人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ゼルギウス・ゴロヴィン Sergius Golowin - ロード・クリシュナ・フォン・ゴロカ Lord Krishna von Goloka (Kosmische, 1973)

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ゼルギウス・ゴロヴィン Sergius Golowin - ロード・クリシュナ・フォン・ゴロカ Lord Krishna von Goloka (Kosmische, 1973) Full Album : https://youtu.be/y_kguNMZusg
Recorded at The Studio Dierks, Stommein by Dieter Dierks, 1972 to 1973
Released by Metronome Records GmbH, Die Kosmischen Kuriere KK58.002, 1973
All Songs written by Golowin, Westrupp, Witthuser, Berkers, Dollase, Schulze, Mierke except A2 written by Golowin and Dollase
(Seite 1)
A1. Der Relgen - 16:57
A2. Die Weisse Alm - 6:09
(Seite 2)
B1. Die Hoch-Zeit - 19:37
[ Personnel ]
Sergius Golowin - concepts, lyrics, vocals
Walter Westrupp - acoustic guitar, flute, tablas, percussion
Bernd Witthuser - acoustic guitar
Jerry Berkers - guitar, bass, bongos
Jurgen Dollase - piano, Mellotron, vibraphone, triangle, guitar
Klaus Schulze - drums, electronics, guitar, Mellotron, organ, percussion
Jorg Mierke - congas, triangle, glockenspiel

(Original Kosmische "Lord Krishna von Goloka" LP Liner/Gatefold Inner Cover & Seite 1/2 Label)

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 本作はコズミック・ジョーカーズ名義作ではありませんし、ティモシー・リアリー博士や謎のタロット作家ヴァルター・ウェグミュラーの大作のような派手な外見もなく、何よりアシュ・ラ・テンペル組が不参加なので穏やかなジャケットともども何となく後回しにしていた人も多いのではないかと思います。アシュ・ラ・テンペルのゲッチングとエンケがいないコズミック・ジョーカーズ・セッションとなるとシュルツェ以外の面子は男性フォーク・デュオのヴィットゥーザー&ヴェストルップ(パーカッションのヨルグ・メルケはこのデュオのサポート・メンバー)、ヘヴィ・プログレッシヴ・ロックのバンド、ヴァレンシュタインのメンバーとなるので、アコースティック色の強いソフト・サイケデリック・セッションの本作には『タロット』に参加していたヴァレンシュタインの辣腕ドラマー(のちにシュルツェのソロ作、エンケ脱退後のアシュ・ラに加入)のハラルド・グロスコフも不参加です。東洋思想研究家で多くの著作があるというゼルギウス・ゴロヴィン(1930-2006)も日本では無名なので、シュルツェ以外のメンバーはヴィットゥーザー&ヴェストルップとヴァレンシュタイン、となるとゲッチングのサイケデリック・ギターも聴けないとあっては限りなく期待度は低くなります。しかし本作は大作『タロット』やミュージシャン・オンリーのコズミック・ジョーカーズ名義作とは別の魅力を持った名盤で、ディーター・ダークスの録音とミックスの冴えもありますが、ほとんどシュルツェの『Blackdance』や『Picture Music』と同じ音楽性と質感を持ち、必ずしもシュルツェがリーダーシップを取ったアルバムではないにしても当時のシュルツェの音楽をアコースティック的展開にした趣きがあるもので、超不人気デュオ(実際あまり面白いアルバムがない)のヴィットゥーザー&ヴェストルップ(ヨルグ・メルケ含む)も、ユルゲン・ドラゼとジェリー・バーカーズのヴァレンシュタイン組も、ひょっとしたらW&Wやヴァレンシュタインのアルバムよりも冴えたプレイをしているのではないかと目を見張ります。
 アルバムがシュルツェの演奏するオルガンにアコースティック・ギターが絡んでやがてメロトロン・コーラスが重なって始まり、オルガンやピアノにフルートやグロッケンの響きが絡み、ゴロヴィンのヴォイスが被さりながら全体が深いリヴァーヴ感のかかった音像に断片的な楽器音がサウンド・コラージュされては消えていくこの音楽はサイケデリック度では『セヴン・アップ』や『タロット』を超えるもので、ゲッチングのアッパーでもあればダウナーでもあるエレクトリック・ギターではなくほとんどがアコースティック楽器ばかりのアンサンブルだからこそ表現できたソフト・サイケで、ここでのシュルツェのメロトロン演奏やドラゼのピアノ、アコースティック・ギターのスライド奏法を楽器自体ではなくミキシングによるエフェクト効果でエレクトロニクス的に加工するのはサウンド・エンジニアのダークスの腕前であるとともに、リハーサル段階でミュージシャンたちもテスト録音で効果を確認した上でのプレイと思われ、パワーで押していた『タロット』セッションよりも音作りはいっそう入念になっています。シュルツェが本作に果たした役割、本作からソロ作に持ち帰った成果は非常に大きなものと思われ、ゴロヴィンとドラゼの共作曲で本作唯一の小品(とは言え6分強)のA2ですら、アコースティック・ギターにヴォイスが絡む小品と思いきや大々的にフィーチャーされているのはシュルツェのメロトロン・コーラスです。本作がシュルツェ初期充実期の準リーダー作と見なせる必聴作なのは、シュルツェのタンジェリン~アシュ・ラ以来のドラムスで始まりヴォイスが始まるとメロトロン・コーラスが響くB面の大曲がそのままシュルツェのアルバムと言っても通る出来なのでもわかります。なお本作は1973年発売・月日不明でレコード番号はKK58.002、『タロット』が1973年10月発売でレコード番号がKK58.003ですから、発売順では本作が先かもしれませんが1972年12月録音の『タロット』に対して本作は1972年~73年録音と記録されていますので、『タロット』を先としました(豪華特典つきボックス仕様のため発売が後になったと考えられます)。本作は通常の1枚ものでゲイトフォールド・スリーヴ仕様という程度なので、ミックスとマスター完成は本作を優先したのかもしれません。