人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - インターフェイス Inter*Face (Brain, 1985)

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クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - インターフェイス Inter*Face (Brain, 1985) Full Album + Bonus Tracks : https://youtu.be/Imgq_PogjbU
Recorded at Moldau Musikstudio, Hambuhren, July, August 1985
Released by Brain Records / Metronome Musik GmbH Brain ‎827 673-1, 1985
Produced and composed by Klaus Schulze
(Side 1)
A1. On the Edge - 7:58
A2. Colours in the Darkness - 9:12 *Sleeve and label incorrectly show duration as 11:59.
A3. The Beat Planante - 7:24
(Side 2)
B1. Inter*Face - 24:49
(SPV CD Bonus Tracks)
5. The Real Colours in the Darkness - 12:02
6. Nichtarische Arie - 13:47
[ Personnel ]
Klaus Schulze - electronics
Ulli Schober - percussion

(Original Brain "Inter*Face" LP Liner Cover & Side 1 Label)

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 クラウス・シュルツェ第18作目の本作は第13作『Dig It』'80以来の古巣ブレイン・レコーズからのリリースで、前々作『Audentity』'83も初回盤は自主レーベルのIC、再発盤からはブレインから発売していましたが前作『Angst』'84ではICレーベルと平行して立ち上げた自主レーベルのインティーム(Inteam)・レーベルからのリリースと、制作=原盤権は'70年代から一貫してシュルツェ自身が掌握しているものの、自主レーベルのICやインティームからのリリースはディストリビューションの点で困難があった事情がうかがえます。映画のサウンドトラック盤だった『Angst』がシュルツェにしては珍しくA面3曲・B面2曲と楽曲をコンパクトにまとめたアルバムだったのを一部踏襲して、本作とやはりブレインからの次作『Dreams』'86は従来のLP片面1曲のスタイルを折衷したA面3曲・B面1曲の構成を取っており、やはりブレインからの次々作『En=Trance』'88で2枚組LP・片面1曲ずつの全4曲に戻りますが、同作では片面1曲の場合従来1曲25分~30分に及んでいた大作指向から1曲を18分未満に収めるようになっていることでもアルバム構成意識への変化が感じられます。これは第12作『Dune』'79まではアナログ楽器とデジタル楽器の併用でしたが、『Dig It』からの使用楽器の完全デジタル化に伴いアナログLPでは収録時間量によってS/N比が音の歪みやヒスノイズに明確に表れてしまうため、LP片面への収録時間量を意図的に抑えたとも考えられますし、ポップスの基準からは十分長いものですがシュルツェとしては従来より楽曲をコンパクトに仕上げる指向に意識が変わっていたとも思えます。
 シュルツェの肖像画をジャケットなのもしばらく冷たい感触のジャケット・アートのアルバムが続いていたシュルツェ作品としては、本作ではリスナーに親しみやすさをアピールしたものと思えますし、また使用楽器はデジタル化していますが録音は『Dune』以来のアナログ録音であることも明記されています。楽曲はアップ・テンポのA1、A2にミディアム・テンポのA3、25分弱の大作ながら細分化されたビートでアップ・テンポ曲と言えるアルバム・タイトル曲B1と、全曲がタイトなドラムスとパーカッションによる定速リズムで、『Audentity』や『Angst』よりロック色の強い、ディスコ=ファンク色を採り入れたサウンドと評されているようです。30年以上を経て聴く現在のリスナーはこのアルバムをシュルツェ作品の系譜の中で聴きますから『Body Love Vol.1 & 2』'77の発展として自然に聴けますが、発表当時には前年のブルース・スプリングスティーンの『Born In The U.S.A.』'84の爆発的大ロング・ヒットに代表されるような、デジタル・ドラムスとシンセサイザーによるオーケストレーションのロック=ポップスはほとんど陳腐化するほどに蔓延していたので、オリジネーターであるシュルツェは割を食う立場を余儀なくされたと言えて、例えばA1などはシンセサイザー・ベースによるベース・ラインがシュルツェの楽曲としてはかつてないほどフィーチャーされていますし、フェアライト・シンセサイザーによるオーケストラ・ヒットのサウンドもシュルツェ作品には初めて使われています。リズム・ブレイクを多用してアップ・テンポ曲にアンビエントサウンドを同居させたA2も当時のシンセサイザー・ロック=ポップスには見当たらないもので、よく聴けば'80年代半ばにアメリカのチャートのトップ40入りするような音楽とは立ち位置がまったく異なるアーティストのアルバムであることがわかる。しかし外見からはシンセサイザー音にまみれたこのアルバムは、流行のシンセサイザー・ポップとどう違うの、と一蹴されてしまいかねないテクノロジー面での不運な近似が起こっていたので、シュルツェの新作が再び注目されるようになるにはロック=ポップス界でのシンセサイザー流行が飽和状態と行き詰まりを起こして、なおシュルツェが作風の進展を見せた'80年代末以降を待つことになります。今聴けば停滞でも何でもない本作や次作『Dreams』、次々作『En=Trance』が知名度の低い、シュルツェ低迷期の作品に見なされがちだったのはそういった事情でした。これはキャリアの長いアーティストでは往々にして迎える局面で、本作ほどのアルバムでも潜伏期間の作品と見える時期が起こり得るということでもあります。