人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ヴァルター・ウェグミュラー Walter Wegmuller - タロット Tarot (Kosmische, 1973)

イメージ 1

ヴァルター・ウェグミュラー Walter Wegmuller - タロット Tarot (Kosmische, 1973) Full Album : (Disk 1) https://youtu.be/8q14gkZvdDc : ;(Disk 2) https://youtu.be/FzMGF4yw6aE
Recorded at The Studio Dierks, Stommein by Dieter Dierks, December 1972
Released by Metronome Records GmbH, Die Kosmischen Kuriere KK58.003, October 1973
(Seite 1)
A1. Der Narr (The Fool) - 3:55
A2. Der Magier (The Magician) - 4:38
A3. Die Hohepriestern (The Highpriestess) - 4:17
A4. Die Herrscherin (The Empress) - 4:16
A5. Der Herrscher (The Emperor) - 2:58
A6. Der Hohepriester (The High Priest) - 3:10
(Seite 2)
B1. Die Entscheidung (The Lovers) - 3:51
B2. Der Wagen (The Chariot) - 5:15
B3. Die Gerechtigkeit (Adjustment) - 3:01
B4. Der Weise (The Hermit) - 4:01
B5. Das Glucksrad (Fortune) - 3:38
B6. Die Kraft (Lust) - 3:26
(Seite 3)
C1. Die Prufung (The Hanged Man) - 4:56
C2. Der Tod (Death) - 1:19
C3. Die Massigkeit (Art) - 4:44
C4. Der Teufel (The Devil) - 3:35
C5. Die Zerstorung (The Tower) - 4:00
(Seite 4) : 23:00
D1. Die Sterne (The Star) - (6:15)
D2. Der Mond (The Moon) - (2:50)
D3. Die Sonne (The Sun) - (3:03)
D4. Das Gericht (The Aeon) - (2:06)
D5. Die Welt (The Universe) - (8:41)
[ Personnel ]
Walter Wegmuller - concepts, vocals, composer
Manuel Gottsching - guitar, composer
Walter Westrupp - guitar, composer
Jerry Berkers - guitar, bass, composer
Klaus Quadro Schulze - drums, electronics, composer
Jurgen Dollase - keyboards
Hartmut Enke - bass, composer
Harald Grosskopf - drums, composer

(Original Kosmische "Tarot" LP Inner Box & Inner Credit Sheet)

