人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

コズミック・ジョーカーズ The Cosmic Jokers - ジルズ・ツァイツシフ Gilles Zeitschiff (Kosmische, 1974)

イメージ 1

コズミック・ジョーカーズ The Cosmic Jokers - ジルズ・ツァイツシフ Gilles Zeitschiff (Kosmische, 1974) Full Album
Recorded at The Zeitschiff Studio Dierks, Stommein by Dieter Dierks, December 1972 & February-May 1973
Released by Metronome Records GmbH, Die Kosmischen Kuriere KM 58.012, 1974
Musikeinblendungen von den LP "Seven Up" (Ash Ra Tempel & Timothy Leary), "Lord Krishna von Goloka" (Sergius Golowin), Tarot (Walter Wegmuller).
Remixes von Dieter Dierks, Quadro Mix von Klaus Schulze, Gille Lettmann
(Seite 1) : Mr. Energy : https://youtu.be/QAv5ds6Kt48
A1. Tim Bleibt Bei Uns (G. Lettmann, K. Schulze) - 7:05
A2. Downtown (Ash Ra Tempel, B. Barritt, T. Leary) - 2:41
A3. Lord Krishna (J. Dollase, S. Golowin) - 1:24
A4. Power Drive (Ash Ra Tempel, B. Barritt, T. Leary, G. Lettmann) - 1:36
A5. Bei Tim (G. Lettmann, K. Schulze) - 1:50
A6. Right Hand Lover (Ash Ra Tempel, B. Barritt, T. Leary) - 0:33
A7. Cosmic Courier Bon Chance (B. Barritt, G. Lettmann, K. Schulze) - 3:08
(Seite 2) : Silver Channels : https://youtu.be/O6sigiPM0Xo
B1. Swiss High-Lands (G. Lettmann, K. Schulze) - 1:13
B2. Der Magier (G. Lettmann, H. Grosskopf, H. Enke, J. Berkers, J. Dollase, K. Schulze, M. Gottsching, W. Wegmuller, W. Westrupp) - 2:47
B3. The Electronic Scene (Ash Ra Tempel, B. Barritt, T. Leary, G. Lettmann, K. Schulze) - 3:50
B4. Electronic Rock Zeitalter (Ash Ra Tempel, B. Barritt, T. Leary, G. Lettmann, K. Schulze) - 11:10
B5. So Beautiful (Ash Ra Tempel, B. Barritt, T. Leary, Klaus Schulze) - 3:35
B6. The Queen Of Sunshine (Ash Ra Tempel, B. Barritt, T. Leary, G. Lettmann, K. Schulze, L. Elliot) - 3:15
B7. Meine Kosmische Musik (G. Lettmann, K. Schulze) - 1:50
[ Personnel ]
Klaus Schulze - electronics, percussion, mixes
Gille Lettmann - lyrics, voices, mixes
Rolf-Ulrich Kaiser, Brian Barritt, Timothy Leary, Liz Elliot, Sergius Golowin, Walter Wegmuller - voices

(Original Kosmische Musik "Gilles Zeitschiff" LP Liner Cover & Seite 1/2 Label)

