人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

チョコレート・ウォッチバンド Chocolate Watchband - ノー・ウェイ・アウト No Way Out (Tower, 1967)

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チョコレート・ウォッチバンド Chocolate Watchband - ノー・ウェイ・アウト No Way Out (Tower, 1967) Full Album + 3 : http://www.youtube.com/playlist?list=PL092D919A281820A8
Recorded at American Recording Studios, Los Angeles, California, Mid '67
Originally Released by Tower Records (under Capitol Records), Tower LP ST 5096, September 1967
Produced by Ed Cobb
(Side 1)
A1. Let's Talk About Girls (Manny Freiser) - 2:30
A2. In the Midnight Hour (Steve Cropper, Wilson Pickett) - 4:26
A3. Come On (Chuck Berry) - 1:50
A4. Dark Side of the Mushroom (Bill Cooper, Richard Podolor) - 2:26
A5. Hot Dusty Roads (Steve Stills) - 2:26
(Side 2)
B1. Are You Gonna Be There (At the Love-In) (Don Bennett, Ethon McElroy) - 2:24
B2. Gone and Passes By (David Aguilar) - 3:09
B3. No Way Out (Ed Cobb) - 2:25
B4. Expo 2000 (Podolor) - 2:33
B5. Gossamer Wings (Bennett, McElroy) - 3:34
(Bonus Tracks)
BT1. In the Midnight Hour (Cropper, Pickett) - 4:29 (Original David Aguilar Vocal Version)
BT2. Milk Cow Blues (Kokomo Arnold) - 2:57 (David Aguilar Vocal, Previously Unreleased)
BT3. Psychedelic Trip (Aguilar, Gary Andrijasevich, Bill Flores, Mark Loomis, Sean Tolby) - 1:57 (Instrumental, Previously Unreleased)
[ Personnel ]
< Chocolate Watchband >
David Aguilar - lead vocals (A3, B2 only)
Gary Andrijasevich - drums
Bill Flores - bass guitar
Mark Loomis - lead guitar
Sean Tolby - rhythm guitar
< Additional Technical Personnel >
Ed Cobb - producer (all tracks, and played on A4, B3, B4)
Bill Cooper - engineer (played on A4, B3, B4)
Richard Podolor - engineer (played on A4, B3, B4)
Don Bennett - lead vocals (A1, A2, A5, B1, B5)
Unknown - organ (all tracks)

(Original Tower "No Way Out" LP Liner Cover & Side 1/2 Label)

