サン・ラ Sun Ra - スペース・イズ・ザ・プレイス Space Is The Place (Blue Thumb, 1973)
Recorded at Streetville Recording Studio, Chicago, October 19 & 20, 1972
Originally Released by Blue Thumb Records BTS-41, 1973
CD Reissued by Universal/Impulse! Records IMPD-249, 1998
Produced by Alton Abraham & Ed Michel
All Composed and Arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Space Is The Place : https://youtu.be/dokLwszdUgY - 21:14 (lead vocal by June Tyson)
(Side B)
B1. Images : https://youtu.be/VAyqzWpm66Q - 6:15
B2. Discipline 33 : https://youtu.be/0k5gmuKc6J8 - 4:50
B3. Sea Of Sound : https://youtu.be/TD4Cozfa8LQ - 7:42
B4. Rocket Number Nine : https://youtu.be/DxhsGrZed_E - 2:50
[ Sun Ra and His Intergalactic Solar Arkestra ]
< collective personnel >
Sun Ra - piano, space organ
Akh Tal Ebah - trumpet, flugelhorn, vocal
Kwame Hadi (Lamont McClamb) - trumpet
Marshall Allen, Danny Davis - alto saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone, vocal
Danny Thompson - baritone saxophone, flute, vocal
Eloe Omoe - bass clarinet, flute
Pat Patrick - electric bass, baritone saxophone, vocal
Lex Humphries - drums
Atakatun (Stanley Morgan), Odun (Russell Branch) - percussion
June Tyson, Ruth Wright, Cheryl Banks, Judith Holton - Space Ethnic Voices
*
(Original Blue Thumb "Space Is The Place" LP Liner Cover & Inner Left/Right Gatefold Cover)
このブログではヤフーブログ時代にサン・ラ(1914-1993)の生前発表の全アルバム、没後発表のほとんどのアルバムをご紹介していますが、5年前に連載した記事なので音源リンクが消滅していたり当時は音源リンクが揃わなかったアルバムもあります。サン・ラは生前発表のアルバムだけでも軽く120作を超える、20世紀ジャズでもセロニアス・モンクやチャールズ・ミンガス、マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンと並ぶモダン・ジャズ史上の巨人の上に'50年代から'90年代まで50年間以上に渡って巨大な業績を持つミュージシャンにもかかわらず、先に上げた有名ジャズマンに較べると活動の全容があまり知られていない裏番長的な存在ですので「サン・ラを聴いてみたいがどのアルバムが代表作かわからない」「数枚聴いてみたがよくわからなかった」「サン・ラはいったいどういうジャズをやっていた人だったのか?」と踏みとどまっているリスナーも多いと思います。ブログの過去記事をご覧いただいてもあまりにアルバム数が膨大ですし、やっている音楽の性質上、やはり全アルバム(ただし2000年まで)をご紹介したドイツのロックの巨人クラウス・シュルツェ(1947-)のように第1作から順に聴いていけば自然と発展がたどれるような音楽家でもない。