イメージ 2

イメージ 3

イメージ 4

 前回うかつに「コズミック・ジョーカーズ・セッション作品でもリミックス・アルバム2作『プラネッテン・シット・イン(Planeten Sit-In)』と『ジルズ・ツァイツシフ(Gilles Zeitschiff)』にはシュルツェの姿は見つからない(リミックスしたエンジニアのディーター・ダークスのアルバムである)」というようなことを書いてしまいましたが、ちゃんと調べて書かないと恥をかくものです。『プラネッテン・シット・イン』についてはそう言っても良く、シンセサイザーなら弾けるダークスがコズミック・セッションの純コズミック・ジョーカーズ作品『コズミック・ジョーカーズ(The Cosmic Jokers)』『ギャラクティック・スーパーマーケット(Galactic Supermarket)』(『サイ・ファイ・パーティー(Sci-Fi Party)』はサンプラー・アルバム)を楽曲の痕跡もなプラネッテン・シット・インいほどサウンドだけを粉微塵に解体再構成した過激なアルバムでした。その際にダークスはシンセサイザーを使用しており、本作『ジルズ・ツァイツシフ』も同趣向の作品という印象が強く残っていましたが、クレジットを見ると『プラネッテン・シット・イン』とは対照をなす制作内容なのに気づきます。本作は『プラネッテン~』では対象にしなかったティモシー・リアリーアシュ・ラ・テンペル『セヴン・アップ(Seven Up)』、ヴァルター・ウェグミュラー『タロット(Tarot)』、セルギウス・ゴロウィン『ロード・クリシュナ・フォン・ゴロカ(Lord Krishna von Goloka)』の文化人との協賛アルバム3作に的を絞り、ヴォイス・トラックと若干のサウンドは残してレーベルのスタッフのジル・レットマン(1950-)が歌詞とヴォイスを全面的に担当、サウンドにいたってはほぼクラウス・シュルツェがオリジナルのバンド・サウンドを一人で差し替えて4チャンネル・ミックスまでをレットマンとシュルツェが進め、最終的にダークスがリミックスしていますが、シュルツェは『セヴン・アップ』には参加していなかったためにA2, 4, 6, 7、B3, 4, 5, 6とアルバム半数を占める『セヴン・アップ』からのサンプリング曲はアシュ・ラ・テンペルの曲をシュルツェが再録音したものになります。ダークスの最終リミックスとはいえ事実上シュルツェによるサンプリング&オーヴァーダブ・アルバムであり、一聴するとポエトリー・リーディングにシンセサイザーサウンドが流れているだけの散漫なアルバムのようですが、聴覚だけの興味でサウンドを解体再構成していた『プラネッテン~』とは違っていかにもシュルツェらしく構成に工夫のあるアルバムです。
 アナログ盤で言うとA面が19分、B面が28分と大きく差があり、各面7曲構成ですが実際にはシームレスでA面は「Mr. Energy」、B面は「Silver Channels」とLPの片面は通して1曲になっており、『プラネッテン~』の点描的なサウンド構成ではなく初期シュルツェ特有のドローンを意識したミニマム手法が特徴になっています。楽曲性はアルバム単位で制作された諸作よりも低く断片的ですが、オーヴァーダブ分も含むヴォイス・コラージュの方にウェイトがあり、具体的な記名性の高いヴォイスを前面に出すと分厚いメロトロン・コーラスなどは効果を相殺してしまうので、あえて淡いサウンドに処理した(A面とB面では質感も違いますが)と思われます。オリジナル・アルバムとして作られた『セヴン・アップ』『ロード・クリシュナ~』『タロット』がKM58,001、KM58,002、KM58,003で、W&Wやシュルツェ、ヴァレンシュタインアシュ・ラ・テンペルのアルバムを挟んで『コズミック・ジョーカーズ』『ギャラクティック・スーパーマーケット』がKM58,008、KM58,010(KM58,009はポポル・ヴーの『聖なる賛美~山上の垂訓(Seligpriesung)』)で、『サイ・ファイ・パーティー』『ジルズ・ツァイツシフ』『プラネッテン・シット・イン』がKM58,011、KM58,012、KM58,013と続くのは録音済み素材のリミックス作業が平行して行われたのを想像させ、サンプラー・アルバム『サイ・ファイ・パーティー』がコズミック・セッションのうち『ロード・クリシュナ~』を除く全作を対象にしていたのに対して『プラネッテン・シット・イン』と『ジルズ・ツァイツシフ』が対象アルバムの重複を避け、自宅スタジオを設けていたシュルツェに『ジルズ~』の方を任せてサウンド・カラーの異なるアルバムにしたのはレーベル主のロルフ=ウルリッヒ・カイザーとエンジニアのディーター・ダークス両者の判断でしょう。本作は『タロット』の半数や『ロード・クリシュナ~』『ギャラクティック~』のようにシュルツェの本来の指向と合った成果の出た企画ではこの時点ではなく、シュルツェがジル・レットマンの企画のバックを勤めた面の方が強く、奔放なリミックス処理ではダークスが好き放題やった『プラネッテン~』の方が強烈ですが、ここまで徹底したサンプリング・アルバムはシュルツェは'80年代末のサンプリング機材の発達まで作らないので(またシュルツェはサンプリング機材の導入でも重厚な作風を続けるので)、その点でもレーベルの委託によるとは言えシュルツェにとっては異色作となった作品です。'70年代シュルツェ唯一のゆるふわアルバムとでも言うべきでしょうか、アシュ・ラ・テンペルの女性ヴォイス・アルバム『スターリング・ロジ(Starring Rosi)』'73のシュルツェ版のような趣きもあります。