人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

サン・ラ Sun Ra and his Solar Myth Arkestra - ライフ・イズ・スプレンディド Life is Splendid (Total Energy, 1998)

サン・ラ - ライフ・イズ・スプレンディド (Total Energy, 1998)

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サン・ラ Sun Ra and his Solar Myth Arkestra - ライフ・イズ・スプレンディド Life is Splendid (Total Energy, 1998) : https://youtu.be/OWn27X9cYDU
Recorded live at Ann Arbor Blues and Jazz Festival, Ann Arbor, Michigan. September 10, 1972
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Originally Edit Version Released by Atlantic Records SD 2-502 as the 2LP album "Various Artists - Ann Arbor Blues & Jazz Festival 1972", Side D4.
Released by Total Energy Records NER3026 (CD & LP), 1998
Produced and Supervised by John Sinclair
All written & arranged by Sun Ra.
(Originally Atlantic Edit Version)
D4. Life is Splendid : https://youtu.be/ToZ7RjXKDZ0 - 6:05
(Side 1)
A1. Enlightenment - 2:11
A2. Love in Outer Space - 4:59
A3. Space is the Place/Untitled Improvisation - 13:56
(Side 2)
B1. Discipline 27-II~What Planet is This?~Life is Splendid~Immeasurable - 7:39
B2. Watusi - 7:04
B3. Outer Spaceways Incorporated - 1:48

[ Sun Ra and his Solar Myth Arkestra ]

Sun Ra - organ, Moog-synthesizer
Akh Tal Ebah - trumpet, fluegehorn
Lamont McClamb (Kwame Hadi) - trumpet
Marshall Allen, Danny Davis - alto saxophone, flute
Larry Northington - alto saxophone
John Gilmore - tenor saxophone
Pat Patrick - baritone saxophone
Danny Thompson - baritone saxophone, flute
Leroy Taylor (Eloe Omoe) - bass clarinet
Lex Humphries, Alzo Wright - drums
Stanley Morgan (Atakatune), Russell Branch - conga, percussion
Robert Underwood, Harry Richards -percussion
June Tyson, Judith Holton, Cheryl Banks, Ruth Wrigh - vocal, dance

(Original Total Energy "Life is Splendid" LP Liner Cover)
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 本作はヴァリアス・アーティストによる2枚組オムニバスLP『アン・アーバー・ブルース・アンド・ジャズフェスティバル』として1973年当時日本盤も出ていたサン・ラ・アーケストラも出演した黒人音楽フェスティヴァルからアーケストラの出演分を発掘したもので、オムニバス盤では各アーティストの19曲を収めたD面最後に「Life Is Splendid」として6分5秒だけアーケストラの演奏の編集抜粋が収められていました。このフェスティヴァルは政治活動家のジョン・シンクレアが主宰となって1969年から行われていたもので、当初はロック色・政治色が強かったものが1972年からジャズとブルース中心の黒人音楽フェスティヴァルに性質を変えたもので、サン・ラはほぼ毎年出演しており、翌1973年、翌々年の1974年の出演も発掘発売されています。この1972年のステージではアーケストラはトランペット2人、木管楽器7人、ドラマー2人、コンガ2人、パーカッション2人の16人編成に女性ヴォーカル&ダンサー4人の大編成で出演しており、オムニバス盤では「Discipline 27-II~What Planet is This?~Life is Splendid~Immeasurable」のメドレー・パートが「Life Is Splendid」として編集抜粋されていたのですが、発掘された約38分も欠損があるらしくアーケストラの持ち時間は約1時間だったそうですからほぼ20分が未収録(欠損または短縮)されています。全曲はシームレスのメドレー形式で演奏され、このフェスティヴァルが行われた月にスタジオ録音されたアルバム『Space is the Place』と『Discipline 27-II』の主要曲が演奏されています。いわば名盤『Space is the Place』『Discipline 27-II』がアルバム制作真っ最中のライヴ・ヴァージョンで聴けることから内容は非常に価値が高いのですが、ヴォーカルとパーカッションが前面にミックスされており管楽器の音がオフになっている録音上の不具合があり、ヴォーカル中心にミックスされているために元々の曲にあったブルース、ゴスペル色が強調されており、ジャズのリスナーよりもブルースやファンクのリスナーに強くアピールするサウンドになっているのが特色でもあります。また1972年のサン・ラ・アーケストラの発掘ライヴは数多いのですが、アーケストラ単独ライヴではパーカッション・アンサンブルだけで20分~30分続くようなパートがフェスティヴァル出演の時間的制約もあってスタジオ録音と同等程度にコンパクトに凝縮された演奏になっているのも親しみやすい点でしょう。

 本作の惜しむべくは、正式に大手のアトランティック・レコーズから発売れるためにライヴ収録されていたにしては音質・ミックスともに相当荒っぽいのですが、サン・ラとアート・アンサンブル・オブ・シカゴ(アート・アンサンブルのステージは独立してライヴ盤『Bap-tizm』として発売されました)以外の出演アーティストはマイルス・デイヴィス、マリオン・ブラウンら数組以外はモダン・ブルース、R&B、ファンク系のアーティストであり、サン・ラもあえて聴衆を意識したブルース~ファンク~ゴスペル色の強い、楽曲単位ではコンパクトなステージ構成で出演したものと思われます。ヴォーカルがオンすぎる荒っぽい録音もビッグバンド・ジャズではなくR&B系の音楽と思えばこのライヴでは納得いくものでしょう。この年6月・8月のニューヨークのジャズ・スポット、スラッグス・サルーンのライヴを発掘した6枚組CD『Live at Slug's Saloon』が1ステージCD3枚・3時間にもおよぶコアなマニア向けの内容なのに対して、本作はむしろビ・バップ系黒人主流ジャズよりもポップスやロックなどの広いリスナーにアピールするライヴ・アルバムになっています。60分のフル・ステージでも十分凝縮された密度の高い演奏だったでしょうから20分の欠損は残念ですが、9月9日と10日のフェスティヴァルで25組あまりものアーティストが出演したそうですから録音体制も万全ではなかったのでしょう。アーケストラのテーマ曲「Enlightenment」の前に長いパーカッション・アンサンブルで客席を沸かせてからステージが始まったと思われますが、その分はサン・ラの前に出演したハウリン・ウルフ(!)の撤収で録音し損ねた可能性が大きそうです。9月10日の大トリがサン・ラなら前日9日のトリはマイルス・デイヴィスだったろうと想像され、1988年の来日公演の野外コンサートでマイルスが大トリ、その前の出番はサン・ラとこの二者が意外なところで接点があり、1972年の時点ですでに音楽性も接近していたことを思うと悩ましくなります。本作は資料的な発掘ライヴ以上に楽しめる好ライヴで、せめて音質・ミックスさえもうちょっと良ければと惜しまれるアルバムです。