モンク、ミンガス、マイルス、コルトレーンらは同じジャズマンでも初期から晩年までのキャリアをアルバムでたどればはっきり音楽的道筋がつかめるミュージシャンですが、サン・ラのジャズは複数の音楽的指向が絡みあって屈曲しており、傑作と見なせるアルバムを10作上げてもこれが同一ミュージシャンの音楽かと首をひねるくらいに多彩です。ミンガス、マイルスやコルトレーン、ビル・エヴァンス、セシル・テイラー、オーネット・コールマン、ローランド・カークらもやはり非常に多彩な業績を残したジャズマンですが、ミンガスやマイルスらは年代を追っていけば音楽的な指向の変化や試行錯誤がちゃんと見分けられる。発想の根が混沌としていて謎めいているジャズマンにはレニー・トリスターノ、バド・パウエル、エリック・ドルフィーらがいますが、トリスターノやバド、ドルフィーは音楽性が非常に個人的だったのに対してサン・ラの場合は極端な集団即興性が類を見ない混沌をなしていて、シンプルなトリオ編成やシンセサイザー・ソロ、ピアノ・ソロ(サン・ラはピアノ・ソロのアルバムより先にシンセサイザー・ソロのアルバムを制作したジャズマンです)でさえも発想の根に集団即興があると言えるのです。
そんなジャズマンですから初めてサン・ラの音楽を聴く方にはどのアルバムをお薦めしたものか迷うのですが、この1973年(1972年録音)の『スペース・イズ・ザ・プレイス』はサン・ラの全アルバムでももっともポップでキャッチーな作品で、最高傑作とは言わずともポップさがサン・ラの音楽の本質と違和感なく融合し、ジャズのリスナーならずとも普通のポップス、ロックのリスナーにも楽しめるものです。サン・ラはシカゴに拠点を置いたジャズマンでしたが、ニューヨークでも西海岸のロサンゼルスでもない第3の都市シカゴを出自とするだけある都会的かつ土着的、かつサン・ラらしいスペーシーなジャズ・ファンクが生き生きとしている、サン・ラ作品中でも折衷的作風が成功したアルバムです。サン・ラはコアなファン向けの実験的アルバムは自主レーベルのサターンから膨大にリリースしていましたが、本作は黒人大衆音楽の大手インディー・レーベル、ブルー・サムからの唯一のサン・ラ作品のリリースで、ジャケットからアルバム内容まで幅広い層のリスナーに送る、しかもサン・ラ本来の音楽性は妥協しない点でも大成功しており、最新の新曲「スペース・イズ・ザ・プレイス」をLPのA面21分に渡ってサン・ラのバンド、サン・ラ・アーケストラの歌姫ジューン・タイソンのヴォーカル・チューン版にしたのも魅力です(同曲はライヴではバンド全員とコーラス隊の合唱曲として演奏されていたナンバーでした)。新曲は同曲とB2「ディシプリン」(キング・クリムゾンより先のネーミング)とB4「シー・オブ・サウンズ」で、B1「イメージズ」は1959年録音(同年発表)のアルバム『Jazz in Silhouette』、B4の合唱曲「ロケット・ナンバー・ナイン」は1960年録音(1966年発表)のアルバム『Interstellar Low Ways』からの再演ですが、まったく違和感ない'70年代のサン・ラ・アーケストラのサウンドに生まれ変わっています。「イメージズ」はマイルスより早くモード・ジャズをやっていた実験的な曲、「ロケット・ナンバー・ナイン」はシカゴの隣の工業都市デトロイトのプロト・パンク・バンドのMC5の改作ロック・ヴァージョン・カヴァー(アルバム『Kick Out The Jams』1969)や最近ではレディ・ガガのカヴァーでも知られており、両曲とも初演のサターン盤アルバム・ヴァージョン以来サン・ラ・アーケストラのライヴの定番曲として演奏年代ごとにアレンジ、編成を変え'90年代まで再演される代表曲です。コアなジャズ・リスナーならずともポップなコスミック・ジャズ・ファンクとして気軽に親しめ、しかもこれが全体像ではなくてもサン・ラの音楽的本質が十分に凝縮され発揮されたアルバムとして、本作は幼稚園の運動会からドライブ、夕食のBGM、ダンスフロアまで場所を選ばす楽しめるアルバムです。巨大なサン・ラ音楽の全容から見れば巨匠のデッサンのような軽さがありますが、本作はその軽さがサン・ラの音楽を親しみやすくした一作で、何十枚やほとんど全部サン・ラのアルバムを聴いても飽きのこない気さくさがあります。初めてサン・ラを聴くという方には、メジャーのユニバーサル/インパルス!盤CDが手軽に入手できる本作は格好なアルバムで、これをお気に入りになればさらに170枚あまりのサン・ラのアルバムが待っているのです。
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