イメージ 2

イメージ 3

イメージ 4

イメージ 9

 ここから先は怒涛の怪作セッション、Ohrの姉妹レーベルKosmische Musikによる通称「The Cosmic Jokers Sessions」アルバムが続きます。正確にはコズミック・ジョーカーズ・セッションのアルバムは'72年8月録音の『Timothy Leary & Ash Ra Tempel / Seven Up』(Kosmische, 1972)から始まっていました。アメリカの科学者ティモシー・リアリー博士(1920-1996)はLSDの研究家・普及活動家でヒッピーの教祖的英雄でしたが、当時アメリカを追われてスイスに亡命中で、在米時にもLSD普及活動のためのロック・バンドとの共演アルバムがありましたが、ドイツでもせっかくリアリー博士が隣国にいるんだからアルバムを作ろうじゃないかという企画が創設メンバーのクラウス・シュルツェがソロ転向のため脱退後マニュエル・ゲッチング(ぎたー、エレクトロニクス)とヘルトムート・エンケ(ベース)にゲスト・メンバーを迎えて活動していたアシュ・ラ・テンペルの新作アルバム企画に持ち上がり、『Seven Up』はアシュ・ラ・テンペルのアルバムというよりはバンドの関係者を多数招いてリアリー博士を囲んだヒッピーのパーティー・アルバムになりました。同作はシュルツェは参加していませんが、『Seven Up』の成功に味をしめたOhr、Pilz、Kosmische Musik主宰のロルフ=ウルリッヒ・カイザーが次にタロット研究家でタロットカード作家のヴァルター・ウェグミュラー(1937-)を主役に、ウェグミュラーの新作タロットカード22枚をコンセプト・テーマにタロットカードを特典に封入した2枚組LP大作のボックス・セットがアルバム『タロット』で、このアルバムから'72年~'73年にかけて、クラウス・シュルツェはOhr、Pilz、Kosmische所属の男性フォーク・デュオのヴィットゥーザー&ヴェストルップ、アシュ・ラ・テンペルのゲッチングとエンケ、ヘヴィ・プログレッシヴ・ロックのバンド、ヴァレンシュタインのメンバーとともに7作におよぶ「The Cosmic Jokers」セッションのアルバム('72年~'74年リリース)のレコーディングを始めることになります。
 本作を皮切りにゼルギウス・ゴロヴィン『Lord Krishna von Goloka』'73、ザ・コズミック・ジョーカーズ『The Cosmic Jokers』'74、同『Planeten Sit-In』'74、同『Galactic Supermarket』'74、同『Sci Fi Party』'74、同『Gilles Zeitschiff』'74と続くアルバムのうち、『Sci Fi Party』と『Gilles Zeitschiff』は『The Cosmic Jokers』『Planeten Sit-In』『Galactic Supermarket』の3作録音時の未発表テイクをコラージュした編集盤ですが、コズミック・ジョーカーズ・セッションのアルバムはもともと即興セッションから編集によって曲にまとめた性格がプレ・コズミック・セッションの『Seven Up』から強かったので、未発表テイクの編集盤と言えどもアルバムとしてはオリジナルなものになっています。むしろ異質なのはタロット作家ウェグミュラーや東洋思想研究家ゼルギウス・ゴロヴィン(1930-2006)をコンセプト・メーカー、作詞家、ヴォーカル(語り)に迎えた『タロット』と『ロード・クリシュナ・フォン・ゴロカ』なので、この2作ではヴォーカル(語り)のパートを考慮して作曲された曲と即興セッション部分が混在しており、特にシュルツェが演奏パートのリーダーシップを取る場面が多いのです。『The Cosmic Jokers』『Planeten Sit-In』ではゲッチングのギターとシュルツェのエレクトロニクスが主役のためアシュ・ラ・テンペルの発展型になっており、『Galactic Supermarket』はレーベル仲間のゲストを招いたシュルツェのアルバムと言っていいほどクラウス・シュルツェの音楽になっています。
 このアルバムは乗り乗りのロックンロールで始まりウェグミュラーがスーパー・グループのメンバーを一人ずつ紹介していきますが、全員アンダーグラウンドのミュージシャンなので「ベース!ジェリー・バーカーズ!」(この1曲目はエンケ不参加で名前が呼ばれないので、同時録音されたアシュ・ラ・テンペルの『Join Inn』ではエンケの名前がトップにクレジットされたのかもしれません)などと一人一人名前を呼ばれても豪華メンバーどころか笑ってしまうのですが、アシュ・ラ・テンペルやシュルツェはもとよりヴィットゥーザー&ヴェストルップも当時のドイツを代表するヒッピーのフォーク・デュオですし、ヴァレンシュタイン英米スタイルのプログレッシヴ・ロックとはいえ『Cosmic Century』(Kosmische, 1973)を頂点に初期4作の名盤を持つ、同期のバース・コントロールよりは確実に上でヘルダーリン、後輩のノヴァリスと並ぶ実力派です。アルバムD面の5曲は5曲シームレスの23分の大作で、クラウス・シュルツェがアシュ・ラ・テンペルとヴィットゥーザー&ヴェストルップ、ヴァレンシュタインのメンバーを動員し、ヴォイス・アクターにウェグミュラーを配したような、'72年末時点でのドイツのロックの最上の面ばかりを抽出したような出来になっています。メロディアスでドラマティックでかつ幻想的な瞑想性があり適度に実験的、しかもロックの乗りがあるこのアルバムは各アーティストでは(シュルツェでさえ)まだこの時点では達成できなかったもので、メンバー間の結束すら感じられる'70年代前半のドイツのロックの粋を集めた金字塔的な大傑作とすら言えます。本作をよりコンパクトにして瞑想性を強め、アコースティックにしたのが『ロード・クリシュナ~』になります。単なる企画セッションではないのです。

(Original Kosmische "Tarot" LP Disk 1 & Disk 2 Label)

イメージ 5

イメージ 6

イメージ 7

イメージ 8