人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

チョコレート・ウォッチバンド Chocolate Watchband - ワン・ステップ・ビヨンド One Step Beyond (Tower, 1969)

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チョコレート・ウォッチバンド Chocolate Watchband - ワン・ステップ・ビヨンド One Step Beyond (Tower, 1969) Full Album + 1 : http://www.youtube.com/watch?v=h7Ul4sMVrHg&list=OLAK5uy_k-8cjj9I4_hRxAlna6In7LTIO5PlfnFaA
Recorded Probably Late 1966 to 1969
Released by Capitol / Tower Records ST5153, 1969
Produced by Ed Cobb
(Side 1)
A1. Uncle Morris (Gary Andrijasevich, Mark Loomis) - 3:10
A2. How Ya Been (Danny Phay, Gary Andrijasevich) - 3:08
A3. Devil's Motorcycle (Gary Andrijasevich, Sean Tolby) - 2:59
A4. I Don't Need No Doctor (N. Ashford-V. Simpson) - 4:00
(Side 2)
B1. Flowers (Danny Phay, Gary Andrijasevich) - 2:48
B2. Fireface (Sean Tolby) - 2:49
B3. And She's Lonely (Mark Loomis, Sean Tolby) - 4:16
(Bonus Track)
Bt1. Blues Theme (Mike Curb) - 2:09 *The Hogs (Hanna Barbera 511, 1966)
[ Chocolate Watchband ]
Danny Phay - lead vocals
Sean Tolby - lead guitar
Mark Loomis - rhythm guitar, backing vocals
Bill Flores - bass guitar
Gary Andrijasevich - drums, backing vocals
with featuring guest
Jerry Miller - lead guitar (on A3)

(Original Tower "One Step Beyond" LP Liner Cover & Side 1/2 Label)

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 チョコレート・ウォッチバンドの第1作『ノー・ウェイ・アウト』'67は28分半全10曲中チョコレート・ウォッチバンドのメンバー全員による演奏が2曲しかなかったように(他8曲はスタジオ・ミュージシャンによる即席バンドやプロデューサーが連れてきたゲスト・ヴォーカリストの参加)、セカンド・アルバム『ジ・インナー・ミスティーク』も27分半全8曲中4曲はスタジオ・ミュージシャンによる即席バンドの演奏でチョコレート・ウォッチバンド自身の演奏は4曲、そのうち1曲はまたもやプロデューサーが連れてきたゲスト・ヴォーカリストが歌っているありさまでした。西海岸の'60年代後半のロック・シーンでチョコレート・ウォッチバンドは最凶のライヴ・バンドとして一部の熱狂的ファンに支持されましたが、レコードはキャピトル傘下の半自主制作盤レーベルのタワー・レコーズからしか出せず、しかもタワー・レコーズのプロデューサーのエド・コブはチョコレート・ウォッチバンドを流行のサイケデリック・ロックのバンドとして売り出そうとしていたので、元来ガレージ・バンクな演奏しかできないチョコレート・ウォッチバンドはみすみすコブのプロデュースに従ってしまい、その結果チョコレート・ウォッチバンドのアルバムなのにスタジオ・ミュージシャンの覆面バンドがサイケデリック・ロック風の演奏をしているのが収録曲の大半を占める、というのがデビュー・アルバムとセカンド・アルバムでした。しかも所詮は即席バンドのやっつけ演奏の上にチョコレート・ウォッチバンド自身はライヴでは演奏できない、ライヴのチョコレート・ウォッチバンドの音楽と全然違う、という弊害も出てくる。セカンド・アルバム発表後バンドの状態はジリ貧になっていました。本来のバンドのファンまで離れてしまったのですから当然です。また、チョコレート・ウォッチバンドの純粋なガレージ・パンクの音楽性が初期シングルの'66年頃ならともかく、この頃にはすっかり時代遅れになっていたのもありました。
 そしてバンドはサード・アルバム『ワン・ステップ・ビヨンド』でついに全曲バンドによる歌と演奏、というアルバムを実現します。しかし内容はデビュー後のヴォーカリストのデイヴ・アギラーが抜け、前身バンドのザ・ホッグス時代からのヴォーカリストのダニー・フェイ在籍時のデビュー・アルバム以前の録音に、フェイが復帰した5人のメンバーでヴォーカルや演奏のリテイク、リミックスをし直したものでした。アシュフォード&シンプソンの「アイ・ドント・ニード・ア・ドクター」のカヴァー1曲を除いてメンバー自作曲で固めた初のアルバムでもあるのですが、元の録音自体がデビュー・アルバム以前のレパートリーです。これだけのオリジナル曲がありながら前2作はなぜメンバー自作曲がないのかも不思議ですが、デビュー・アルバムがAB面28分半全10曲、セカンド・アルバムがAB面27分半全8曲と'67年~'68年のアルバム(アナログLP)としても収録時間が少なかったのに、サード・アルバムではAB面23分弱全7曲とさらに貧弱になっている。7曲まとめてもLPの片面に収まる収録時間です。当時のビートルズストーンズのLPの片面分にもおよびません。A面13分、B面は10分もありません。バンドをめぐる環境がジリ貧状態の上にデビュー・アルバム前の音源の手直し(A3にはモビー・グレイプのジェリー・ミラーのゲスト参加のリード・ギターが聴けますが、ほとんどのリスナーにはセールス・ポイントにならないでしょう)とは実に思い切ったことをやったもので、またジェリー・ミラーの参加のみならず本作の作風はメンバー自作曲の曲想もあってモビー・グレイプに近いもので今聴けばなかなか良いのですが、モビー・グレイプも商業的惨敗を舐めたバンドでした。本作は収録時間(収録曲)の少なさ、時流外れの内容もあってまったく評判にならず、セールスも激減し、バンドは翌年解散に追いこまれてしまいます。また1999年の再結成以降の活動はデイヴ・アギラーが中心にデビュー・アルバムとセカンド・アルバム時のレパートリーを中心としているため本作は顧みられることの少ないアルバムになっています。しかしサード・アルバムでようやく全編バンド自身の演奏、しかもデビュー・アルバム以前の音源の手直し、さらにそれがラスト・アルバムとは当時の数々のバンドにあっても似た例が思いつかないので、チョコレート・ウォッチバンドは3作アルバムがあっても実態のつかめない謎が残ります。映像はおろか全盛期の発掘ライヴ、純粋なスタジオ・ライヴ音源すら出ていないので、ロンドン・パンクなど偽物だとさえ言わしめた全盛期の最凶のライヴ・バンドぶりは想像するしかない。それには3作のアルバムと再結成後のバンド自身による'60年代2CD全音源集『Melts in Your Brain...Not On Your Wrist!』2005だけしか手がかりがないのです。