人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ポール・チェンバース Paul Chambers - ジョン・ポール・ジョーンズ John Paul Jones (Jazz West, 1956)

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ポール・チェンバース Paul Chambers Quartet - ジョン・ポール・ジョーンズ John Paul Jones (John Coltrane) (Jazz West, 1956) : https://youtu.be/D0395h6ksu8 - 6:56
Recorded at Western Recorders, Los Angeles, March 1 or 2, 1956
Released by Jazz West Records as the album "Chambers' Music", JWLP 7, September 1956
[ Paul Chambers Quartet ]
Paul Chambers - bass, John Coltrane - tenor saxophone, Kenny Drew - piano, Philly Joe Jones - drums

 この曲は僅差でポール・チェンバースの方が先に西海岸のインディー・レーベルへの自分のアルバムで録音し、2か月後にプレスティッジ・レコーズに録音されたマイルス・デイヴィスのアルバムがマイルスのコロンビア・レコーズへの移籍に伴って意図的に発売延期されたためにチェンバース版の方が先に発売されました。もともとこれはマイルス・クインテット在籍時のジョン・コルトレーンがマイルスに提供した曲で、マイルスのアルバムでは「Trane's Blues (a.k.a."Vierd Blues")」というタイトルになっていますが原題は最初から「ジョン・ポール・ジョーンズ」だったそうで、クインテットのメンバーでマイルスとピアノのレッド・ガーランド抜きでコルトレーンとチェンバース、フィリー・ジョー・ジョーンズが練習中にたまたまできた曲なので三人の名前を並べて「ジョン・ポール・ジョーンズ」としたのが曲名の由来になるそうです。コルトレーンはピアノ抜きでベースとドラムスだけをバックに吹くのが得意で、チェンバースとジョーンズとは気心の合う親友になったそうですから(親分のマイルスは誰とも打ち解けない気難しい性格でした)、コルトレーンにとっては親分のマイルス抜きにチェンバースとフィリー・ジョーと一緒に演奏したチェンバース版の方がのびのびと自作曲を吹けたかもしれません。曲自体は手癖のようなリフ・ブルースでどうというような曲ではないのですが、モダン・ジャズの器楽ブルースはこうした簡素でくつろいだ味が良いので、同じ黒人音楽でブルースでもR&B系の音楽の熱い情感やヘヴィーさとは違うクールな軽やかさがジャズならではの洗練された性格と言えるので、これはこれで過不足のない充実した演奏です。

 しかし同じ曲をマイルスのクインテットが演奏するとどうなるか。たった2か月後、しかもメンバーはコルトレーン、チェンバース、フィリー・ジョーと3人までチェンバース版と同じなのに、緊張感や楽曲から受ける感じがまるで違います。タイトルの改題はプレスティッジが既出曲との重複を避けて勝手に改題したらしいですが、マイルスという怖いリーダーが指揮するだけでこんなに変わってしまうのか、というくらいコルトレーンのテナーもフィリー・ジョーのドラムスもいきなり気合いの入ったものになっている。テンポがはっきりと速いのは聴いてすぐわかりますが、ライン自体はあまり変わらないチェンバースのベースもこのテンポのせいで加速感が増している。テーマと先発ソロを執るマイルスのトランペットが鋭角的かつ広い空間性を感じさせるので、単純なリフ・ブルースが非常にポテンシャルの高いアドリブを生み出す舞台になっている。つまりスケールのでかさが格段に違う。チェンバース版が飲み屋や狭いジャズ・クラブを賑やかす演奏なら、マイルス・クインテット版はコンサート会場や野外フェスティバルの大舞台に堂々と響きわたる格の大きさがあります。この2ヴァージョンはマイルス版の方が圧倒的に有名なので、マイルス版の演奏が当たり前に耳になじんでしまっているリスナーの方が多いでしょうが、実はこんな他愛ないブルース曲でもとんでもない大手腕が働いていることがチェンバース版「ジョン・ポール・ジョーンズ」と聴き較べると唖然とするほど伝わってくる。しかも実際にはおそらくチェンバース版の方が作者コルトレーンの意図がそのまま表現されている演奏です。こういうところに単純にはひとつの正解というものがないジャズの面白さがあります。

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The Miles Davis Quintet - Trane's Blues (a.k.a."Vierd Blues") (John Coltrane) (Prestige, 1959) : https://youtu.be/HUpAPd21WNU - 8:35
Recorded at Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, New Jersey, May 11, 1956
Released by Prestige Records, Prestige PRLP 7166, September 1959
[ The Miles Davis Quintet ]
Miles Davis - trumpet, John Coltrane - tenor saxophone, Red Garland - piano, Paul Chambers - bass, Philly Joe Jones - drums