。案外あっけなくA2「UFO」に進むと、イントロから全編完全なヴォーカル入りディスコ曲で唖然とします。この曲は珍しくサン・ラとメンバーのリチャードソン(ギター)、クラーク(エレクトリック・ベース)との3人共作ですが、おそらくジャムセッションから生まれたリフに歌詞を乗せたものでしょう。ここまでポップスそのものの曲は'76年以来の『Cosmos』『Lanquidity』『Sleeping Beauty』などメジャー路線のアルバムでもありませんが、アーケストラ結成以前のサン・ラがシカゴでR&Bやドゥ・ワップ、ロックンロールまで何でもござれのプロデューサーだったことを思えばこれもありでしょう。
 ではB面全面を占める大曲「Seductive Fantasy」はといえば、エキゾチック路線のインストルメンタル曲です。A面がヴォーカル曲、B面がインストルメンタル曲となるわけですから女性ヴォーカルのジューン・タイソンだけB面では抜けますが、たぶんスタジオ内で踊っていたに違いありません。エキゾチック路線は'50年代以来手を代え品を代え続けてきたアーケストラの定番ですが、演奏パターン次第でジャズ色が強くもムード音楽的になりもする楽想とリズム・パターンであり、ここではムード音楽ではありませんがジャズ色は極力薄く(ソロイストをフィーチャーしたアドリブ・ピックアップもなく)、ディスコの休憩室かチーク・タイムのような緩いダンス・ナンバーに仕上がっています。山場らしい山場もなく凹地らしい凹地もなく続くB面ですが、アルバムをループして聴くとB面のエンディングのピアノのブロック・コードがA1冒頭のピアノによるイントロにつながっているのに気づきます。ダンス・ミュージックは一定のビートがなるべく長く持続した方がいいので、その点でサン・ラの狙いにブレはありません。典型的なアーケストラ作品か代表作かと尋ねればこれは本流というにはあまりにポップに振れたアルバムと言わざるを得ないでしょう。しかしアーケストラがコンテンポラリーなダンス・ミュージックを演じてみせた実験作としていかにも'79年のサン・ラ作品らしい余裕と意欲、遊びが感じられるアルバムで、アーケストラのリスナーにもこうした作風を歓迎する層はあったに違いありません。そういう後の祭り的なアルバムです。