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 1965年にカリフォルニア州ロス・アルトスで学生バンドから生まれたチョコレート・ウォッチバンドは、翌1966年には地元のインディー・レーベルのアップタウン・レコーズから数枚のシングルを出し、メンバーの進学に伴ってカリフォルニア州サン・ホセに活動の中心を移し、フランク・ザッパマザーズ・オブ・インヴェンジョン('66年8月アルバム・デビュー)を初めジェファーソン・エアプレイン('66年8月アルバム・デビュー)、グレイトフル・デッド('67年4月アルバム・デビュー)の前座で名を上げたバンドです。音楽性はサイケデリック・ロックよりもガレージ・パンクの元祖と言える存在で、シングル・ヒットはチャート下位に1~2曲とセールス的には恵まれず、'70年までには解散し、オリジナル・ラインナップのアルバム枚数は3作しかないことでもザ・シーズ('66年4月アルバム・デビュー)やラヴ('66年3月アルバム・デビュー)、ザ・13thフロア・エレヴェーターズ('66年10月アルバム・デビュー)と比較されるバンドです。また同時代の作家、ノーマン・スピンラッドに言わせれば、'70年代のパンク・ロックなど偽物でチョコレート・ウォッチバンドのライヴなど身の危険を感じるほどだったそうで、スピンラッドはヴァイオレンスSFで売り出した小説家ですからこの証言には真実味があります。アルバム裏カヴァーにぎっしり書きこまれた名前はバンドの後援者になってくれたファンのリストらしく、これはザ・13thフロア・エレヴェーターズのデビュー・アルバム裏カヴァーでも同様の記載がありましたから、地元テキサスからロサンゼルスに巡業してくることも多かった13thのアルバムを真似たのかもしれません。ちなみに13thの仲間で、やはりテキサスから来てサンフランシスコのバンド、ビッグ・ブラザー&ザ/ホールディング・カンパニーに加入したのがジャニス・ジョプリンです('67年9月アルバム・デビュー)。
 しかしラヴやザ・シーズ、13thらが優れたアルバム内容や特異な存在感で伝説的なカルト・バンドになっているのに対し、アルバム・デビューの遅れたチョコレート・ウォッチバンドは'67年秋になっても後輩バンドのザ・ドアーズ('67年4月アルバム・デビュー、全米No.1ヒット曲「ハートに火をつけて」収録)の前座バンドにとどまり、しかも先にジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのデビュー・アルバム('67年5月発売)、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』('67年6月発売)と画期的なサウンド革新があった後にローリング・ストーンズの'63年6月発売のデビュー曲(チャック・ベリーのカヴァー)「カム・オン」、ウィルソン・ピケットのR&Bヒット曲のカヴァー「イン・ザ・ミッドナイト・アワー」を演っている、というセンスでは時流に乗り遅れた観がありました。またラヴやバッファロー・スプリングフィールド('66年11月アルバム・デビュー)、モビー・グレイプ('67年6月アルバム・デビュー)のようにメンバーの作曲力に恵まれたバンドでもありませんでした。ラヴの傑作『ダ・カーポ』は'66年11月、『フォーエヴァー・チェンジズ』は'67年11月の発表ですし、バッファローの傑作『アゲイン』は'67年10月発表ですが、ラヴやバッファロー、モビー・グレイプの傑作すら当時は即座に評価も商業的成功もしなかったのです。しかもチョコレート・ウォッチバンドのデビュー・アルバムは、キャピトル傘下の半ば自主制作用レーベル、タワーのプロデューサーのエド・コブにより、A面B面各5曲、合わせて28分そこそこの貧弱なヴォリューム中で3曲がコブとエンジニアがスタジオ・ミュージシャンと制作したサイケデリック調のインストルメンタル曲(A4, B3, B4)、さらにバンドのレパートリーからは4曲しか採り上げず(A1, A2, A3, B2)、その上チョコレート・ウォッチバンドのヴォーカリストのデイヴィッド・アギラーの力量に不満だったコブは目をかけていたヴォーカリストでソングライター、ドン・ベネットを起用して2曲のベネットの書き下ろし曲(B1, B5)を含む5曲(A1, A2, A5, B1, B5)のリード・ヴォーカルを執らせました。バンドのレパートリーだったA1, A2すらベネットのリード・ヴォーカルにされてしまったので、本来のメンバーのアギラーのリード・ヴォーカルはA3, B2の2曲しか入っていないのです。それでもベネットのヴォーカルはなかなかのもので、チョコレート・ウォッチバンドはセカンド・アルバム『The Inner Mystique』Jan.'68でもカヴァー2曲を含む全8曲全編27分中2曲を別のインストルメンタル・バンドの担当曲にされ、サード・アルバム『One Step Beyond』'69でようやく全7曲全編23分をすべてバンド自身によるバンドのオリジナル曲の演奏で収録しますが、ジリ貧状態のまま'70年には自然消滅してしまいます。アルバムも長いこと廃盤になっていましたが'83年に初のベスト・アルバムが発売されてからは次第に注目されるようになり、アルバムの再発売に伴ってオリジナル・メンバーのチョコレート・ウォッチバンドは1999年から再結成して活動を始め2001年には32年ぶりの新作『Get Away』発売、翌2002年に活動再開後のライヴ盤を発表し、新作も自主レーベル規模ながら『Revolutions Reinvented』2012、最新作『This Is My Voice』2019と結成55年の今なお健在です。いっそローリング・ストーンズはこの辺でチョコレート・ウォッチバンドやエレクトリック・プリューンズあたりを前座に起用してほしいものです。